コナミが優勢か…「ウマ娘」差止め訴訟の勝算と本気度、パワプロと酷似との指摘も


Cygames(サイゲームス)のHPより

 5月12日、人気ゲームタイトル「ウマ娘 プリティーダービー」開発・運営元のCygames(サイゲームス)の親会社サイバーエージェントは、大手ゲームメーカーのコナミデジタルエンタテインメントからウマ娘をめぐって訴訟を提起されていることを明らかにした。本作は、実在の競走馬を擬人化したキャラクターを育成し、レースに挑む育成シミュレーションゲーム。競走馬をリスペクトするストーリーやキャラクター設定、やりこみ度の高いゲームシステム、漫画やアニメなどとのメディアミックス展開が話題を呼び、社会現象を引き起こした。3月24日までにダウンロード数は1800万を突破している。

 しかし、コナミは、ウマ娘のゲームシステムが同社の持つ特許権を一部侵害していると主張。損害賠償等40億円および遅延損害金をCygamesに要求するほか、ウマ娘の提供の差止めも求めているという。Cygamesはコナミの持つ特許権を侵害した事実はないと主張しているものの、大ヒットゲームの行く末がどうなるか、気になる人は多いだろう。そこで今回は、アート・エンタテインメント法務を専門とする「骨董通り法律事務所」に所属する弁護士・橋本阿友子氏に話を聞いた。

パワフルプロ野球との類似性も…業界では特許権で争ったケースも

 ネット上では、コナミのタイトルである「実況パワフルプロ野球」「ときめきメモリアル」シリーズとウマ娘の類似性を指摘する声が多数見受けられた。

 ウマ娘は、3年間という決められたシナリオの期間でスピードやスタミナなどのパラメータを上げて育てるゲームシステム。シナリオがひとつ終わるとウマ娘の育成はストップし、再度シナリオを始めることで新しくウマ娘を育成することができる。

 これが、実況パワフルプロ野球の『サクセス』という野球選手を育成するシステムに類似していると指摘されているのだ。もちろん細かく比較してみると、UIやデザインには差異があるので一概に盗用とは断定しづらい。しかしこれほどゲーム性の類似について言及する声が多かったことを踏まえると、コナミが訴訟を起こすのもあり得ない話ではないのかもしれない。

 橋本氏いわく、今回の訴訟が特許権の侵害を主張していることに注目すべきだという。

「公開されている情報が少ないため詳細はわかりかねますが、今回の訴訟は、コナミが過去に実況パワフルプロ野球シリーズで取得した特許を、Cygamesが展開するウマ娘で使用されたことを理由に、Cygamesがコナミの特許権を侵害しているとして提起されています。そもそもの話ですが、特許は20年という期限付きであるだけではなく、取得にあたり時間を要し、費用が高額になる場合もあります。そのため、特許を取得するか否かは、企業の戦略に寄るところが大きいと思います。

 Cygamesはコナミとの間で、ゲームのプログラムとシステムについての協議を行ったものの交渉がまとまらず、訴訟にまで至ってしまったというのが、本件の経緯です。大企業は可能な限り訴訟ではなく交渉で事を解決する傾向にありますが、ウマ娘はパワフルプロ野球との類似性がかねてから指摘されており、訴訟にまで至ったのは、リリースから2年半ほどでビッグコンテンツに成長してしまったという背景も影響しているのかもしれません」(同)

 実際に特許権侵害でゲーム会社同士が争ったケースは過去にもある。代表的なのは任天堂とコロプラの特許権侵害訴訟である。2018年、任天堂はコロプラの提供する「白猫プロジェクト」が、任天堂の持つタッチパネル関連の特許権などを侵害していたとして東京地裁に提訴。本件は最終的に和解金33億円をコロプラが任天堂へ支払うことによって解決した。

著作権では普遍的なアイデアは守れない…裁判の今後はどうなるのか

 著作権的な観点からアイデア、プログラムの模倣でトラブルに発展するケースもあるが、特許に比べると権利侵害と認めさせるのは困難だという。

「過去にはゲーム内の表現に関する著作権をめぐる裁判が起こりましたが、必ずしも原告側が勝てるわけではないんです。たとえば、2009年に釣りゲーム『釣り★スタ』を提供するグリーが、DeNA提供の『釣りゲータウン2』における一部のシステムを著作権侵害として訴えた裁判。この裁判で争点になったのは、魚を引き寄せるときの画面が酷似していたという点。東京地裁では『グリーの画面の本質的特徴』が『DeNAの画面にも維持されている』と言い渡し著作権侵害を認めた一方、知財高裁では、『実際の水中の影像と比較しても、ありふれた表現といわざるを得ない』と著作権侵害を認めませんでした。

 著作権法が保護するのは『創作的な表現』であり、アイデアが共通しても、著作権侵害とはなりません。また、ありふれた表現が類似するだけでは、創作的な部分が共通するわけではないので、やはり侵害とはなりません。『釣り★スタ』は、まさにその点が問題になった判決であり、単に“似ている”というだけでは、著作権侵害が認められるとは限らない一例です。その他にも、例えば、スマホゲーム『放置少女 ~百花繚乱の萌姫たち~』の開発・運営元企業が『戦姫コレクション ~戦国乱舞の乙女たち~』の開発・運営元企業に対し、著作権侵害を訴えたケースがあり、こちらも著作権侵害に該当しないという判決が下されています」(同)

 著作権は特段の手続きを要せず、著作者の死後70年経過するまで保護期間が定められているので、登録が必要で有効期間も20年である特許権に比べると強力な権利だと橋本氏は言う。しかし、あくまで表現の範囲内でしか作品を保護できないため、ゲーム内のアイデア、プログラムとなるとより具体的な拘束力のある特許権のほうが、自社の利益を守るためには有効な面もある。では、今回の裁判は今後どんな展開を迎えるのだろうか。

「訴訟にまで持ち込んだということは、コナミ側は勝ち目のあると判断した特許権に基づいて訴訟を提起していると考えられ、裁判で特許権侵害が認められる可能性は充分あると思います。もっとも、一度訴訟になった後に、裁判上の和解で解決する場合もあります。コナミが訴訟で勝訴した場合、Cygamesはウマ娘のサービスを終了しなければならなくなるため、もし裁判所から和解の話が出た折には、Cygames側は和解で終了する方にメリットがありそうですが、コナミ側が和解に応じるかは、株主の意向や裁判所の心証次第かと思います」(同)

(取材・文=文月/A4studio、協力=橋本阿友子/弁護士)

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