西村氏発言 法律ない要請の限界 – わたなべ美樹

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西村康稔経済再生担当相の発言が「飲食店いじめ」と言われているが、法的拘束力の伴わない「要請の限界」、「制度の欠陥」がついに露呈した形だ。人流を押さえ込むなら五輪開催は説得力に欠ける。「一軒の飲食店も倒産させない」本来、担当大臣はそうしたメッセージを発し、それに沿った形で「補償」と「強制」を法整備すべきだ。

香港の飲食店の営業再開ルールでは、段階的にきめ細かに、収容人数に制限をかけ、何とか営業をさせようとする当局の意思が伝わる、日本とは対照的だ。

選手には罪がないが、五輪の強行開催については反対だ。「緊急事態」と国が宣言している中でのスポーツ大会は常識的にありえない。緊急事態宣言は1人でも感染者を減らすことが目的だ。海外から多くの選手が来日する一方で、夏休みに故郷に帰省することにも自粛を求め、飲食店や観光業には、莫大(ばくだい)な経済的な犠牲が強いられている。

五輪を中止すると経済効果で1兆円損するという指摘もあるが、ナンセンスだ。すでに経済自粛で3兆円超も飛んでいる。開催中止は今からでも遅くない。「過ちて改めざる是を過ち」だ。

決定的なのはワクチンの遅れだ。本来は、五輪終了時に国民全体の4割が打ち終わって、落ち着く状態を作るのが理想だった。都議選で自公が苦戦したのも、ワクチン接種の遅れの影響が大きい。

開催地は五輪後、経済不況に見舞われる傾向があるが、今回の日本はコロナですでに不況であり、想定されていたほどの建設ラッシュも起きなかったため、その反動はないとみている。むしろワクチン接種後の勢いが増し、一時的に好況になる可能性も高い。

ただ、日本固有の財政破綻は免れない。米国が「ゼロ金利政策」をやめると言い出していることに注視している。日本は、国が1100兆円も借金をしており金利を上げられない。金利上昇は財政危機の引き金になる。コロナは間違いなく、日本の「財政死期」を早めた。

来期の2022年度の予算の概算要求基準でも、社会保障費の自然増は6600億円に及ぶ。自然増だけで6600億円のおカネが出ていく国に海外がどう思うか。海外の投資家も破綻を懸念するのは当然だ。

与党幹部の中から、もう一度、10万円の給付金案が浮上しているが、選挙対策にしても度が過ぎる。原資はまた「国の借金」だ。前回の給付金もほとんど貯金に回っている。するならば、困っている人にセーフティーネットで渡せばいい。

五輪がはじまる以上、努力を続けてきた選手にはエールを送りたい。一方で、日本が財政経済で「金メダル」を目指すには、計り知れない努力が必要だ。

【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より