a16zがトークンのデリゲートプログラムを公開
大手ベンチャーキャピタルのa16zが、トークンのデリゲート(委託)プログラムを公開。Web3.0プロジェクトにおけるトークン保有者としての関わり方を説明した。
トークンのデリゲートとは、トークン保有者が当該プロジェクトのガバナンスに参加する権利を他人に移譲することを意味する。スマートコントラクトによって意思決定が実行されるWeb3.0プロジェクトでは、意思決定を特定の人物が行うのではなく、不特定多数のトークン保有者による投票などで行われる。この意思決定をいかに効果的に、かつ分散性を高い状態で維持できるかがWeb3.0の繁栄には欠かせない。
a16zは、これまでにCompoundやUniswap、Celoといった人気プロジェクトへの出資の対価として固有のトークンを受け取ってきた。このトークンを自社で保有しガバナンスに参加することも可能だが、その場合は分散性が犠牲になることから、トークンの半分以上を外部へデリゲートしてきたという。
デリゲート先には、KivaやMercy Corpsのような非営利団体、GauntletやArgent、Dharmaのような業界のスタートアップ、Stanford Blockchain ClubやBlockchain at Columbiaのような大学組織があげられている。
今週は、a16zのデリゲートプログラムの詳細を深掘り、プログラムによって全てが動くWeb3.0プロジェクトの運営形態「DAO」の具体について考察したい。
参照ソース
- Open Sourcing Our Token Delegate Program
[a16z]
イーサリアムのブロックチェーンが一時的にフォークする事態に
イーサリアムのブロックチェーンに接続するためのクライアントソフトのうち、全体の74.6%のシェアを持つGeth(Go Ethereum)でバグが見つかり、チェーンが一時的にフォーク(分岐)する現象が発生した。
ノードがイーサリアムネットワークに参加するには、専用のクライアントソフトを使用する必要がある。Gethはその最大手で、旧バージョンにバグが見つかったことからアップデートを行なったものの、大部分のノードがアップデートに対応できず、一時的にイーサリアムネットワークから排除される事態に陥ってしまった。
イーサリアムのようなパブリックブロックチェーンを形成しているのは不特定多数のノード群となっているが、非中央集権型ネットワークの特徴として、ネットワークへの接続は各ノードの運用能力に依存することになる。つまり、今回のGethのアップデートに対応できなかったノードのように、運用能力に欠けるノードはネットワークから除外されてしまうのだ。これは分散型サービスの長所でもあり短所でもある。
今回、チェーンのフォークはすぐに解消されたものの、以前よりイーサリアムネットワークがGethに依存している状況は課題視されていた。そのため、現在開発が進められているイーサリアム2.0でも、マルチクライアントでのリリースが大前提とされるなど、特定のクライアントソフトに依存しないより分散された運営の実現に向けて対策が行われつつある。
参照ソース
- Bug impacting over 50% of Ethereum clients leads to fork
[The Block]
今週の「なぜ」トークンのデリゲートはなぜ重要なのか
今週はa16zによるトークンデリゲートプログラムやイーサリアムのフォークに関するトピックを取り上げた。ここからは、なぜ重要なのか、解説と筆者の考察を述べていく。
【まとめ】
DAOは次のブロックチェーン領域注目の市場となっている
Web3.0プロジェクトは議決権を多く持ち過ぎることはマイナスに働く
スマートコントラクトで全ての契約を定義するのは極めて困難
それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。
暗号資産、DeFi、NFTに続くユースケース
ブロックチェーンによるユースケースが模索される中で、これまでに暗号資産やDeFi、NFTといった市場が次々と勃興してきた。そして次に台頭すると期待されているのが、株式会社のアップデートと言われる「DAO」だ。
DAOは自律分散型組織と訳され、文字通り多数の個から成る分散型組織でプロジェクトを運営することになる。このDAOによって運営されるプロジェクトのことを「Web3.0」と呼んだりする。
DAOを動かすには、株式会社における株式と同様に何かしらの議決権が必要だ。今のところ、ブロックチェーン上で発行されるトークンを用いて議決権を表現しているものの、将来的にもこれが最適解になるかは定かではない。これについては、イーサリアムの創業者であるVitalik氏も疑問を呈している。
トークンデリゲーションのベストプラクティス
DAOの台頭にいち早く気づいたa16zは、2010年代前半よりトークンへの出資を継続して行なっている。Web3.0の場合、株式への出資は意味をなさないため、トークンへ出資することで将来的なDAOにおける議決権の多くを確保するのが狙いだ。
しかし、DAOで議決権を多く握ってしまうと、それはDAOがDAOではなくなってしまうことを意味する。そこで重要なのがデリゲートだ。a16zは、トークンをデリゲートする上でのベストプラクティスが判明してきたと主張。以下の5つを重視することが必要だと説明している。
- 早期にデリゲートする
- コミュニティリーダーを選出する
- 外部からの意見を取り入れる
- デリゲーターの独立性を保証する
- 継続的な透明性を提供する
また、デリゲート先を評価するための基準も以下のように整理している。
- プロトコルへのコミットメント(Commitment)
- 領域への専門性(Expertise)
- エンゲージメント実績(History)
- 問題を起こさない(Absence of Conflict)
- プロトコルの成功に向けた活動(Alignment)
- a16zからの独立性(Arm’s Length)
- 分散化を促進(Decentralization)
- 多様な視点(Diversity)
- 責任を意識(Stewardship)
スマートコントラクトの限界
上記のベストプラクティスや評価基準より、デリゲート先とは契約書を交わすという。契約内容では、「トークン量」「報酬(月額500ドル以下)」「任期(最低6ヶ月間)」などを定義する。
結局のところ、株式と同様にトークンの価値が上昇することが目的であるため、DAOの場合は自社で保有せずにデリゲートして運営した方が良いと結論づけたということだ。これは、株式会社の場合には、出資先企業の株式を第三者に委託することと同義になるが、第三者に預けたところで特に意味はないということから、DAOがいかに分散型ガバナンスを体現しているかが理解できるだろう。
また、トークンをデリゲートする際にデリゲート先と契約書を交わすという点もポイントだ。本来であれば、スマートコントラクトで全てを定義し自動実行できれば良いが、契約書を交わすということはそれが困難であるということを物語っている。
ブロックチェーンのスマートコントラクトが登場した際に、「Code is Law」という言葉が注目されたが、a16zは実質これが不可能であることを結論づけたと捉えられるのではないだろうか。