麺茹で不要で手間激減…パスタソース・パキット、専門家が「買わない」という理由


永谷園「パキット」(サイト「Amazon.co.jp」より)

 永谷園のレトルトのパスタソースの新商品「パキット」がじわりと人気を博しつつある。「麺を茹でられるパスタソース」「作り方も味も感動級」というキャッチフレーズのとおり、2つに折った乾麺パスタをソースが入ったパウチ袋にそのまま入れて電子レンジで加熱するだけで、パスタが完成するという優れもの。お湯を沸かしてパスタを茹でる手間や、鍋やトングを洗う手間が省けるため、忙しいビジネスパーソンや子育て中の人々の間で人気を呼んでいるようだ。果たして本当に手間いらずなのか、そしてメーカー希望小売価格300円の価値はあるのか、専門家に実際に料理・実食してもらった。

 現在、スーパーなどの小売店には数多くのレトルトのパスタソースが陳列されており、小売チェーンのプライベートブランド(PB)など安いものだと2人分で100円ほど、高いものだと1人分で400円を超え、価格帯も幅広い。ちなみに高価格帯シリーズとして知られるピエトロ「洋麺屋ピエトロ パスタソース」の「蟹と蟹みそのスパゲティ」は、ある大手スーパーチェーンでは459円(税込)で販売されている。

 そんな競争激しいレトルトのパスタソース市場に新たな試みの新商品を投入したのが永谷園だ。永谷園といえば「お茶漬け海苔」や「おとなのふりかけ」、ちらし寿司の素「すし太郎」、即席みそ汁「あさげ」など国民的ヒットとなった数々の定番商品で知られているが、レトルトのパスタソースのメーカーというイメージは薄い。

 同社が3月に発売した「パキット」は、袋を開けてコップ1杯分の水と乾麺パスタを入れ、電子レンジ(600W)で6分加熱した後にそのまま7分蒸らすだけで食べられるのがウリだ。通常のレトルトのパスタソースを使ってパスタを食べようと思えば、鍋に水を入れてお湯を沸かし、そのなかにパスタを入れて時間を測りながら茹でる必要があり、さらにパスタソースを湯煎したり、調理に使用した鍋やトングなどを洗う必要も生じる。永谷園のHPによれば、調理と洗い物にかかるトータル時間で、一般的なパスタソースと比べて「パキット」は計7分も短縮できるという。また、麺を茹でる水とパスタソースを湯煎する水が不要になるため、使用する水の量が約95%削減でき、ガスコンロを使用して調理する場合よりも二酸化炭素(CO2)排出量を約70%削減できるという。

 気になる味のバリエーションは3種類。隠し味で豆味噌を使い、牛豚ミンチ、玉ねぎをじっくり煮込んだコク深さが味わえる「ボロネーゼ」、ベーコンと3 種のチーズ(ブルーチーズ、カマンベールチーズ、パルメザンチーズ)によりコクや酸味を効かせた「カルボナーラ」、EVオリーブオイルやロレーヌ岩塩、ベーコン、オリーブが入った「ペペロンチーノ」となっている。どれも「茹でたてのアルデンテ食感」が味わえるという。

 そこで、冷凍食品マイスターで電子レンジ料理研究家のタケムラダイ氏に実際に料理・実食をしてもらい、本当に大幅に手間が削減できるのか、そして味はどうなのかをレビューしてもらった。

300円を出して買う価値はあるのか?

 まず、同商品が謳うように、本当に手間が少なくて済むのかどうかという点が気になるが、タケムラ氏はいう。

「一般的なレトルトのパスタソースを使用してパスタをつくると15分くらいはかかるので、時短になるとはいえますが、レンチン後に7分間蒸らす必要があり、『ただ置いておくだけ』ではあるものの、『時間を測らなければならないので面倒』と感じる人もいるかもしれません。また、放置したまま忘れて蒸らす時間が長くなってしまうと、アルデンテの食感が失われてしまうのも難点です。パスタ類の冷凍食品であれば、レンチン後に蒸らす必要なくすぐに食べられるので、手間いらずという点では冷凍食品のほうに軍配が上がると感じます。

 また、レンチン前に水を160ml入れるのですが、計量カップには50ml刻みのものもあり、正しい水の分量を入れないと想定される仕上がり具合にならないので、150mlにしたほうが理想的ではないでしょうか。ちなみにちょっとしたコツですが、袋の上部にハサミで切るように示すマークがありますが、よくみるとガイド線がついていて手で切り取ることができ、手で切り取ったほうが波型で左右互い違いになるため、手で開けやすくなります」

 気になるお味だが――。

「3種に共通していえるのが具材が少ないという点で、調味液とちょっとした具材が入っている程度。カルボナーラはベーコンが風味付け程度にしか入っておらず、ボロネーゼのひき肉も少ない。ペペロンチーノは具材が少ないのに加えて、にんにくの風味もオイル感も弱く、正直にいって、あまり美味しくない。

 そこで具材の『ちょい足し』などの工夫をお勧めします。たとえばボロネーゼは冷凍食品のお弁当用ハンバーグを一緒にレンチンして、それを砕いてソースに混ぜれば具だくさんになります。カルボナーラは卵黄やベーコン、黒コショウを足したり、ペペロンチーノは冷凍野菜を温めて足したりするのもありでしょう」

 では、300円という価格に見合う価値があるといえるのか。

「私なら買わない、というのが正直な感想です。たとえばイオンのプライベートブランド『トップバリュ』には300円以下で美味しく具材も多い冷凍食品のパスタ類が豊富にそろっており、私ならそうした冷凍食品のほうを選びます。ただ、冷凍食品は冷凍庫内で場所を結構取りますが、パキットは常温で保管できるのでストック用として買っておくという用途はあるでしょう。また、冷凍食品に抵抗のある人にとっても選択肢になるでしょう」

(文=Business Journal編集部、協力=タケムラダイ/冷凍食品マイスター、電子レンジ料理研究家)

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