プロ野球、読売巨人軍が本拠地を東京・築地に移転する計画が浮上しているという話が、一部で取り沙汰されている。候補地は築地市場跡地で、現本拠地の東京ドームを離れ、築地市場跡地に新スタジアムを建設するという構想だ。築地市場跡地の利用をめぐっては、「食のテーマパーク」とする東京都の方針が事実上、白紙になり、移転の有力地として再浮上した。東京ドームは巨人軍にとって自前の施設でない上、老朽化も進んでいることから、「移転は現実味を帯びている」と指摘する声も少なくない。
築地市場跡地は19.4haで、このうち東京ドーム4個分に当たる18.7 haが貸付対象になっている。都営大江戸線の築地市場駅、東京メトロ日比谷線の築地駅から徒歩1分で、銀座にも歩いて行ける抜群の好立地を誇る。巨人軍の築地移転は以前からささやかれていたが、小池百合子都知事が2017年、築地市場の跡地利用について「食のテーマパーク」とする方針を打ち出し、移転構想は振り出しに戻ったといわれた。しかし、19年に都が発表した築地市場の再開発方針には「食を中心とした事業」という記載がなく、巨人軍本拠地の移転話が再燃した格好だ。
関係者の話では、新球場は野球を中心とする総合エンターテイメントの拠点となるボールテーマパーク型スタジアムになる構想だという。屋根も開閉式で、芝も人工芝の東京ドームと違い、天然芝にするビジョンも描かれている。「球場完成を機に、巨人OBの松井秀喜氏を監督として招へいすれば、盛り上がるだろう」と期待する声も高まっている。
東京都所有の築地市場跡地、共益性に疑問も
東京ドームは1988年の開場で、30年といわれる耐用年数も過ぎるなど、老朽化が進んでいる。22年に100億円規模を投じ、外野のビジョンの横幅を国内最大級の126mに広げたり、空調機能を高めたりする大型改修を実施した。しかし、通路が狭く、席の段差も低くて観戦しにくい旧式の設計構造は手つかずで、老朽化問題は抜本的には解決していない。東京ドームがガラスクロスの天井を内部気圧で持ち上げる方式の手本にした米ミネアポリスのメトロドームもすでに取り壊された。東京ドームはJRと都営三田線の水道橋駅、地下鉄丸の内線の後楽園駅の3駅から徒歩圏内にあり、交通の利便性が高く、長年巨人軍の本拠地を担った「聖地」としてブランド価値もあるが、裏を返せば、魅力はそのあたりにとどまるといっていい。
しかも、東京ドームは所有者が株式会社東京ドームで、巨人軍は年25億円ともいわれる球場使用料を支払わなければならない上、チケット、グッズ販売や飲食などで1試合1億5000万円ともされる興行収入の一部をロイヤルティーとして納めなければならない。阪神タイガースや中日ドラゴンズ、ソフトバンクホークス、オリックス・バファローズが事実上、自前の球場を持っているほか、23年に札幌ドーム(札幌市)からエスコンフィールドHOKKAIDO(北広島市)へ移転した北海道日本ハムファイターズなど、球団による球場の所有化が進んでいる。球場使用料や興行収入の一部を納める義務を実質的に負わず、球団経営を楽にしている。
球界関係者は「巨人軍の親会社の読売新聞グループにとって、自前球場は長年の悲願。しかも、移転候補先の築地市場跡地がライバル会社の朝日新聞本社の目と鼻の先にあり、敵陣に橋頭保(きょうとうほ)を築く意味もある」と築地移転を望む意図を明らかにしている。
スポーツジャーナリストの小林信也氏は言う。
「巨人軍の築地移転のニュースを耳にし、巨人軍の傲慢さを感じた。野球場をつくればみんな喜ぶだろうという発想自体が野球離れの進む現代では時代遅れ。巨人ファン、一部の野球ファンは歓迎するかもしれないが、野球に関心のない圧倒的多数の人が支持するとは思えない。築地市場跡地は都の所有で都民のもの。跡地利用はもっと広い公益性の観点から検討すべき。球場の周りにどんな施設をつくり、都民の生活と豊かにどうつながるのか、巨人軍や読売の利益だけでなく、そういうビジョンも重要だと思う」
筆者の取材に対し、株式会社東京ドームは「答える立場にない」と回答、巨人軍からは回答を得られなかった。
(文=Business Journal編集部、協力=小林信也/作家・スポーツライター)