AI×不動産で導き出す本当に住みやすい街–家探しを変える「BEST BASHO」とは

CNET Japan

 GAテクノロジーズが住まい探しをAIで変えようとしている。AIが提案する「BEST BASHO(ベスト場所)」は、家族の通勤、通学の利便性からおすすめの住まいを提案するというもの。沿線、駅近、乗り換え頻度など、今まで住まいを探す上でこだわっていたポイントだけでは見えてこなかった住む場所のベストがわかるシステムだ。

 開発したのは、GAテクノロジーズの研究開発組織「AI Strategy Center」。AIと不動産、今まであまり聞かなかった組み合わせがこの業界にもたらすものとは何か。研究開発の最前線に立つBramson Aaron(ブラムソン・アーロン)氏に開発背景とAIが不動産業界で果たす役割、これからの家探しなどについて聞いた。


GAテクノロジーズ AI Strategy CenterのBramson Aaron氏

——GAテクノロジーズとはどのような会社でしょうか?

 「テクノロジー×イノベーションで、人々に感動を。」を理念に掲げ、PropTech(不動産×テック)の領域で事業を展開しているベンチャー企業です。

 借りる・買う・売る・貸す・投資するといった不動産にまつわるすべてをサポートする不動産総合サービス「RENOSY」を始め、約20種類の個人向け・法人向けの幅広いサービスを展開しています。

 自ら不動産事業を手掛けるとともに、社員の約30%がエンジニアという「テクノロジー企業」でもあることが特徴ですね。

未来の家探し「BEST BASHO」とは

——BEST BASHOではどんな家探しができるのか教えて下さい。

 今までの家探しは不動産会社を訪れて、住みたい沿線や家賃、広さ、駅からの距離などを伝えて、それに見合った物件を紹介してもらうというのが一般的な流れですよね。しかしその情報だけだと、不動産会社もお客様も具体的な住まいのイメージを持てない場合があります。

 引っ越しは結婚や転職、入学など人生の転機とリンクしているケースが多い。同じ市や街の移動であれば、ある程度の目処はつきますが、関西から関東など遠い場所に引っ越す場合は、沿線や賃料の平均など、調べられることに限界がある。引越し先候補の街や周辺環境に詳しくなくても、通勤、通学する駅からの移動時間や希望の周辺環境を元に、最適なエリアをピックアップできるのがBEST BASHOの役割です。単身者だけでなく、複数人の通勤、通学場所を加味して、最適な場所を導き出せます。

——何が新しいのでしょうか?

 2つの課題を解決している点だと考えています。1つ目は、家族の共働きや家族で暮らすときに全員にとってアクセスがいい場所が分かりづらい課題です。単身であれば不便ではないですが、家族だとそれぞれの通勤・通学先があり、家族にとってアクセスのいいエリアがわかりにくい。BEST BASHOでは、アルゴリズムによって、アクセスのいい場所を割り出し、地図上で視覚化しています。

 2つ目は、アクセス以外に気になる情報がまとまっていないという課題です。最低限の情報は物件情報に載っていますが、それ以上は自分で足を運んで見ないとわからないことが多いのが現状のお部屋探しです。BEST BASHOでは、自社独自のデータを活用し、災害データや利便性(コンビニ、病院、役所など)、趣味(スポーツジム、カフェ、銭湯など)の情報を地図上でグラフ化しています。そうすることで、住まい探しがもっと便利に、快適になると考えています。

——どこで使えるのでしょうか。

 社内の営業ツール「LIFE DESIGNER by RENOSY」へ導入し、RENOSYのエージェント(営業)やお客様に使っていただいています。現在は弊社のRENOSYでお部屋探しをされる方にしかお使いいただけないのですが、今後は幅広く公開できればと考えています。


家族の通勤、通学の利便性からおすすめの街をAIが導き出し、提案する「BEST BASHO」。青いエリアが、もっとも住みやすいベスト場所になる

——住まい探しの根本が変わりそうですね。

 住みよい場所を探すのは、本来は不動産会社の仕事です。もちろん現時点でも家賃や駅から何分圏内と希望を伝えることで、不動産会社の人が条件にあった住まいを探してくれますが、十分ではないと思うんですね。

 ベテランの不動産担当者はもちろんそういった周辺環境を熟知していますが、必ずしも自分の家探しをその人に担当してもらえるとは限らない。一方で、刻々と変化する周辺環境を常にアップデートし続けるのは大変で、人間には限界があります。一般的な物件情報に加え、交通の便、周辺環境など、そのすべてを熟知し、本当に住みたい家を探し出せるのはAIが最も優れた方法だと思います。

本当の住みやすさを知るためには、実業とテクノロジーが必要不可欠

——どのようなアルゴリズムを利用しているのでしょう。

 BEST BASHOでは、複数の目的駅が入力された時、すべての目的駅への最適なアクセス時間を持つ駅を見つける。これを最短経路問題に落とし込むことで最も交通利便性の良い駅を計算しています。

 具体的には、まず、各目的駅から電車ネットワークの各駅に対して幅優先探索(breadth-first search)を用いて時間コストを計算。各目的駅の時間コストを組み合わせて得られる時間コストが最も小さい駅が、すべての目的駅へのアクセスに最も便利な場所である最適な場所、つまり”BEST BASHO”です。

——BEST BASHOはどんなデータからこの情報を導き出しているのですか。

 鉄道会社などの路線図、運賃はもちろん、道路の種類や幅、学校や役所などの公共施設、病院、スーパー、カフェといった店舗情報などのデータを学習させています。ほかにも、犯罪リスクや災害リスクのデータも学習させています。日本はオープンデータとして開示されている情報もありますが、形式がばらばらだったり、欲しい情報以外のものもつけられていたりします。そのようなデータを私たちでクリーニングして使っています。この作業には大変時間がかかりました。

 特にデータの取得が難しいのは歩道です。歩道の有無や幅は、安全面からとても大事な情報ですが、きちんとデータとして保存されているのはごくわずかです。欧米であれば、個人の方が趣味の一環としてそうしたデータをウェブサイトなどに公開していることがありますが、日本にはあまり存在していません。

——そのほか、取得が難しいデータはどのあたりですか。

 コインランドリーですね。コインランドリーは一人暮らしの人には大切な設備の1つですが、各店舗に電話がないし調べようがない。ほかにも、路線図や運賃は鉄道会社のウェブサイトから取得できますが、乗り換えや乗り継ぎで運賃がいくらになるのかといった細かい情報は一覧になっているわけではないので、一つ一つ調べていく必要がありました。同様にバスのルートを調べるのにも時間がかかりました。乗り継ぎなど複雑な使い方は少ないのですが、なんといっても数が多い。交通関連のデータを調べるだけでも数カ月はかかりました。

——こうしたデータを反映した上での住まい探しはどんなところにメリットがありますか。

 BEST BASHOを用いることで、例えば交通利便性は良いが予算と合わないという場合でも、価格が高くなりがちな中心エリアから離れた場所で交通利便性の良いエリアを見つけることができます。また、今まではその街に訪れ、もしくは暮らしてみるまではわからなかった、街の本来の姿が時間や手間をかけずにわかります。

——なぜGAテクノロジーズでは開発できたのでしょうか?

 理由は色々あると思いますが、一番はリアルである不動産業を行いながら、テクノロジーで課題を解決している企業だからだと思います。まさに理念の体現ですね。実業をやっているからこそ持っている不動産のデータを活用できますし、お客様が何を求めているのかも、実際に接している営業のメンバーから聞きながらブラッシュしていけます。だからこそ、お客様のためになるプロダクトを開発できたんだと思います。

 今まではその町に訪れ、もしくは暮らしてみるまではわからなかった、町の本来の姿が時間や手間をかけずにわかる。それがBEST BASHOの住まい探しです。


「暮らしてみるまではわからなかった、町の本来の姿が時間や手間をかけずにわかる。それがBEST BASHOの住まい探しです」

究極の家探しは「スマホに話しかけるだけ」

——不動産とAIをかけ合わせることで、本当に自分にあった住まい探しができるんですね。

 完璧に近い住まい探しができると思います。日本にはほかにもいい町がたくさんあると思いますが、それを知らない人は多い。なぜなら情報が足りないからです。情報を集め提案する部分をBEST BASHOが担うことで、もっといい街、住みやすい町を人々は探し出せる。この仕組みを効率的に作り出すのにAIは欠かせません。個人的には一石五鳥くらいの感覚で情報を活用し、住まい探しのサービスを作っていきたいと思っています。

——これからBEST BASHOに搭載したい機能などはありますか。

 たくさんあります。例えば年収を入力すると、家賃を加味した上で物件探しをしてくれたり、持ち物から広さをレコメンドしてくれたりするのも便利ですよね。究極的には、スマホに話しかけたら、物件情報を表示する、声だけで住まい探しができるようなものにしていきたいと思っています。

 メッセンジャーアプリやチャットボットなど、今便利なテクノロジーはたくさんありますよね。でも本当に使いやすいと感じるものは少ない。それは、テクノロジーを先行して考えてしまっているからだと思います。大事なのはテクノロジーをどう使うかではなくて、お客様がどう使いやすいかを考えること。技術はあくまでサポートです。

——最後にアーロンさんが研究開発にかける思いを教えて下さい。

 お客様が満足しないのであれば、私たちAI技術者は仕事に満足すべきではない。このカスタマーファーストの考え方は米国で徹底されています。お客様の夢を叶えるためにいろいろな技術を使う。それが私たちAI技術者の仕事だと思っています。

 BEST BASHOはお客様にとって完璧な家探しを常にサポートするサービスでありたいと思っています。

Source