健全な自己愛と病的なナルシシズムの見分け方は?

GIGAZINE
2023年04月02日 20時00分
メモ



自尊心は誰にとっても大切なものですが、あまりに自己中心的すぎるナルシシズムは周囲にとって迷惑な上に、本人をも苦しめかねません。愛情や人間関係の問題を専門とするセラピストで、自己愛性パーソナリティ障害やその傾向に苦しむ多くのカップルと接してきた経験のあるアメリカ・アドラー大学のApril Nisan Ilkmen氏が、誰もが持つ自己愛と病的な自己愛の見分け方や、自己愛的な傾向が強い人との関わり方について解説しました。

A little bit of narcissism is normal and healthy – here’s how to tell when it becomes pathological
https://theconversation.com/a-little-bit-of-narcissism-is-normal-and-healthy-heres-how-to-tell-when-it-becomes-pathological-199069


一口にナルシシズムと言っても、正常なものと異常なものとがあります。このうち正常なナルシシズムは、自分自身や自分のこれまでの経歴に対する健全な自負心など、より大きな利益のための一貫性のある自意識のことを指します。

このようなナルシシズムは、程度の違いこそあれ誰でも少しは持っているものです。そのため、多くの人はしっかりとした自信や権利意識を持ちつつ、誰かに共感や思いやりを示すことができます。例えば、健全なナルシシズムをテーマにした2016年の論文の中で研究者は、「健全なナルシシズムは日常生活の中で無意識レベルで発生しており、人々が自分自身を向上させ、人生を進歩させようとする意欲を高めるのに役立っています」と論じました。


しかし、利益を追求するあまり注目や承認を過剰に求め、自分を誇大視するようになると、それはもう健全なナルシシズムとは言えなくなってしまいます。ナルシシズムが病的な域に達した人は、他人を自分の延長と見なすようになるため、ナルシシストの人生に関わる人、特に身近な人はナルシシストの自己イメージに貢献すべく、常に完璧に振る舞わなければなりません。

こうして、病的なナルシシストは他の多くのパーソナリティ障害と同様に親密な人との間で理想化と脱価値化のサイクルを繰り返しながら、いわゆる「有毒な関係」を作り出していくことになります。


病的なナルシシズムに陥った人は、相手が自分の尊大な自意識を肯定してくれるかどうかで関わる相手を選びます。そして、その肯定感を得ることがナルシシストの人間関係の原動力となるため、ナルシシストは一般的に相手には興味がありません。

そのような人間関係についてIlkmen氏は、「ナルシシストを引きつけるのは相手の特徴でもなければ、関係から生まれるつながりでもありません。相手が評判のいいステータスを持っていて、その人が魅力的だと感じれば関係を深めようと突き進みます。しかし、残念ながらナルシシストの相手に対する関心は表面的なので、突然関心を失ってしまうことがあります」と説明しました。


「自己愛性虐待」、つまり病的なナルシシストによる身近な人への加害は陰湿で表に出ないことが多いため、特徴をよく捉えることが重要になります。Ilkmen氏は、自己愛性虐待の特徴を次の3つに分類しました。

◆ガスライティング
ナルシシストはよく、被害者に自分の判断力や行動力を疑わせるガスライティングという心理的な虐待を行います。ガスライティングが行われると、被害者は疑念や不安を感じるようになり、自分がガスライティングを受けていることに気づくことも難しくなります。また、被害者とナルシシストの間には共依存関係が生まれ、ナルシシストが自分の上に立つことを被害者が受け入れてしまうこともあります。

◆被害者意識
これは自己愛性パーソナリティ障害の人によく見られる思考で、「みんなは自分に引け目がある」と思い込むというもの。Ilkmen氏はカウンセラーとしてのキャリアの中で、ナルシシストがしばしば「自分は他人から不当な扱いを受けてきたので、人生の中で得られるはずのものが得られなかった」という空想を抱いているのをしばしば目撃してきました。このような空想があるため、ナルシシストは他人、特に成功者とされている人に対して怒りや恨みを持つ正当な権利があると考えるようになります。

◆理想化と脱価値化のサイクル
ナルシシストにとっての人との関わりは両極端です。まず、理想化が起きるとナルシシストは被害者を全肯定し、相手との間に分かちがたいつながりがあると考えるようになります。しかし、ある時不意にナルシシストが相手に失望すると、途端に全てを否定する脱価値化が発生します。そうなると、ナルシシストは被害者を欠陥のある存在と見なし、自分にふさわしい完璧なパートナーではないとなじるようになります。この段階では、言葉での虐待や身体的な暴力、侮辱、いじめ、中傷などが特徴として現れます。


ナルシシストは被害者の友だちや家族とも支配的、操作的な関係を築くことが多いため、被害者は身近な人に助けを求めることが難しくなります。そのため、被害者の救済は、自己愛性虐待を専門とするセラピストを見つけるのが第一歩となることが多くなります。

Ilkmen氏は「私の経験では、自己愛的なパートナーこそ最も治療が難しいものです。こうした人は自分が助けを必要としていることを認めず、セラピストとの協力にも難色を示すため、治療に参加したがりません。2人そろったカップルセラピーは、不可能ではないにせよまれにしか実現せず、ナルシシストが『自分の期待は不合理なものだ』と認識した時のみ成立します」と述べて、不健全な自己愛の根深さを指摘しました。

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