東京五輪・パラリンピックのメイン会場だった国立競技場は、30年間の運営権が民間事業者に売却されるが、参画を検討する事業者を対象とした意見公募が先月末から今月初めにかけて行われた。7月に募集要項が公表され、民営化は2025年4月からスタートする。
国立競技場をめぐっては、五輪後の利用計画策定が難航し、昨年12月に新たな方針がまとまった。球技専用の施設に改修するとした当初の政府方針を転換し、陸上トラックが残されることになった。また、国も年間10億円を上限に維持管理費を補填することなどが盛り込まれた。しかし、国の負担は、借地料や修繕費を含めると毎年30億円を超える可能性を指摘する声もある。
使い勝手の悪い国立競技場
現在すでに赤字を垂れ流している状態の国立競技場の経営を立て直すには、参画する事業者に積極的に活用してもらうしかないのだが、実はかなり使い勝手の悪い施設だ。ネットでは「新国立競技場が出来ない事リスト」というものも広まっている。それによれば、例えば、野球。国立競技場の形はどう見ても、野球には使えそうにない。運営・管理を担っている文科省所管の独立行政法人、日本スポーツ振興センター(JSC)に問い合わせたところ、「検証をしておりませんので分かりかねます」との回答だった。
次に、サブトラックがないので、陸上やインターハイ、国体などに使えないのではないかという指摘だ。しかし、2025年世界陸上の開催が決まっており、なんとか問題はなさそうである。陸上競技のトラックは、陸上以外のスポーツ(サッカーやラグビーなど)にとっては邪魔なだけだ。そのため、2017年には五輪が終わったらトラックを撤去してより球技種目を実施しやすい競技場に改修しようということになっていた。しかし、その方針が昨年変更されたのは前述の通り。スポーツライターの小林信也氏はこう話す。
「陸上界からの働きかけもあったと思うし、日本人にありがちな『何にでも使えたほうが得』という感覚。ただ、正直言って、陸上競技で採算が取れそうなのは、オリンピックと世界陸上だけではないか。Jリーグの試合でも、間違いなく何万人かの集客が見込めるイベントならともかく、J2のチームが毎度使えるような料金にはなっていないと思う」
屋根がなく防音設備がない。空調設備もない
収益性が高く、黒字化するのに手っ取り早いのは、コンサートや大規模イベントだ。しかし、国立競技場は屋根がないので近隣への騒音問題があり、空調設備がないために夏は暑く冬は寒い。とても通年でコンサートができるような施設ではないのだが、この点をJSCに問い合わせたところ、「開催実績がございます」との回答だった。昨年8月末には矢沢永吉のコンサートが2日間にわたって開催されており、そのことを指していると思われる。
「観客席から日除けがかなりせり出しているので、そこに開閉式のテント地屋根を付けることは可能だ。今は東京ドームで使われているものより進化したものがあって、透明のものもある。テニスコートぐらいだと、数分で開け閉めできる。おそらく国立競技場くらいの広さでも30分あれば閉められるのではないかと専門業者から聞いた」(小林氏)
スポーツへのビジョンも理解もない政府
国からの10億円補填は今後議論を呼びそうだが、防音・空調設備を工事するにしても、多額の費用がかかる。小林氏は、スポーツ施設維持費の財源はスポーツ界が独自につくることを真剣に考えるべきだと提言する。
「スポーツ庁の予算は、東京オリンピック開催の年でも354億円。新しい国立競技場は建設前から赤字になることはわかっていた。日本でもスポーツベッティング(スポーツ対象の賭けビジネス)を認めてはどうか。国に予算がない以上、最も有効な施策。アメリカでは2018年に合法化され、市場が伸びている。試算によると、日本で野球やサッカーなど全部アメリカ方式でやると7兆円の売上になる。その一部、仮に25%を還元しても1兆7千億円前後がスポーツ界に入る」
公募しても運営権獲得を名乗り出る企業が現れなければ、公費負担は膨らむばかりだが、現れたとしても、スポーツに対するビジョンがしっかりした企業でないと、国民からの理解は得られないだろう。国立競技場を「負のレガシー」にしないためにも、スポーツベッティングは検討に値する。
(文=横山渉/ジャーナリスト、協力=小林信也/作家・スポーツライター)