岸田内閣の顔ぶれを採点する

アゴラ 言論プラットフォーム

10月4日、自民党の岸田文雄総裁が第百代の総理大臣に選出され、新しい内閣を発足させた。堀内詔子ワクチン接種担当大臣、牧島かれんデジタル大臣と、それぞれ当選3回の女性議員を起用するなど、半数以上が初めての入閣となった(閣僚20人のうち初入閣は13人、再入閣は4人、再任が2人、ポストが変わっての起用が1人)。派閥別では、細田派と竹下派が最も多く4人ずつで、麻生派と岸田派が3人ずつ、二階派が2人、無派閥が3人となった。

NHKより

そうした観点の評価や採点は主要メディアに委ね、ここでは安全保障の観点から、内閣の顔ぶれを見ていこう。

新たに設ける経済安全保障の担当大臣に、在米大使館で勤務した経験もある大蔵省出身の小林鷹之代議士(二階派・当選3回)が充てられた。なんといっても、経済安全保障の担当大臣が新設されたこと自体が意義深い。この点は高く評価したい。

加えて、岸信夫防衛大臣が留任したことも、高く評価したい。陸上配備型「イージス・アショア」を代替案もなく、ポイ捨てにした前任者(河野太郎大臣)と違い、これまで失点がなく、随所で成果を収めてきた。長期の続投を期待したい。

内閣の要となる官房長官には細田派の松野博一代議士が就いた。だが、10月1日付「朝日新聞」朝刊記事によると、「岸田氏は当初、安倍氏の最側近で同派の萩生田光一文部科学相の起用を検討し、同派幹部にもその方針が伝えられた」という(そう前日、朝日は速報記事を配信した)。同記事はこうも報じた。

安倍氏に近い閣僚経験者は「安倍さんは萩生田さんの処遇を求めていた」と話す。/ところが、安倍氏に近い人材の登用には、党内から異論を唱える声が上がった。甘利幹事長と高市政調会長に加え、官房長官も安倍氏と親密な萩生田氏が就けば、あまりに「安倍カラー」が強くなりすぎる――。30日午後になって、官房長官人事は練り直しとなった。/そこで浮上したのが松野博一元文科相だった。萩生田氏と同じ細田派で事務総長を務めるベテランだが、今回の総裁選では、安倍氏が推した高市氏に「政治信条が違う」などと消極的な考えを示していたという。(中略)岸田派のベテランは「安倍氏が、これで納得するのか分からない」と語る

安倍氏が納得するかどうかはさておき、本当に、高市候補と「政治信条が違う」のであれば、評価できない。ならば、高市候補を支持した岸防衛大臣とも「政治信条が違う」ことになろう。内閣官房長官と防衛大臣が政治信条を異にする。……本当に、それで、危機管理がまっとうできるのか。

たとえ派閥や当選回数がバラバラでも、政治信条を同じくするから、同じ理想を仰ぎ見るから、なんとかまとまる。本来、そういうものではないのか。

防衛大臣に加え、茂木外務大臣も留任した。これも評価できない。以前、アゴラで詳論したので、細かく繰り返さないが、アフガニスタンの首都カブールがタリバンにより陥落した際の対応を思い出せば、留任などありえない。本来なら更迭されるべき大失態である。

以下の経緯も忘れることができない。2019年11月、中華人民共和国(以下「中国」)の王毅国務委員兼外交部長(以下「外相」)が訪日し、菅義偉総理を表敬。茂木敏充外務大臣(以下「外相」)と会談。会談後の共同記者発表で、尖閣諸島をめぐる茂木外相の発言を受けて、王毅外相が、こう発言した。

ここで一つの事実を紹介したいと思います。この間、一部の真相をよく知らない日本の漁船が絶え間なく、釣魚島の周辺の敏感な水域に入っています。これに対して中国側としては、やむを得ず必要な反応をしなければなりません。これが一つの基本的な状況です

日本国内の正式な記者会見で、日本固有の領土である魚釣島を、あえて中国名で呼び、一方的に中国の領有権を主張しながら、加えて「われわれの立場は明確です。引き続き自国の主権を守っていく」と言い放った。

終始、笑みを絶やさず、柔和な表情を浮かべていた茂木外相の横で、対象的に鉄面皮のごとく言い放った。あえて志位和夫・日本共産党委員長の批判を借りよう。

ここで重大なのは、茂木氏が共同記者発表の場にいたわけでしょう。それを聞いていながら、王氏のこうした発言に何らの反論もしなければ、批判もしない、そういう対応をした。そうなると、中国側の不当で一方的な主張だけが残る事態になる。これはだらしがない態度だ。きわめてだらしがない。

期せずして私も「夕刊フジ」一面記事に同様のコメントを寄せた(同年11月29日付)。

外交とは、文字通り、外との交わりであり、対外的な活動である。持論を述べれば、「実際どうだったか」より、「相手や世界から、どう見えるか」のほうが重要である。

なぜ、その場で反論しなかったのか。時事通信の記事によると、外務省幹部は「言い合いになって相手の土俵に乗ってもしょうがないので大人の対応をした」と説明したらしい。日本政府としては、それでよしとするのかもしれないが、中国外相の暴言を笑顔で黙認し、反論しなかったという客観的な事実が世界に動画で配信された。

日本の外務省は「大人の対応」というが、私は、そんな大人にはなりたくない。日本の国益は大きく損なわれた。ひとりの日本国民として腹立たしい。

こんな外務大臣が、なぜ留任するのか。まるで納得できない。