わかっていてもやめられないのが人間なのか…。
昨年12月に『Environmental Challenges』に発表された研究結果によると、アメリカのユタ州にあるグレートソルト湖の縮小の約2/3は、本来なら湖に流れ込むはずの河川水を人間が使用しているのが原因だそうです。
19世紀半ば続く水位低下の原因は人間活動
グレートソルト湖は、氷河期にこの地域を覆い尽くしていた巨大な湖の名残です。1847年の観測開始以来、水位は上下を繰り返してきましたが、現在は長さ120km、幅56km、最大深度10mほど。
2021年に過去最低の水位を記録しましたが、その翌年にはその記録をあっさり更新しちゃいました。
研究論文によると、本来なら湖を潤すはずだった河川水の約62%が「人間活動による消費」に使われているとのこと。そのうち71%が農業用で、その農業用水の約80%が100万頭に満たない牛の飼料用作物の栽培に使われているとのこと。
論文の共著者であるオレゴン州立大学の生態学者、William Ripple氏は大学のプレスリリースで「この研究は、家畜の飼料を育てるための水消費が湖の急激な枯渇を促している憂慮すべき役割を浮き彫りにしています」とコメントしています。
実は、この湖の変化は目新しいものではありません。ユタ州立大学の報告では、湖の水位は19世紀半ば以降、減少傾向にあるそうです。
アメリカ地質調査所(USGS)のユタ水科学センターによると、1959年に鉄道の高架橋で湖が分断されたことによって、新たにできた2つの湖の塩分濃度が大きく変化したそうです。また、この湖には流出河川も流入河川もないため、蒸発や大雨で水位が劇的に変動するのだとか。
Ripple氏は次のように説明します。
1980年代から90年代にかけて雪解け水が異常に大量流入したため、長期的な水位低下が一時的に覆い隠され、1987年には100年以上で最高水位を記録しました。でも、それ以降は年平均約10cmずつ低下しています
グレートソルト湖を再びグレートな湖に戻すには
湖の水位回復のために、地域の人間活動による河川水の使用を35%削減するよう研究チームは提案。特に、家畜の飼料生産について具体的な削減案を提示しています。
研究チームは「最も効果的な解決策は、アルファルファの生産を61%削減し、干し草生産の26%から55%を削減することです。これによって農業収入は年間9,700万ドル(州のGDPの0.04%)減少することになります」と述べています。それでも、ユタ州の住民に減少した収入を補償することは可能とチームは付け加えています。
こういう計画は、理論上は実現可能でも、実際に住民の理解を得るのは容易ではありませんが、グレートソルト湖の水位回復への道筋を示すものといえます。
研究チームによると、湖は鉱業、レクリエーション、ブラインシュリンプ(塩湖に生息する小型のエビ)漁によって約9,000人の雇用と25億ドルの経済活動を直接支えています。
一方で、湖の水位が低下するにつれて露出する塩湖の湖底は健康リスクを引き起こす粉塵を発生させ、人間の呼吸器系に悪影響を及ぼす可能性があります。
現在も、グレートソルト湖の平均水位と容量は減少を続けています。でも、この研究で問題の核心が明らかになり、縮小しつつある巨大な水域への負担を減らす方法が提案されたことは、グレートソルト湖復活への足がかりになるでしょう。