世の中で一番面白くない話は「借り物の意見」

アゴラ 言論プラットフォーム

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

ビジネス記事を書いたり、人前で講演をする仕事を始めて4年ほど経過した。意見やニュースを創出する立場として、できるだけこだわってきたのは「自分の意見はしっかり入っているか?」という点である。自分の意見を全面に出した結果、時には悪い炎上をしてしまうこともある。だが、自身の意見なき主張に価値はないと考え、日々発信に挑戦している。

世の中には一見するとオピニオンを言っているように見えて、その実、何も自分の意見がない「借り物の主張」は意外なほど多い。それは輝く所属を示した専門家も同様である。Googleで検索し、適当に出てきた信憑性のない情報をまとめただけの話にはその人の魂は宿らず、面白くないと思うのだ。

RichVintage/iStock

借り物の意見しか持たない人たち

借り物の意見を振りかざす人は驚くほど多い。

たとえば会社では、「飲み会の席では上司のグラスは空にするな」「昼休憩は一人で食べず、同僚と親睦を深めるべき」といったマナーを振りかざして、得意げに叩く人をかなり見てきた(筆者はずっと叩かれる側だった)。だがこうした指摘の反論の余地も残されているはずだ。グラスが空になっていても、「酒の席では胸襟を開けて静かに語り合う場にしたい。酒の残量の話ばかり振られると鬱陶しい」と感じる人はいるだろうし、「昼休憩は自分を高める勉強など生産的な時間に活用するべき」という意見もあっていいと思っている。

こうした人達を観察してみると、普段は大人しくて会議などでは一切発言はしないのに、なぜかビジネスマナーや会社のルールなどを指摘する時だけは、「待ってました!」とばかりに嬉々として他人に意見する。こうした人の原動力の正体を昔から不思議に感じていた。

今なら一つの仮説にたどり着くことができた気がする。おそらく、彼らは「自分の意見」に自信がなく、主張して反論を受けることに勇気を持てないのではないだろうか。主張の内容が「自分の意見」だった場合、受け入れられない可能性が残る。だが、会社のルールやビジネスマナーであれば、反論のリスクは小さい。リスクを取りたくない人ほど、借り物の意見に終止すると感じるのだ。

だが、個人的にそうした人とのコミュニケーションが魅力かは疑問が残る。何を聞いても常識や正論しか言わなければ、会社のルールブックやマナーの指南書の粋を出ないからだ。ルールブックや指南書なら、テキストがその役割を果たしてくれる。やはり、その人ならではの視点で語る意見にこそ、話の面白さが宿ると考えるのだ。

仕事の進め方も借り物をやめる

借り物なのは意見だけでなく、思考も同じである。

筆者は先日、取引先とZOOMで打ち合わせをした。先方が出先で通信状況が芳しくないようで、音声のやり取りに支障をきたした。「よければ今回はWebカメラを止めて音声だけにしませんか?データトラフィックの負荷を減らすことで、音声が改善する可能性があります」と提案したのだが、「うーん、うちでは映像を出すことになっているので…」と頑なに映像を出すことにこだわっていた。原則は映像を出すというものでも、ZOOM会議の本質は情報伝達なのだからケース・バイ・ケースで対応しても良いのではないだろうか。音声だけでも情報伝達に支障のない場面であるなら、お互いの顔の映像の送受信など止めても問題はないはずだ。

仕事を進める上でも、会社から言われたことだけをしていると、自分の思考は停止してしまい、借り物になってしまうと思うのだ。

異なる意見を許容しない文化

だが意見を持たない人ばかりを責めることはしない。問題の根本は「異なる意見を持つことを許さない日本の文化的な土壌」にあると考えるからだ。

「自分と異なる意見の持ち主は敵」と考える人は少なくない。筆者は世の中の諸問題に意見を書いているが、その反応も様々である。賛成の声もあるが「こいつは性格が悪い」「知能が低い」「メディアからお金を払って書かされているだけだ」といった個人の人格や才能に対する攻撃、曲解した憶測も届くことがある。記事内容への誤りの指摘や、論理的矛盾に対する意見ならウェルカムだが、「自分とは違う意見を持っている思考」に対しての反応には問題に感じる。一度、自分の思考をこうだと決めつけられたメッセージを受け取ったので、「記事内にそのような記述はしていない。あなたが拡大解釈をした可能性がある。その感覚を得た根拠を出してほしい」と返信したらブロックされてしまった。

世の中、多数決原理で多数派の意見だけで構成された世界などゾッとしてしまう。意見は多様だから「この発想はなかったな」と斬新な着想に感激し、話も面白いのである。せっかく言論の自由の国に住んでいるのだから、思うことはもっと堂々と主張しやすい社会になればと願っている。

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