初代からUSB 2.0、USB 3.0へと明解な名称でバージョンアップされていったUSBだが、USB 3.1で採用された「Gen」表記をきっかけに、さっぱり理解できなくなったという声は少なくない。USB対応の機器を取り扱うメーカー、さらにメディアによっても表記には揺れがあり、ユーザーが混乱する原因になっている。
本稿では初心者から中級者を対象に、USB 3.1およびUSB 3.2で用いられている「Gen」表記について、なぜそうなったのか、そして最新規格であるUSB4ではどうなっていくのか、主にユーザー側から見た状況を整理して紹介する。
なお、この種の解説記事では、細かい例外事項を盛り込み過ぎて逆に分かりづらいものになることもしばしばであるため、本稿では注釈は最小限とし、その分ディティールを厚めにしている。その筋の方から見ると「大筋では合っているが説明を端折りすぎている」というポイントは少なからずあるはずだが、ご了承いただきたい。
四半世紀かけて進化してきたUSB
初期のUSB(USB 1.1)は、マウスやキーボード、プリンタの接続を主な目的としており、データの転送速度は非常に遅かった。これを高速化し、HDDなどのインターフェイスとしても使えるようにしたのがUSB 2.0である。
登場当時(2001年)、どれだけUSB 2.0が期待されていたか、またそれまで主流だったSCSIや、いまいち普及しなかったIEEE 1394とはどのような関係性だったかは、以下の記事に詳しい。本稿から遡ってほぼぴったり20年前というのが、なかなか趣深い。
これから約20年が経過し、本稿で取り上げるUSB 3.xを経て、現在はUSB4へと進化している。ちなみにUSB4は「.0」は付かず、数字の前に半角スペースも入らない。
一方、こうしたUSB規格の進化と並行して、USBのコネクタの形状も進化を遂げてきた。当初はAコネクタとBコネクタという2種類のみで、AからBへとデータおよび電力が流れるという、単純明快な仕組みだった。
最もこのUSB Bコネクタは径が太く、小型デバイスへの実装が難しいことから、ほどなくminiB、さらにmicroB(Micro USB)が誕生した。現在はUSB Type-Cへの移行が進みつつあるが、microBはコストの安さから、給電用途を中心にいまも健在なのはご存知の通りだ。
このようにUSBコネクタは互換性を保持しつつ進化を遂げてきたが、中には互換性を重視しすぎたせいでトンデモな実装もある。
例えば、今春Twitterで話題になった「コネクタをゆっくり差し込むとUSB 2.0、すばやく挿すとUSB 3.0として認識される」現象は、同一形状のポートで後方互換性を持たせるために、USB 2.0ポートの奥に3.0の端子を配置するという、強引な設計を行なったのが原因だ。
これは互換性重視の設計としてはとてつもなく秀逸なのだが、こうした無理な設計をせざるを得ない時点で、USBコネクタの互換性を保ち続けるのは限界に達しており、それがUSB Type-Cの登場(2014年)に繋がったと言える。これについては本稿とは別の機会に紹介する。
ここまでの話で一旦押さえておきたいのは、USBの規格と、USBのコネクタの形状には、直接的な関連はないことだ。それまで別々に進化してきたのが、たまたまUSB 3.1と同時期にUSB Type-Cが登場したことから、セットと見なされがちというだけだ。例えばコネクタがUSB Type-CであってもUSB 2.0のケーブルはごまんとある。
「USB 3.0」=「USB 3.1 Gen 1」=「USB 3.2 Gen 1」の怪
さて、かつては分かりやすさの代名詞だったUSBの規格が複雑怪奇になったのは、USB 3.xが元凶だと言っても過言ではない。中でも「USB 3.2 Gen 1」、「USB 3.2 Gen 2×2」といった、いわゆるGen表記について、多くの人はアレルギーがあるのではないだろうか。
現在の最新のUSB規格は「USB4」だが、市場で今なお主流の「USB 3.x」系列には、「USB 3.0」、「USB 3.1」、「USB 3.2」がある。リリースはそれぞれ2008年、2013年、2017年と、数年の間隔を開けて新しい規格が登場してきたわけだが、そのたびに以前の「USB 3.x」の名前を付け直して内包しようとしたことで、規格はまったく同じなのに呼び名が違うという、ややこしいことになった。具体的には以下の通りだ。
2008年に登場したUSB 3.0は転送速度5Gbpsの規格だが、2013年にはその2倍、10Gbpsで転送が可能なUSB 3.1が登場した。ここで「USB 3.0は5Gbps、USB 3.1は10Gbps」のまま終わらせておけば、恐らく大きな問題はなかった。
ところがこの時、USB 3.0を「USB 3.1 Gen 1」という表記に変え、新しく登場した10Gbpsの方のUSB 3.1は「USB 3.1 Gen 2」という表記にしてしまった。「USB 3.1 Gen 1は5Gbps、USB 3.1 Gen 2は10Gbps」というわけである。USB 3.1に揃えたかった意図は分からなくはないが、今思えばこれが全ての元凶だ。
そして4年後の2017年にUSB 3.2が登場した時にも同様の名前の付け直しが実行され、「USB 3.2 Gen 1は5Gbps、USB 3.2 Gen 2は10Gbps、USB 3.2 Gen 2×2は20Gbps」という、その筋の人以外には理解できない複雑怪奇な命名ルールになってしまった。
結果として、まったく同じ転送速度5GbpsのUSB規格なのに「USB 3.0」、「USB 3.1 Gen 1」、「USB 3.2 Gen 1」という3つの呼び名が存在することになってしまった。上記の表はそれをまとめたものである。
もちろん名前を付け直すたびにスパッと移行できれば混乱は起きなかったのかもしれないが、ユーザーの手元にある過去の製品やメーカーの製品ページ、ニュース記事などに遡って適用できるわけもなく、表記が混在するようになったというのがこれまでの経緯だ。少し考えればこうなることは予想できそうなものだが、どうもそうではないらしい。
「USB 3.x」の表記をどうするかという問題
以上のような経緯から、現状、USB 3.x系の規格を記す場合は、以下の2つの表記ルールのどちらかを選ぶことになる。
- USB 3.2で一本化してGen表記で呼ぶ
- Gen表記を一切使わずに登場時点の名称で呼ぶ
PC Watch本誌では、基本的に後者の(2)の表記ルールを採用しているので、USB 3.0/USB 3.1/USB 3.2という呼び方になっている。他メディアやメーカーサイトではUSB 3.2 Gen 1/USB 3.2 Gen 2/USB 3.2 Gen 2×2という表記かもしれないが、どちらかが間違っているわけではない。表記ルールが異なるだけだ。
このどちらが良いかは、発信する側の立場によっても異なる。メーカーからすると、同じ規格でありながら自社が「USB 3.1」、競合A社やB社が「USB 3.2 Gen.2」と表記していた場合、ユーザーが「オッ競合A社やB社の方が新しい規格っぽい」と勘違いしてそちらに手を出し、結果的に売り逃しが発生しかねない(実際にそうした選び方をするユーザーは多い)。従って最新の呼び名でユーザーにアピールする必要がある。
一方でメディアの場合は、表記ルールがまちまちな複数のメーカーの製品も扱わなくてはならないほか、過去の表記との整合性も考慮する必要がある。それゆえ登場時点での呼び名で表記したほうが、長期的に見れば整合性が取れる。規格をきちんと把握しているからこそできる技とも言える。ただし読者に誤植だと見なされて「間違ってますよ」と突っ込まれやすいのが玉に瑕だ。
と、裏では涙ぐましい努力が繰り広げられているわけだが、朗報と言えるのが、現在の最新規格であるUSB4では、小数点以下の規格は将来的にも登場しないことになっているほか、Gen表記についても(ユーザーが目にするところでは)使われないと決まっていることだ。「USB4.1」や「USB4.1 Gen 1」の出現に怯える必要はもはやないというわけだ。
最も、USB 3.2と同じく、USB4は複数の転送速度をサポートしているため、「USB4 20」、「USB4 40」といった具合に、末尾に転送速度を表記する例が一部で見られる。とは言え転送速度がまったくイメージできない従来のGen表記と違い、「20」、「40」といった具体的な速度(Gbps)が明記されるのは、悪いことではない。
余談:レーン表記と「SuperSpeed」などのマーケティングネームについて
最後に余談を2つほど紹介しておく。いずれもアウトラインだけ把握すれば十分な人には不要な話なので、現時点でお腹いっぱいという人は、ここで読み終えてもらっても構わない。
まずUSB 3.2の「Gen 2×2」など「x」の入った表記について。「Gen 3」でも「Gen 4」でもなく「Gen 2×2」なのは、データ転送に2つのレーンを使用することを表している。1レーンを使って転送するのに比べ、2倍のスピードが出るという意味である。
データ転送に複数のレーンが使われ始めたのはUSB 3.2からで、USB 3.1で初めてGen表記が登場した時点では、レーン数の概念はなかった。このあたりも、途中で色々盛り込もうとして命名ルールが迷走した跡が見られる。背景には、どちらも転送速度が10Gbpsの「USB 3.2 Gen 1×2」、「USB 3.2 Gen 2×1」の存在があるようだが、詳細は割愛する。
もう1つは、こうした「USB 3.x」とは別に存在する「SuperSpeed USB」などの表記についてだ。もともとUSBは、高速な規格が出るたびに「なんちゃらSpeed」という、いかにも速そうに見える別名(マーケティングネーム)を付与するのが、兼ねてからの習慣になってきた。
例えば、2000年に登場したUSB 2.0(480Mbps)は、従来のUSB 1.1(最大12Mbps)より速くなったことをアピールするためか「Hi-Speed USB」というマーケティングネームが付けられ、専用のロゴも作られた。具体的な速度ではなく形容詞でアピールしようというわけだ。確かにエンドユーザーにとっては「従来より速くなりましたよ」と一目で分かって効果的だろう。
最もこうした形容詞頼りの表現は、それを超える規格の出現によって破綻するのが世の常で、5GbpsのUSB 3.0では「SuperSpeed USB」というマーケティングネームが付けられたものの、さらに高速な10GbpsのUSB 3.1が登場した時には「SuperSpeedPlus USB」という苦し紛れの命名となり、そして20GbpsのUSB 3.2登場時には「SuperSpeed USB」に戻した上で、後ろに転送速度を付けた「SuperSpeed USB 20Gbps」という表記になった(USB 3.2の仕様に関するPDF)
この「SuperSpeed」については、ケーブルのコネクタに「SS」というロゴが刻印されていたので、記憶されていた方も多いと思う。現在登場しつつあるUSB4対応ケーブルは、こうした反省を踏まえてか、「20」、「40」といった転送速度(Gbps)を表す数字が明記され、分かりやすくなっている。
以上のように、「最初からこうしておけばよかったのに」という点は多々あるが、これまでの流れを経て徐々に分かりやすくなっている様子が伺える。数年後には、黒歴史とも言える「USB 3.x」が過去のものになり、本稿のような解説記事もまた不要になっていることを願いたい。
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