IT業界の多重下請け構造脱却のカギとは?キッカケクリエイション社 代表とデジタルハリウッド社『G’s ACADEMY』事業部長に聞く

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株式会社キッカケクリエイションは、デジタルハリウッド株式会社が運営する起業家・エンジニア養成スクール『G’s ACADEMY』(ジーズアカデミー)主催のハッカソンイベント「HACK SONIC」に協賛し、エンジニア育成及びキャリア学習を応援していくことを明らかにした。

IT業界の多重下請け構造からの脱却を目指す展開であり、多くの関心を集めているといえる。そこで、今回の提携に至った経緯やエンジニアに対する思いについて、株式会社キッカケクリエイション代表取締役社長の川島 我生斗氏と、デジタルハリウッド株式会社 ジーズアカデミー事業部事業部長の児玉 浩康氏に話を聞いた。

編集部:簡単に自己紹介と、それぞれの会社の事業について教えていただけますでしょうか?
川島氏:私はキッカケクリエイション代表の川島 我生斗と申します。本日はよろしくお願いします。弊社は「良い未来を、いまカタチに。」をパーパスに掲げ、IT産業の活性化を事業ドメインとして取り組んでおります。

主な事業として、インフルエンサーリクルーティングという新しい事業形態を構築しており、そのパイオニアとして運営しているのが、YouTubeのITエンジニア転職チャンネル「IT菩薩モロー(モローチャンネル)」です。また、IT専門のキャリア支援企業として、キッカケエージェントというITエンジニア専門の転職支援事業も展開しております。本日はよろしくお願いいたします。

児玉氏:私は『G’s ACADEMY(ジーズアカデミー)』という学校を運営しております、児玉と申します。ジーズアカデミーは2015年にデジタルハリウッドの新規事業として立ち上げた、起業家とエンジニアを養成する学校です。

創立から9年の間に、卒業生たちが110社を起業し、累計150億円の資金調達に成功しております。また、様々な大企業の新規事業や業務改革を支援するための人材育成も行っております。本日はよろしくお願いいたします。

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左がデジタルハリウッド株式会社 ジーズアカデミー事業部 事業部長 児玉 浩康氏、右が株式会社キッカケクリエイション 代表取締役社長 川島 我生斗氏

編集部:協賛に至った経緯を、それぞれ教えていただけないでしょうか。
川島氏:はい。「日本の労働生産性が低い」という大きな社会課題があり、その要因のひとつがデジタル化の遅れです。もちろん人手不足もあげられますが、日本のエンジニアが多重下請け構造に依存していることにより、ハイスキルなエンジニアが育ちにくい土壌が形成されていることも大きな課題です。

一方で、ジーズアカデミーさんの起業家育成をコンセプトとした取り組みには、我々としても非常に共感しました。各企業がSIerに依存するのではなく、日本もアメリカのように内製化を推進していくべきだと考えており、ジーズアカデミーのような取り組みがさらに増えていくことが重要だと考えており、今回協賛するかたちとなりました。

児玉氏:ジーズアカデミーのカリキュラムの95%は「プログラムを書いて、ものをつくる」という内容です。ただ座ってビジネスを学ぶのではなく、手を動かして「ものをつくる」というクリエイティブな行為の中から未来の事業が生まれてくると考えています。実際、スタートアップの世界もそのようにして生まれてきました。
このような考え方から、私たちは起業家を育成しているというよりも、「クリエイティブなエンジニアを育成した結果、起業家になっている」というのが実態です。

一方で、キッカケクリエイションさんが進めている内製化の推進については共感する部分が多くあります。日本ではエンジニアといえば日本ではエンジニアといえば受託業が主要産業であり、「エンジニアは外注先の人」という認識がまだまだ一般的です。

この状況を変えていかなければならないという課題意識を共有し、意気投合しました。そうした背景のもと、エンジニアのクリエイティビティを爆発させることを目的としたジーズアカデミーのハッカソンイベント「HACK SONIC」に、キッカケクリエイションさんにご協賛いただくことになった次第です。

川島氏:転職支援の課題として、あまりにも情報があふれ過ぎており、エンジニアが混乱している状況があげられます。たとえば、エンジニアがスカウトサイトに登録すると、1通5,000円で購入するスカウトDMが1ヶ月に500~1,000通近く届きます。しかし、その返答率はわずか0.5%~1%にとどまっています。このような状況では、エンジニアも混乱し、企業側も「1通5,000円の費用対効果が見合わない」と不満を抱いています。

エンジニアは、何が真実なのかわからない中で、重大な選択である転職に向けて慎重に情報収集を行なっています。そのような状況の中、弊社のYouTubeチャンネルは顔出しで運営しているため、安心感があるというお声を頂いております。とくにITエンジニアは求人倍率が15倍と非常に高いため、このマーケットには大きな課題があると感じています。

育成の課題については、ジーズアカデミーさんの存在意義に深く関わる内容だと思っています。日本では、PM(プロジェクトマネジャー)・PL(プロジェクトリーダー)・メンバークラスといったかたちで、エンジニアの中にも明確な階層があります。しかし、とくにPL不足が深刻で、新しいエンジニアが増えているにもかかわらず、その指導者となる人材がいないため、エンジニアのスキルが十分に向上しないという課題があります。職場だけでなく、職場以外の場でこうした育成の機会があることは非常に良いことだと考えています。現状の課題はPM層やハイスキルなエンジニアの不足に尽きると言えるでしょう。

児玉氏:PMやPLといった人材、特にPdM(プロダクトマネジャー)やPjM(プロジェクトマネージャー)の仕事について言えば、情報系学部や専門学校でプログラミングを学んできただけでは十分ではありません。ユーザーの気持ちを深くく理解し、課題解決するための柔軟な発想、すなわち事業理解が非常に重要です。

そのため、営業やカスタマーサクセスといった職種でユーザーと接していた経験を持つ方が、エンジニアリングを学ぶことでより高い適性を発揮する場合が多いと感じています。我々が起業家とエンジニアを同時に育成しているのは、こうしたPdM・PjMといった職種の拡大にも貢献していると考えています。

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株式会社キッカケクリエイション 代表取締役社長 川島 我生斗氏

編集部:「HACK SONIC」開催の狙いと参加者に期待する効果を教えていただけますか?
児玉氏:Web技術は、2012年頃から群雄割拠の時代に突入し、さまざまな技術が登場しては淘汰されるという過程を繰り返してきました。2010年頃までWebコンテンツの中心であった「Flash(フラッシュ)」が淘汰される一方で、多くのOSS(オープンソース)やライブラリが次々と誕生しました。こうした様々な技術をエンジニアたちが楽しみながら触れ、試行錯誤する中で生まれてきた文化がハッカソンです。

ただWebサービスが社会に定着したことで技術もコモディティ化し、徐々に安定してきました。最近のプロダクトでは、業界特化型の「Vertical SaaS(バーティカルSaaS)」が大きく成長しています。身近な例としては「Salesforce」や「SmartHR」などがあげられます。その結果、目新しい技術を活用することよりも、事業理解の重要性が増してきています。

結果として、Web技術の先にある新しいものや面白いものを見つけようとする人たちが、以前に比べて少なくなっていると考えています。2024年には生成AIが注目され、「なんでもAIでよい」という考え方すら出てきました。また、コロナ禍をきっかけにハッカソンというイベントの開催も減少しました。
しかし、私たちは、テクノロジーを活用した自由なものづくりこそが、初めてユニークなビジネスへと変わる源泉であることを、体験的に理解しています。

そのような背景から、「HACK SONIC」はビジネス的な事情に振り回されることなく、エンジニアたちが自由にクリエイティブなものづくりに挑戦できるハッカソンとして始まりました。これは新しい取り組みというよりも、エンジニアたちが再び楽しくものづくりに挑戦できる自由な場所を取り戻そうという想いから生まれたものです。

編集部:ジーズアカデミーがエンジニア育成おいて重視している点を教えてください。
児玉氏:受講者それぞれの個性をテクノロジーで表現することが重要だと考えています。
シリコンバレーの例を見てもわかるように、スタートアップは「エンジニア起業家」たちが起こした事業が中心です。ビジネス的にマーケットが見えていたり、ニーズがあると分かって事業を立ち上げたというよりも、エンジニア個人が「面白い」と思ったことを突き詰め、それをプロダクトとして世界に発信し、そのプロダクトを徐々にマーケットにフィットさせていくというプロセスで成長しています。

このプロセスこそが、スタートアップと日本に元からあるビジネスとの大きな違いであると考えています。
したがって、個人の信念や価値観、私たちが「Why me」と呼んでいるものを、テクノロジーを通じて表現できるようになることが最も重要だと考えています。

編集部:今後のハッカソンやエンジニア育成に向けた展望を教えてください。
児玉氏:最近は生成AIが注目されていますが、語弊を恐れずに申し上げると、いずれ「当たり前のもの」へと変わっていくでしょう。実際、生成AIが身近になり、多くの方がその使い方に慣れてきたことで、現時点でAIができることの限界を理解する人も増えてきたのではないでしょうか。

瞬間的にもてはやされるテクノロジーは今後も毎年のように登場するでしょう。来年注目される技術もすでに控えている状況です。そのため、「生成AIが登場してエンジニアがいらなくなる」といった意見もありますが、そうした流行り廃りに関係なく、人間のクリエイティビティはその先にあると考えています。
そもそも、テクノロジーは常に未完成なものであり、そのテクノロジーを発展させていくのは人間のクリエイティビティです。

これからの展望としては、エンジニアという職種に限定せず、テクノロジーを通じて何かを表現したいと考える人々の可能性を広げ、人間のクリエイティビティや想像力をさらに高めていくことが重要だと考えています。そうした取り組みができる機会を増やしていきたいと思っています。

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デジタルハリウッド株式会社 ジーズアカデミー事業部 事業部長 児玉 浩康氏

編集部:多重下請け構造について、御社が取り組んでいる解決策があれば、教えてください。
川島氏:弊社が運営しているITエンジニア向けの映像メディアでは、「働き方で損をするエンジニアをなくしたい」というコンセプトのもと、現状のトレンドやエンジニアが騙されがちな会社の特徴について、多くの情報を発信しています。少し話が長くなりますが、日本にはエンジニアを抱えて派遣する会社が4万3,000社あります。これはコンビニの数よりも多い状況です。その結果、キャリアアップができないという問題が広がっています。このような課題について、私たちはYouTubeを通じて情報を発信しています。

私たちは、ビジネスの利益追求以前に、会社として社会に有益性を発揮することを経営の前提と考えています。そのため、単に企業を紹介するだけでなく、多重下請け構造をなくすための取引ポリシーを企業側に設けています。たとえば、「商流」と呼ばれる建設業界の一次請け、二次請け、三次請けのような構造が、IT業界では七次請け、八次請けにまで及ぶ場合がありますが、商流が深い企業とは取引を行いません。また、マネジメントスキルが重視される中で、「リーダー経験が10年かかる」といった企業とも取引を控えています。

さらに、「エンジニアのキャリアに向き合っていない企業」を20におよぶチェック項目で確認し、その基準を満たさない企業の紹介は改善に向けたアドバイスをさせて頂きます。結果的に、世間的にもエンジニア的にも弊社的にも「三方よし」のIT企業だけが取引先となることで、日本全体の成長性がさらに高まると考えています。そのような方針のもと、取り組みを進めています。

編集部:ジーズアカデミーとの協業を通じて、どのような成果を期待していますか?
川島氏:ジーズアカデミー様のお取り組みは、日本の内製化を後押しする点で非常に意義深いものです。そのため、まずパブリシティの拡散が重要であると考えています。

2つ目として、今後寄付講座を実施させていただき、転職エージェントという枠にとどまらず、より客観的な立場から選択肢を提示する講座を展開したいと考えています。このような形で、選択肢を提示する役割を担えればと思っています。

また、弊社といたしましても、教育事業分野に強い関心を持っておりますので、共同開発の可能性についてもぜひご検討いただければと考えております。

編集部:今後の新しい取り組みがあれば、教えてください。
川島氏:転職エージェントの仕事は、候補者様を企業にご紹介し 入社していただくことがゴールである場合が多いです。しかし、それだけでは顧客満足度を十分に向上させることができません。そこで、当社では入社後のアンケートを多めに実施しており、3ヶ月、6ヶ月、1年のタイミングでデータを収集しています。

このデータを、候補者様のキャリア、志望する 企業、入社後のアンケート結果の3つを掛け合わせて分析することで、10カ年のキャリアパスデータを蓄積し、より効率的なキャリアパスを設計できる会社を目指しています。また、そのプロセスにはAIの活用も視野に入れています。

当社のような中小規模の人材紹介会社の強みは、親近感や真心といったアナログな部分にあると感じています。一方で、当社としてもSFA/CRMなどデータ投資を積極的に行っており、解決できる部分については、データの力を最大限活用していきたいと考えています。

編集部:最後に何かお伝えしたいことはございますか?
川島氏:先ほどお話ししたYouTubeの「モローチャンネル」は、2019年から運営をスタートしており、現在では配信本数が累計で1000本近くに達しています。週に2回、夜にライブ配信を行い、視聴者のキャリアに関するお悩み相談会を実施するなど、双方向のコミュニケーションを重視しています。

また、リアルイベントでは大手企業様とコラボレーションし、若手エンジニアのキャリアを考えるセミナーや首都圏のバーにてエンジニアが気軽に交流ができる「ITエンジニアBAR」を企画するなど、さまざまな角度からITキャリアの支援に取り組んでいます。

ぜひこの記事をご覧の皆様にも、「モローチャンネル」をご覧いただければ幸いです。

児玉氏:ジーズアカデミーは来年の春で開校10周年を迎えます。それに伴い、10周年の記念となる受講生を募集しております。ぜひご興味のある方は説明会にお越しください!

編集部:本日は、ありがとうございました。

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左がデジタルハリウッド株式会社 ジーズアカデミー事業部 事業部長 児玉 浩康氏、右が株式会社キッカケクリエイション 代表取締役社長 川島 我生斗氏

デジタルハリウッド株式会社 ジーズアカデミー事業部 事業部長 児玉 浩康氏が語る!起業家・エンジニアへの想い


YouTube:https://youtu.be/S1Gf4G7Onbk

多重下請けなどで転職やスキルアップに悩んでいるエンジニアは、YouTubeの「モローチャンネル」を参考にしたり、両社のサービスを利用したり、ハッカソンイベントに足を運んでみては如何だろうか。

株式会社キッカケクリエイション
ITエンジニア向けの転職・キャリア支援サービス「キッカケエージェント」

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