「地域おこし協力隊」として高知県土佐市に移住した人が立ち上げた「カフェ ニールマーレ」をめぐってSNS上で議論が繰り広げられた問題。事の発端は、5月10日に「崖っぷちカフェ店長@理不尽な退去通告、私物化されたNPO法人と戦う」というアカウントで投稿されたツイートだ。そのカフェで店長を務めていた女性が地元の有力者から追い出されかけ、相談した市の職員も「有力者には逆らうな」という態度を取ったとの告発だった。
カフェが入居しているのは「南風(まぜ)」という観光交流施設で、同施設の指定管理者になっているのが「新居を元気にする会」というNPO法人である。これにより、「カフェ」vs.「市+NPO法人」というトラブルの構図が浮かび上がり、市やNPO法人には抗議の電話やメールが殺到した。板原啓文市長は18日にHP上で、「本件に関し、土佐市民の皆様をはじめ多くの関係者の方々にご迷惑ご心労をお掛けしたことに対しまして、大変申し訳なく思っております。この場をお借りしましてお詫び申し上げます」と謝罪しつつも、カフェ店長が告発した内容については「事実と異なる部分も多数」あるとした。
当該NPO法人も、横山昌市理事長の名前でコメントを発表。カフェ側とは弁護士を通じて交渉しているなかでSNSに投稿された、と不快感をにじませつつ、「事実関係につきましては、今後説明したい」とした。当事者三者がそれぞれに代理人弁護士を立てていることから、現在は弁護士同士で協議している模様だ。
国土交通省、土佐市に交付金返還請求も
このトラブル、三者の話し合いに注目が集まっているが、仮に入居中のカフェが退去することになっても、話はそれで終わらなくなってきた。南風は、国からの補助金(まちづくり交付金)1億2000万円を投入して建てられた「観光拠点情報・交流施設」である。国土交通省のウェブサイトによると、観光拠点情報・交流施設とは、「観光拠点(地域の観光名所)に関する情報提供や、観光拠点に関連した観光サービスのための交流機会(体験・学習等)の提供を行う施設であって、訪日外国人旅行者を含む不特定多数の観光客が随時かつ快適に利用できる施設」のことをいう。要するに、観光案内所みたいなものを想定しているので、営利目的のカフェのような商業利用は完全に目的外使用ということになる。収益も「施設の維持管理に必要な程度」しか認められていない。
南風の件について国土交通省都市局に問い合わせたところ、担当者は「本件については調査中で」と言っており、国交省もすでに問題視していることを明らかにした。さらに、今後どのような対応をするつもりか聞いたところ、「本省として近日中に正式に回答する」とのこと。これまで、国の交付金が目的外使用された例はあるのか尋ねたところ、担当者は「そういう例はあるし、会計検査でも指摘されている。対応はケースバイケース」と答えた。そのケースバイケースのなかには、補助金返還請求も含まれており、国交省が土佐市に返還請求することもあるのかと聞いたところ、担当者は否定しなかった。
施設が完成した頃から懸念されていた補助金
国からの補助金については、南風が完成した当初より、将来的に問題になるのではないかという懸念の声が出ていた。NPO法人の現理事長は2階でバイキング方式の農家レストランの営業を希望していたと言われている。しかし、ノウハウがないために、外部から飲食のノウハウを持つ人材を雇ったということだ。すでに営利目的の商業利用の話は出ていたことになる。
2015年12月に開催された土佐市議会(第4回定例会)の議事録を見ると、当時の黒木茂議員が「国からの補助金1億2000万を返して、ちゃんとお金を稼げるように制約を外した方が良いのではないか」というような提案をしている。それに対して市長は「NPOとも協議を十分に重ねながら進めていっておりますので、ご理解をたまわっておきたい」と当たり障りのない答弁に終始している。黒木議員は「これをそのまま進めよったらえらいことなる可能性が強い。そのことを警告して、質問を終わります」と締めくくっているが、現在まさにその通りの事態に陥っているといえる。
(文=横山渉/ジャーナリスト)