太平洋島嶼国への支出激減に透ける「一帯一路」の凋落

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前拙稿「マクロンの対米妥協の裏に見える「一帯一路」の凋落」では、豪州への潜水艦ビジネスを横取りされたマクロン仏大統領の米国への妥協を枕に、米William & Mary大学の研究機関「Aid Data」が9月29日に発表した中国の「一帯一路」イニシアチブ(BRI)の実態について書いた。が、同じ日に豪州のシンクタンク「ローウィ研究所」が「太平洋援助マップ」で太平洋島嶼国への援助について触れているので、本稿はその中国部分を紹介する。

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同所のサイトに拠れば同研究所は、シドニーに所在する独立無党派の国際政策シンクタンクで「豪州と世界を形作る国際的なトレンドに関する質の高い調査と独特の視点を提供」することによって、「世界情勢での重要な問題について豪州に大きな発言権を与えること」を目的としているそうだ。

創立者のフランク・ローウィACについて述べれば、彼は30年にチェコスロバキアで生まれたユダヤ人で、ハンガリーのゲットーで育った。父がアウシュビッツで死んだことは後年になって知った。戦後フランスに行き、後にパレスチナに向うが、そこを委任統治する英国に捕まってキプロスに抑留される。48年には第一次中東戦争にも参加した。

52年に彼は豪州に渡り、小物を配達する事業を始めた。翌年、移民仲間のジョン・サンダースがビジネスパートナーに加わり、シドニー郊外にウェストフィールド開発会社を設立、その後の30年間で二人は豪州と米国にショッピングセンターを持つに至る。87年にサンダースが引退後、ローウィはニュージーランドとイギリスにも会社を設けた。

彼は95年から10年間、豪州準備銀行の取締役に任命された。80歳になったローウィは10年、ウェストフィールドグループの非常勤会長となって息子二人に事業を任せ、15年には会長も辞任した。16年の純資産は82.6億豪ドルと評価され、豪州随一の富豪といわれた。

ローウィ研究所は、彼の在豪州50周年を記念して03年に3千万豪ドルを寄付して創設した、外交問題に特化したシンクタンク。篤志家のローウィACは他にも、08年にビクター・チャン心臓研究所(寄付金額未公開)、10年に豪州小児癌研究所とニューサウスウェールズ大学医学部の共同センターに1,000万豪ドルを寄付した。ACとは「Companion of the Order of Australia(豪州勲爵士)」の称号。

外国にばかり金を落として、日本には貢献しない高額所得者の柳井某や似鳥某に爪の垢を煎じて飲ませたいが、我執に凝り固まった輩の顔に何とかだろうか。

「太平洋援助マップ」に戻る。この成果は、太平洋島嶼国に対して援助を実施した66カ国と数万の援助プロジェクトを網羅したローウィ研究所のデータベースにあり、それに拠れば、北京の太平洋島嶼国への援助は、19年は前年比31%減の1億6900万ドル(約189億円)となって、過去10年間で最少を記録したという。

ここでいう太平洋島嶼国とは、仏領ニューカレドニアと仏領ポリネシアを除く同地域の主権国家14ヵ国、すなわちパプアニューギニア、フィジー、バヌアツ、クック諸島、パラオ、サモア、トンガ、ソロモン諸島、マーシャル、ミクロネシア連邦、ツバル、キリバス、ナウル、ニウエを指す。

北京は近時、この地域での影響力を拡大すべく外交活動を活発化させて来、習近平国家主席は18年末にはパプアニューギニアを国賓訪問した。それもあってか19年9月、ソロモン諸島とキリバスが相次いで台湾と国交を断絶し、北京と国交を樹立した。同地域ではないが18年8月には中米のエルサルバドルも台湾と断交している。

この結果、現時点で台湾と国交を有する国は、この地域の4ヵ国、ツバル、マーシャル諸島共和国、パラオ共和国、ナウル共和国の外、中南米・カリブのグアテマラ、パラグアイ、ホンジュラス、ハイチ、ベリーズ、セントビンセント、セントクリストファー・ネーヴィス、ニカラグア、セントルシアの9ヵ国、欧州のバチカン、そしてアフリカのエスワティニの15ヵ国となった。

さて、16年のピーク時には2億8700万ドル(約321億円)に達していた北京の、19年の1億6900万ドルへの減少について、同研究所太平洋諸島プログラムのプライク部長は「これまでの数年間、中国は一貫して関与を強めてきたが、19年には援助の急激な減少が見られ、これは予想外だ」と指摘する(9月30日のEpoch Times)。

長年同地域を支援してきた日米豪とニュージーランドは、ここへ来て北京の「一帯一路」構想に代わるプロジェクトを提供する取り組みを強化している。19年の同地域への援助総額は24億4000万ドル(約2732億円)で、豪州は最多の8億6400万ドル(約967億円)、ニュージーランドは2億5300万ドル(約283億円)、日本は1億7920万ドル(約200億円)と続き、北京を凌いだ。

プライク部長は「太平洋島嶼国にとっては選択肢が増え、北京のプロジェクトよりも条件の良い取引ができる」とし、「北京のプロジェクトの多くが期待通りの成果を上げていないため、彼らは何のために借金をするのかについて、少し賢くなった」と指摘、「北京の関心は他に向いているのかもしれないが、何れにせよ、北京が世界規模で財布の紐を締めていることは確かだ」とは付け加えた(前掲紙)。

前拙稿で触れた「Aid Data」論文と同様に「北京のプロジェクトの多くが期待通りの成果を上げていない」と結論付けている。バイデンが6月にロシア訪問前に欧州を訪れG7に出席したことを、筆者は「米露会談の勝者は僅差でプーチン:習近平は場外で惨敗」と拙稿に書いた。

その拙稿はもっぱら米露会談の成果に触れたものだったが、バイデンがG7に加えてEUやNATOとも会談し、北京の「一帯一路」に対抗する「Build Back Better World」イニシアチブを発表したことには深い意義があったといえる。やはり、習近平は惨敗したようだ。