HPから“スマートフォン、タブレット、PCに求められる要素を1台に”という新たなコンセプトを打ち出した13.5型2in1「HP Elite Folio」が発売された。低消費電力のArm系CPUの採用で最大21.1時間のバッテリ駆動を実現、5G対応のeSIMおよびNano SIMスロットを搭載、3つのモードをシームレスに切り換え可能とビジネスでもプライベートでも便利に使えるスペックと機能が揃っている。
直販価格はメモリ8GBでSSD 256GBのモデルが20万9,000円、
メモリ16GBでSSD 512GBのモデルが23万1,000円となる。なお、執筆時点ではキャンペーンが開催されており、台数限定でそれぞれ2~3万円ほど安くなったモデルも販売されている。
今回はメモリ8GB、SSD 256GBのモデルを使ってレビューをお届けしたい。
Arm系CPUの「Qualcomm Snapdragon 8cx Gen2」を搭載
HP Elite Folioを語る上で、まず外せないのがCPUだろう。IntelやAMDによるx86系ではなく、Arm系のSoC「Qualcomm Snapdragon 8cx Gen2」を採用。8コアで動作クロックは最大3GHzでありながら、TDPはわずか7Wと高性能とハイレベルな省電力性を両立している。
ただ、大きく異なるのはOSがArm版Windows 10となり、64bit版(x64)のアプリが動作しないこと。Webブラウザ、Microsoft Office、Zoom、Teams、Slackなどビジネスにおいて必須と言えるアプリは32bit版(x86)やArm系CPUにネイティブ対応するARM64バージョンがあるので、仕事にはそれほど困ることはないが、64bit版しか存在していないアプリも非常に多い。特に顕著なのがゲームだ。
ただ、Arm版Windows 10のプレビュー版ではx64のアプリが動作するバージョンが公開されているのに加え、Windows 11では標準でx64のアプリ動作をサポート(どちらもエミュレーションだが)しており、今後この状況は改善する可能性は高い。ARM64バージョンのアプリも徐々に増えつつある。
Arm版Windowsのアプリの動作の仕組みについては、以下の関連記事が詳しいので参照されたい。
試用機のメモリがLPDDR4Xの8GB(4GB×2)、ストレージがNVMe SSDの256GBだった。直販専用にはメモリ16GB(8GB×2)、ストレージ512GBのモデルも用意されている。そのほかのスペックは共通で、GPUにはQualcomm Adreno 690 Graphicsを搭載している。
【表1】HP Elite Folioの仕様 | ||
---|---|---|
CPU | Snapdragon 8cx Gen2(3GHz) | |
GPU | Adreno 690 Graphics | |
メモリ | LPDDR4X 8GB | LPDDR4X 16GB |
ストレージ | NVMe SSD 256GB | NVMe SSD 512GB |
液晶 | 13.5型WUXGA+(1,920×1,280ドット) | |
OS | Windows 10 Pro | |
インターフェイス | USB 3.0 Type-C×2(5Gbps)、Webカメラ、クアッドスピーカー、音声入出力端子 | |
無線 | Wi-Fi 6、Bluetooth 5 | |
WWAN | Qualcomm Snapdragon X55 5G | |
本体サイズ | 298.6×229.6×16.1mm(幅×奥行き×高さ) | |
重量 | 約1.33kg | |
直販価格 | 20万9,000円 | 23万1,000円 |
用途に合わせて変型できる3モード
続いて、本体をチェックしていこう。ビジネス向けらしくブラック貴重のシンプルなデザインだが、天板と底面は人工的に革の繊維構造を再現したヴィーガンレザーを採用しているのが特徴。
手帳のような手触りで、ノートPCというよりも仕事で使う文房具の一つという気分になる。ディスプレイのベゼルとバッテリのフレームに90%の再生素材を使用するなど、環境負荷の軽減にも貢献している。
非常にユニークなのがディスプレイのギミックだ。通常キーボード一体型の2in1では、ディスプレイを180度回転させることでタブレットモードに変型させるパターンが多い。
しかし、HP Elite Folioはディスプレイの下半分が天面から外れる構造にすることで、キーボードの上にディスプレイの画面側が被さるように変型。ディスプレイを180度回転させるタイプだとキーボードが底面側になってしまうのが気になるところだが、HP Elite Folioはそれを見事に解消している。
また、ディスプレイをタッチパッドの手前で止めることも可能。HPではそれをメディアモードと呼んでおり、動画を楽しむのにピッタリと言える。
本体の重量は公称で約1.33kgで、サイズは298.6×229.6×16.1mm(幅×奥行き×高さ)。薄型ではあるが、ディスプレイが13.5型であることを考えるとそれほど軽くはない。
しかし、4セル(46WHr)のリチウムイオンポリマーバッテリを搭載し、省電力CPUと相まって最大で約21.1時間(JEITA測定法Ver2.0)もの長時間バッテリ駆動を実現。これぞ“1日使っても安心のノートPC”と言い切っていいだろう。
実際PCMark 10のBattery(Applications)のテスト(輝度は50%に設定)では、バッテリ残り5%で16時間8分を記録。Microsoft Officeの処理とそこそこ負荷の高い作業を続けるので、一般的な使い方であればバッテリ駆動時間はもっと延びるだろう。
使いやすいキーボードを採用
キーボードは、クセのない日本語配列で使いやすい。矢印キーも独立しており、長時間の文字入力も苦にならない。キーピッチは実測で約19mmと十分な広さが確保されている。
一番上部のキーは輝度調整、音量調整、キーボードバックライトの調整、機内モードへの切り換えなどが割り当てられており、左下の「Fn」キーと組み合わせることで一般的なファンクションキーとして動作する。タッチパッドはクリック一体型のタイプで、110×65mm(幅×奥行き)と十分広い。
性能チェックできるアプリは限られる
次にベンチマークで基本性能をチェックしてみよう。x64アプリが動かないので実行できるテストはどうしても限られる。PCの総合的な性能を測る定番の「PCMark 10」はMicrosoft Officeの処理を行なう「Applications」だけが実行可能だった。そのほか、「ドラゴンクエストX ベンチマーク」、「CrystalDiskMark」でテストを行なっている。
【表2】HP Elite Folioのベンチマーク結果 | |
---|---|
PCMark 10 | |
PCMark 10 Applications | 5,461 |
Word | 3,878 |
Excel | 7,748 |
PowerPoint | 6,195 |
Edge | 4,781 |
ドラゴンクエストX ベンチマーク | |
1,280×720ドット 標準品質 | 3,360 |
1,280×720ドット 最高品質 | 3,246 |
SSDをCrystalDiskMark 8.0.4で計測 | |
1M Q8T1 シーケンシャルリード | 3,085.02 MB/s |
1M Q8T1 シーケンシャルライト | 1,516.57 MB/s |
1M Q1T1 シーケンシャルリード | 1,257.73 MB/s |
1M Q1T1 シーケンシャルライト | 662.3 MB/s |
4K Q32T1 ランダムリ-ド | 29.02 MB/s |
4K Q32T1 ランダムライト | 65.01 MB/s |
4K Q1T1 ランダムリ-ド | 16.42 MB/s |
4K Q1T1 ランダムライト | 24.24 MB/s |
PCMark 10 Applicationsのスコアは、Snapdragon 8cx Gen2の結果として妥当なところ。同じArm系CPUのMicrosoft SQ2を採用するSurface Pro Xとほぼ同スコアだ。「ドラゴンクエストX ベンチマーク」は、普通と評価されるスコア。動作さえすれば、軽めのゲームはプレイできるだけのグラフィック性能はあると言えるだろう。
ストレージは、シーケンシャルリードが3,085.02MB/s、シーケンシャルライトが1,516.57MB/sと、PCI Express 3.0接続のNVMe SSDとして十分な速度を持っている。HP Elite Folioのレスポンスのよさに貢献している部分だろう。
x64アプリが動かないのでゲームを楽しむには向かないが、Microsoft StoreからダウンロードしたMinecraft for Windows 10は問題なく動作し、デフォルトの設定で概ね60fpsで動くのを確認できた。CPUとGPUにはそれなりにパワーがあるだけに、ARM64対応のアプリやゲームが増えることを期待したいところだ。
駆動時間を重視するビジネスマンにはよい選択肢
公称で最大21.1時間というバッテリ駆動は何よりも魅力。いつでもどこでも駆動時間を気にせずPCを使いたい人にとってはよい選択肢になるだろう。メディアモードやタブレットモードに変型するためのギミックもおもしろく、使っていて楽しい1台なのも確か。
価格が高め、x64アプリは動かないなど気になる点もあるが、HP Elite Folioが正式にWindows 11へのアップデートに対応すればアプリ問題はかなり解決できると思われる。現在のところ、Arm版Windows 10を使える最高峰の1台に仕上がっているのではないだろうか。
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