お絵描きド素人がイラストを描き始め、独学で約1年経った結果 → 試行錯誤と知った楽しさ、生じた悩み

ロケットニュース24

推しキャラクターがもっと見たい──それだけを動機に絵を描き始め、約1年が経過した。美術の経験は中学までの授業のみ。しかも面倒で大嫌いだったので、申し訳ないが授業中寝ていたほどだ。にも関わらず、この約1年間は誇張なく、後述する「空白の1カ月」を除きほぼ毎日絵を描いていた。

この約1年で絵を描く楽しさを痛感したが、「空白の1カ月」ができるほど悩んだこともあった。残念ながら1年で劇的に上手くなったわけではないが、もしかしたらそんな筆者の1年を知ることで、心が軽くなる方もいるかもしれない。少し長くなってしまったが、約1年間の試行錯誤とともに、知った楽しさと悩みも正直にご紹介したい。

・初めて知った絵を描く楽しさ

まずは2020年3月末に生まれて初めて描いた推しキャラクターの正面顔と、それから約1年後の2021年6月に描いた同じキャラの正面顔をご覧いただきたい。2020年5月からほぼ毎日絵を描き、約1年間を費やした結果がこれだ。

この2枚を見比べて、「1年毎日描いていたわりに上手くなっていない」と思われた方も多いと思う。ただ、ド素人の筆者としては「思っていたより上手くならなかったが、一応上達はした」と思っている。怠け者のリアルな成長ぶりと思ってもらえれば幸いだ。

最初の1枚はSNS上で「厚塗りで絵を描くのは簡単」という情報を偶然目にし、iPad Proに『CLIP STUDIO PAINT(クリスタ)』というお絵描き用アプリを入れて描いたものだ。油絵のように色を重ねていく「厚塗り」のこともクリスタの操作法も知らず、苦労して調べながら描いた。

面倒くさがりで美術の授業も嫌いだった筆者だが、絵が描けるようになれば推しキャラクターであるゲーム『刀剣乱舞-ONLINE-』の「水心子正秀」がもっと見られる! と思い挑戦したのだ。描き終えてから格好いい御本尊と見比べ、あまりの違いに思わず笑ってしまった。

しかし1枚描いて絵を描くことに対する抵抗感が薄れたのか、頑張って上手くなったら推しキャラを自給自足できるようになるのでは? と思った。そして試しに、ずっと見たかった「年下の親友を労う推し」を描いてみよう、とまた1枚挑戦してみたのだ。

当時は『男子ポーズドットコム』というサイトに絵の資料として利用可能な写真が多数あり、それらをポーズや構図の参考にしながら一生懸命描いてみた。これまた拙(つたな)い出来ではあるが、公式では見られない推したちの姿を想像しながら描き、形にするのが物凄く楽しかった。

ここから「絵を描くことは意外と楽しい」と思い始め、外出自粛に後押しされて2020年5月よりほぼ毎日絵を描く生活がスタートした。まずは絵の描き方やクリスタの使い方を調べ、『男子ポーズドットコム』の写真を参考に絵を描く練習を始めた。

とにかく「自分の手で拙くとも推しを形作れる」ことが楽しく、模写も含めて毎日10時間ほど、長い時には12時間以上絵を描き続けた。力の入れ方がおかしかったのか1カ月後の2020年6月には腱鞘炎になったが、手が痛くて描けない日も絵の描き方を教えてくれるサイトなどを見て楽しんだ。

腱鞘炎になったこともあり10時間以上描き続ける日は少なくなったが、トレース可能なポーズ集などを買い集め、簡単にでもほぼ毎日何かしらは描いていた。ポーズなどをトレースできるのは楽だが、推しの体格に合わない点などは調整するので勉強になったと思っている。

描き方や塗り方はネット上で探し、知り得た手法を落描きなどで即試すようにしていた。すると、2020年9月末には「もしかして結構絵が上手くなったのでは?」と思えるようになったのだ。最初に描いた推しの絵から成長した、と心底思った。

絵を描いて「形にする」のも楽しければ、上達を実感するのも凄く嬉しい。「やりたいことができるようになる」のはいくつになっても楽しいと知った。この頃には、お絵描き楽しい! とノリノリになっていた。

・容赦のない伸び悩み

しかし、ここからが問題だった。描いても描いても「上手くなった」と実感できなくなったのだ。2020年11月には数日かけて描き上げた絵ですら、微塵も成長を感じられなかった。それと同時に、時間をかけても綺麗にならない! と色塗りが物凄く面倒に思えてきた。

それからは「色塗りの手間を減らす方法」を試行錯誤するようになった。上達するための描き方を調べず、「何となくいい感じに見える描き方」がないか考えるようになったのだ。塗るほどにボヤけ、濁っていく「色塗り」から逃げ、面倒くさがりの本領を発揮してしまった。

ただ、そうして逃げていても推しを格好良く描けるようにはならない。意を決して絵の上手い方に「何をどうやっても上手くならない」と相談してみたところ、「影は大胆に入れる」「影色はベースの色から色相をズラす」そして「面を意識して描く」などをアドバイスされた。

しかし「面を意識して描く」感覚がどういうことなのか、説明されても全く分からなかった。写真を参考に絵を描こうとすると、どうしても「線」を見て描こうとしてしまう。影を入れるのが苦手なのは、恐らくそのせいなのだろう。そんな癖を直すため、荒療治として「線」を描くことをやめ、色塗りだけで空をスケッチするようにしてみた。

空のスケッチに慣れてきたら、フリー写真を参考に色々なものを色塗りだけで描くようにしてみた。実物を見ながらスケッチした方が良いのだろうとは思ったが、三次元のものを二次元に変換するのは難しそうだったため、写真(二次元)の状態を資料にして描いた。

他にも、これまた絵の上手い方から教わった「マス目に沿って直線と円を描く」練習も毎日した。クリスタの手ブレ補正を0にしてこの練習をしていると、絵を描くときの手ブレ補正を100から0〜30に変更できるようになり、成長を実感した。

相変わらず色塗りには苦手意識が強かったが、こうした絵の練習はとても楽しかった。絵を毎日描き始めて11カ月目の2021年3月末には、色遣いが好きな海外のイラストレーターさんの絵の描き方なども研究し、描き方を模索しながら楽しく過ごしていた。

しかし、そんな楽しい日々はあるとき突然終わった。よく絵の練習の参考にしていた「初心者でも絵が数カ月〜1年間で物凄く上達した」といった情報を見るのが、急に辛くなってきたのだ。

今の自分は絵を描き始めて11カ月目、もうすぐ1年経つ──そんなことを意識し始めると急に、素晴らしい上達ぶりが見られる他の方の「1年間」と、全然上達していない自身がもうすぐ終える「1年間」との違いを痛感してしまった。

他人様と比較するものではない。そう思いつつも、自分の進歩のなさが心底嫌になった。生まれて初めて「できるようになりたいこと」のために努力している気になっていたが、全然できていなかったのかもしれない。そんな自分の駄目さを突き付けられている気がして、絵を描きたくなくなってしまった。

そうして本来であれば「毎日絵を描きはじめて12カ月目」となるはずだった2021年4月は、ほぼ全くと言っていいほど絵を描かなかった。絵を描き始めて迎えた、初めての「空白の1カ月間」。趣味なのに重いと思われそうだが、お絵描きを楽しめなくなったのが心底辛かった。

「推しを描けるようになりたい」という気持ちは変わらないため、描く気になれない、練習すらしたくない状態は嫌で仕方ない。そのため、絵の上手い方に「上達しなさすぎて嫌になり絵が描けなくなった」と正直に相談してみたところ、「よくあること」だと教えてもらった。

筆者は絵を描き始めるまで、「努力してできるようになりたい」と思ったことが全くなかった。そのため全く知らなかったのだが、努力している過程で伸び悩んだり、できる方や伸びる方と比較して落ち込み、やる気すら失うことは、趣味で絵を描いていても正直よくあることらしい。

ではそういった場合、どうやって再び絵を描くモチベーションを取り戻せば良いのだろうか。これも絵の上手い先人たちに教えを乞うたところ、数名の方から「昔の自分の絵と比較したら良い」と教えてもらった。自身の成長を実感できると、気楽になることが多いらしい。

そのため、描き始めた頃の絵と、そこから約11カ月経った頃の絵をじっくり比較してみた。正直お絵描き開始から約11カ月経過した、という点にのみ着目すると「下手すぎる」と思う。だが、描き始めた頃と比べたら「上手くなっている」とは思える。一応、自分なりに成長はしていたのだ。

すると「自分なりには成長してるから良いか」とある意味、諦めがついた。確かに先人たちが言っていたように、気が楽になってきたのだ。上手くなるかは二の次で、描いていて楽しければ良いか……と絵を描くハードルが下がり、また描こうという気になってきた。

そうして「空白の1カ月」を乗り越え、2021年5月は「毎日絵を描く生活12カ月目」として過ごすことができた。そんな約1年間を終え、一番初めに描いた絵と同じく推しを正面から描いたのが、冒頭に載せていた絵だ。出来はともかく、とても楽しんで描くことができたので良しとしたい。

冒頭でもお伝えしたが、1年間ほぼ毎日絵を描き続けても思ったよりは上達しなかった。ただ、拙いながらも「見てみたい推しの姿を自ら形作れる」という喜びは想像以上だった。ぼんやりとした脳内映像を絵というハッキリとした形にして見られるのは、単純に嬉しい。

推しを素敵に描く方はたくさんいるが、筆者はニッチな好みも持っているため「巨大モルモットさんに埋もれる推し」「巨大化して途方に暮れる推し」が見たいと思うこともある。他の方が描くのを待っていては一生見られないかもしれないが、自分で描けばすぐ見られる。これが最高だ。

もちろん、拙すぎて「こんなの推しじゃない」と我に返ることもある。だが描き上がった絵に脳内補正をかけつつ、今後も楽しく推しを描いていくと思う。

・今後の課題

絵を描き始めて約1年半経過した2021年10月もなお、商用利用可能なポーズ集などの写真を参考にしながら絵を描く手法をとっている。しかし、まだまだ妙な身体つきになってしまうため、これからはネットで評判だった美術解剖学の本を読んで勉強していこうと思っている。

色塗りも勉強しなければと思っているが、色選びの時点で上手くできないのが現状だ。絵の上手い方から「1色での影塗りから始めてみては」とアドバイスをもらったので、資料にする写真の陰影を今までより注視し、1色で陰影だけ塗る練習を始めてみた。

また、色や構図・光の使い方などは「何をどうすればどういう印象になるか」全く分かっていないと自覚している。そのため数日(10時間以上)費やして描いたものの、不気味にしたかったのに思った不気味さが出なかった……といったような、狙った雰囲気にならなかったことが多々ある。

ただ色や構図、光の使い方などは勉強すればある程度会得できるものだろうと思っているので、美術解剖学と同じく評判の良かった本を読んで勉強していこうと思っている。

あとは、これまでほぼ「資料にした写真そのままのポーズ」しか描けていないのが大問題だと思っている。描ける絵の自由度が狭い。これまで通り資料のポーズを推しっぽく調整して描く練習はしつつ、今後はポーズ人形も取り入れて、いずれは好きなポーズやアングルで描けるようになりたい。

そしてゆくゆくは、推しを物語上で動かすために漫画を描きたい。だが漫画は1コマずつ構図を考えながら物語を伝える絵を描く必要がある上、法則性が全く分からない「コマ割り」を考えなければならない。絵の練習をしつつ、今から漫画の勉強もしていきたいと思う。

こうした「やりたいこと」が全部できるようになるまで、やらなければならないことが山積みだ。「何年経ったらできるようになるだろう」と途方に暮れる気持ちもあるが、大人になってから「できないことができるようになる喜び」を味わえるのは格別に楽しい。

素敵な推しのおかげで、毎日楽しめる趣味が増えて良かった。今後は焦らず、楽しく絵を描いていこうと思う。

執筆:伊達彩香
Photo:RocketNews24.

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