「病は気から」という言葉がありますが、近年は実際にさまざまな精神的要因が病気や健康問題に関連していることがわかっています。新たな研究では、自身の中に矛盾する複数の認知を抱えて不快感を覚える「認知的不協和」を経験する人は、そうでない人と比べて体への負荷が増加してしまう可能性があると示されました。
Cognitive dissonance increases spine loading in the neck and low back: Ergonomics: Vol 0, No 0
https://doi.org/10.1080/00140139.2023.2186323
Your thoughts can harm your neck and back during lifting tasks
https://news.osu.edu/your-thoughts-can-harm-your-neck-and-back-during-lifting-tasks/
Thoughts Inside Your Head Can Unleash Physical Pain, Study Finds : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/thoughts-inside-your-head-can-unleash-physical-pain-study-finds
体に生じる痛みは単なる身体的な反応ではなく、社会的・心理的なストレッサーとも複雑に相互作用している現象です。そのため、経済状況や精神状態の悪化によって引き起こされることもあるほか、瞑想(めいそう)や親切な行動が肉体的な痛みを緩和するということもわかっています。
オハイオ州立大学のSpine Research Institute(脊椎研究所)でエグゼクティブディレクターを務めるウィリアム・マラス教授は、過去の研究で心理的ストレスが脊椎に物理的な影響を及ぼすことがわかっていると指摘。「特定の性格タイプでは、脊椎の負荷が最大35%増加することがわかりました。このような心理社会的ストレスにさらあれると、体幹の筋肉が共活性化される傾向があります。常に体が緊張状態にあるため、筋肉が引っ張られるのです」と述べています。
新たにマラス氏らの研究チームは、相いれない複数の信念が心の中に生じてしまう「認知的不協和」が、背中や脊椎に物理的な影響を及ぼすのかどうかを調べる研究に取り組みました。マラス氏は、「この研究では心と体のつながりを探るために、人々の考え方と思考によって心が乱される認知的不協和を調査しました」と述べています。
研究チームは招待した17人の被験者にモーションセンサーを装着してもらい、「軽い箱を正確な位置に移動させる」という簡単なタスクを行わせました。被験者の年齢は18~44歳であり、男性が9人、女性が8人でした。
被験者は、まずはタスクの練習を目的とした短いトライアルを1回行った後、45分間のタスク実行トライアルを2回繰り返しました。2回の実行トライアルのうち、1回目のトライアルでは作業中の被験者に対して「うまく作業できている」といった肯定的なフィードバックが与えられましたが、2回目のトライアルでは被験者の動きが変わっていなくても「十分なパフォーマンスが出せていない」といった否定的なフィードバックが与えられました。この間、研究チームはセンサーとモーションキャプチャーで被験者の脊椎にかかる負荷を測定すると共に、血圧や心拍数の変化およびアンケート結果を基に被験者が感じていた認知的不協和を推定したとのこと。
分析の結果、被験者はネガティブなフィードバックに苦しんで認知的不協和を起こしていた時に、そうでない時と比較して首の頸椎(けいつい)にかかる負荷が9.4~19.3%増加し、腰部への負荷が1.7~2.2%増加することがわかりました。マラス氏は、「この研究の動機のひとつは、認知的不協和の影響が腰以外の部位にも現れるかどうかを確認することでした」「その結果、首にかなり強い反応がみられました」と述べています。
脊椎への負荷が増加すれば、それだけ痛みが発生する可能性も高くなります。マラス氏は、「ほんの数%の負荷が1回だけかかるのであれば大したことはありません。しかし、毎日のように働いていて週に40時間もこうした作業をする仕事に就いている場合を考えると、これは重大なことであり、障害が現れるかどうかの分かれ目になるかもしれません」と述べ、認知的不協和が重大な影響を及ぼす可能性があると主張しました。
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