みずほ証券は2023年度から、部支店・営業担当者の収益目標を撤廃する。主に顧客からの評価に基づいて部支店・営業担当者個人の成果を評価するかたちに変更する。証券会社の営業担当者といえば、かつては「ノルマが厳しい職種」の代表格というイメージが強かったが、具体的な売上・利益という数字の達成度合いで評価しないかたちに大きく変える理由はなんなのか。その背景を探っていくと、金融業界の現場に押し寄せている波が見え隠れしてくる――。
口座開設数で国内7位の規模である、みずほ証券。預かり資産は2017年から23年までの6年間で28.9兆円から45.4兆円に約1.6倍に伸び、株式引受業務は国内4位(引受金額ベース)、M&Aアドバイザリー業務は3位(件数ベース)と、証券業界でその存在感は大きい。
「法人でも個人でも、みずほ銀行の取引先である顧客が証券に紹介されるケースも多く、みずほフィナンシャルグループの一員という要素は大きなアドバンテージになっている」(証券会社社員)
そのみずほ証券は、前述のとおり部支店と営業担当者の評価基準を180度変更。これに伴い、営業担当者の金融市場・商品の知識や提案力を高めるための研修制度を設け、コンサルテーション能力を高める。
ここ数年、金融業界では「脱ノルマ」の動きが広まっている。大和証券はすでに17年に、営業担当者ごとにノルマを設定する方式を廃止し、顧客からの評価に基づき営業担当者を評価するかたちを導入。野村証券も同時期頃から、販売手数料の目標を営業担当者に課すのを廃止し、顧客の預かり資産の増減や新規資金の獲得額などに比重を置く評価制度に移行。三井住友銀行は19年、個人向け金融商品の販売について、各支店の支店長が行員に販売目標を割り振る形式を廃止している。
長い目で見れば顧客側が多額の手数料を取られ損という例も
大手証券会社OBはいう。
「10年くらい前までは、とにかく個人のノルマがきつく、達成できなければ上司から詰められるというのは、どの証券会社でも同じだった。支店の営業担当者はみな、土地持ちや中小企業のオーナー、資産家などの太い客をつかんで、いかに株や投資信託などの商品を頻繁に売買させて手数料を積み上げるのかに必死になっていた。会社から『この商品をこれだけ売れ』という目標が課されるので、顧客がそれを買って儲けるか損するのかは二の次で電話をかけたりして売り込んでいた。ボーナスは各期の成績によって大きく変動するので、上客をつかめば20代後半で年収1000~2000万円になることも珍しくなく、向いている人には良い職業だといえる」
「大手証券各社がノルマ営業をやめたから収益力が落ちてきているといわれるが、単純に顧客側が賢くなって『証券会社から言われるがままにやっていたら損する』『ネット証券のほうが稼げる』ことに気づいてしまったという要因が大きい。かつてはお金に余裕がある層が証券会社の営業担当者の営業トークに基づいて株を売ったり買ったりというのが一般的で、顧客本人は得している気になっていても、10~20年の長いたタームでみれば事実上の回転売買をさせられて多額の手数料を取られ損しているというケースがざらだった。2000年代に入り、既存大手に比べて手数料が数分の一のネット証券が徐々に台頭し、投資家サイドも『ネット証券に口座をつくり、自分でしっかり勉強して自分の判断で売り買いするほうがよい』と気が付いた。特に30~50代は、電話や対面でダイレクトに営業をかけられることを嫌がる傾向が強い。既存大手の証券会社がノルマ営業をやめたのは、単純に従来の手法が通用しなくなったというだけ。顧客に有益な提案をできない営業担当者は不必要になったということで、業界全体でみれば健全化が進んでいるといえる」(メガバンク行員)
証券業界に押し寄せている変化は大きいようだ。
(文=Business Journal編集部)