ツイッター上で、「歯磨きの際、歯ブラシに水と歯磨き粉をどうつけるか」という投稿のリプ欄に多くのユーザーがコメントし、世界的に大きな論争になった。
最近の研究では、歯が全身の健康に与える影響が大きいことが明らかとなり、歯磨きは健康維持のためにも重要といえる。そうなると正しい歯磨きをすることが不可欠だが、自己流の歯磨きになっている人も少なくないだろう。東京都足立区のオレンジ歯科、村上明日香院長に正しい歯磨きについて聞いた。
歯科医はどのように歯磨き指導しているのか
「まず、歯ブラシに水と歯磨き粉をどうつけるかということがSNSで論争になっていたということを初めて知り驚きましたが、多くの方が歯磨きに関心を持っているからこそ話題になったと感じています」
筆者の習慣も踏まえての勝手な推測だが、多くの人は無意識に歯ブラシを水で濡らしてから歯磨き粉をつけているのではないだろうか。
実際には、歯磨きの際には決まった手順があるのだろうか。
「歯ブラシに歯磨き粉と水をどの順番でつけるかということに決まりはありません。しかし、歯科医としては、患者さんに説明するときに、歯ブラシは乾いたままで歯磨き粉をつけてくださいという話をします」
これは村上医師に限ったことではなく、多くの歯科医師が同様の指導を行っており、そこにはしっかりと歯を磨くための理由があるという。
「乾いたまま歯ブラシを使うほうが良い理由は、歯ブラシを濡らすと歯磨き粉の泡立ちが良くなり、磨けていないのにもかかわらず、泡立ちの良さによって磨けたような気になってしまい、きちんと磨かなくなってしまうからです」
歯磨きの目的から考えると、乾いた歯ブラシに歯磨き粉をつけて磨くほうが歯磨き本来の目的を果たせるという。
「歯磨きの目的は、歯の表面についた、もしくは歯と歯の間に入り込んだ食べカスや、むし歯や歯周病の原因菌が含まれているプラークを取り除くことです。もし、泡立ちの良さのために磨けた気になって、きちんと歯を磨けなくなっては、歯磨き本来の目的を果たすことができなくなります。ですから、歯磨き前に歯ブラシを濡らさず、乾いたままで歯磨き粉をつけるように勧めています」
使う前に歯ブラシを洗わなくても衛生的に問題ないのか
「歯ブラシを濡らしてから歯磨き粉をつけることが駄目だとは言いませんが、あくまでも本来の目的を忘れず、先に歯ブラシに水をつけたことで歯磨き粉が泡立ちすぎるようであれば、一度うがいをして再度歯磨きをするようにしてください」
しかし、歯ブラシを濡らしてから歯磨き粉をつける人は、歯ブラシの汚れを取ることが目的の一つだろう。歯ブラシを水につけずに使用することは不衛生ではないのだろうか。
「私たちは普段からたくさんの細菌たちと共生しています。また、空気中のほこりや細菌も生活するだけで体に入ってきています。そのため、歯ブラシがすぐに不衛生になるというわけではありません。しかし、歯ブラシ後はよく洗って水気を取り、換気の良いところに置く必要はあります。湿気の多いところだとカビが発生します。
色々なことを加味すると、歯ブラシは1カ月に1回、交換するのが望ましいです。また、歯ブラシを後ろから見たときにはみ出して見える時は、1カ月たっていなくても交換してください。毛先の広がった歯ブラシで磨くと、汚れが取れないどころか歯茎を傷つけてしまいます」
また、清潔な歯ブラシにつける歯磨き粉の量にも適量があるという。
「テレビCMのように歯ブラシいっぱいに歯磨き粉をつけてはいけません。使用量の目安は、生後6カ月〜2歳で3mm程度、3〜5歳で5mm以下、6歳以上で1cmくらいを参考にしてください。
ちなみに歯磨き粉の幅は、歯磨き粉のチューブの口と同じくらいの幅です。たくさん歯磨き粉を使っても、歯磨き粉を使いきれず、きちんと磨けなくなるので注意してください」
歯ブラシを清潔に保ち、適量の歯磨き粉を用いて正しいブラッシングを心掛けることが、きれいな歯を保つ秘訣といえる。
「正しいブラッシング法を知らない方も、意外と少なくありません。ブラッシング方法は歯医者さんで、ぜひ聞いてください」
唯一絶対の正解はないのかもしれないが、現時点において多くの歯科医がお勧めしているのは、歯ブラシは濡らさず、少なめの歯磨き粉で、丁寧にブラッシングする、ということのようだ。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)