「ハーバード白熱教室」で知られるマイケル・サンデル教授が、本書で掲げているテーマは「能力」である。能力主義(メリトクラシー)に焦点を当てながら、不平等が容認される格差社会がいかに生み出され、人々の憤懣がトランプ大統領をいかに誕生させたのかをひも解く。
誰もが自由にアメリカンドリームを成し遂げることができるという考えは、もはや幻想となりつつある。むしろアメリカはほかの多くの国々より、社会の底辺にいる人々にとって成功するのが難しいことを裏付けるデータさえあった。
本書の舞台はアメリカだが、日本も同様に、能力主義が格差社会や不平等といった弊害を招いている。公平で道徳的にもかなうとされた競争システムは機能不全に陥り、目に見えない職位や身分、学歴に基づく差別はどうやら実在するように思われる。そうした不平等を背景に、社会的な分断は深刻だ。
このままでは人々の尊厳は蔑ろにされ、生きる活力が失われてもおかしくはない。日本では、ナショナリズムの高揚をうかがわせる顕著な動きは見られないが、その代わりに「諦め」や「絶望」が社会的に蔓延しているのかもしれない。
本書では、能力主義をさまざまな角度で考察しながら、目指すべき社会の在り方について提言を行っている。進むべき方向が不透明なコロナ禍の今こそ、誰もが尊厳と誇りを持って暮らすことができる社会をどのように実現するのか、考えるきっかけとしていただきたい。
今回ご紹介した「実力も運のうち 能力主義は正義か?」の要約記事はこちら。この記事は、ビジネスパーソンのスキルや知識アップに役立つ“今読むべき本”を厳選し、要約してアプリやネットで伝える「flier(フライヤー)」からの転載になります。