あれは2023年3月上旬のこと。私は10キロを超える重い機材を担ぎ、本土から遠く離れた南の島、与論島に上陸していた。奄美群島広域事務組合によるプレスツアーに参加していたのだ。
その日最後の仕事は、日没と月の出の間の闇が最も深くなる時間帯に行われた。肌寒い強い風が吹くなど天候はややシビアだったが、撮影はそれなりに進行。
このまま何事もなく終了すると誰もが思っていたその時、事態は急変した。誰かが悲鳴をあげたのを覚えている。あまりの事態に、私はただ茫然と立ち尽くすのみ。しかし偶然にも回しっぱなしだったカメラには、とんでもないものが写り込んでいた。
・与論島
本題に入る前に、舞台となる与論島について簡単に説明を。ここは鹿児島県最南端。サンゴ礁が隆起してできた島で、一周が20㎞程度のサイズしかない。
鹿児島県ではあるが、鹿児島本土までは500キロ以上離れている。文化的にも動植物の様相的にも本土とはだいぶ違う。
宝石のアクアマリンは、きっとこういう光景からつけられたんだろうというような海。ハリウッドスターの前歯よりも白く眩しい砂浜。東京を出た時は息が白かったのに、与論島はもう余裕で泳げた。まさにトロピカルリゾート的な雰囲気の島だ。
島へのアクセスはフェリーか飛行機。私は奄美大島からプロペラ機で移動したが、飛行時間はわずか40~50分程度だった。沖縄からだともっと早く、30分ちょっとらしい。
与論空港はかなりコンパクトで、滑走路はわずか1200m(小型ジェット機用でも2km弱、大型機用なら3kmは必要)しかない。
・星空ツアー
昼間の諸々は別の記事で紹介するとして、本題に入ろう。この日最後の仕事とは、島の民宿「星砂荘」による「星空ツアー」の取材。
与論島に高い建物はほとんど無く、人口はそう多くない。周辺の島々のなかでは光害もかなりおさえられている。春でもスギ花粉は舞っておらず、空気が澄んでいる。
しかも、ここは南十字星が見える最北端(時期やコンディションは限られる)。本土からでも見やすくなる時期にはニュースになるほど貴重なカノープスも、ここなら秒で見える。
天体観測にはもってこいの場所だ。星空は与論島の観光資源と言って良いだろう。
「星空ツアー」では、島内ならバスの送迎付き。観測スポットまで連れて行って貰えるぞ! しかも星座早見盤、双眼鏡、ミニ三脚、天体観測用の赤いライト(目の暗闇への順応を阻害し辛い)を貸し出してくれる。
また、天体望遠鏡も設置されており、近い惑星をアップで観察することも可能。置いてあるリクライニングチェアに寝転びながら、ガイドの方の解説を受けつつ、なかなか本土では見られないレベルの星空を堪能できる!
事前知識や準備は一切不要。全く星に詳しくない人ほど、天体観測の楽しさを知るいい機会となるだろう。与論島に来たら、ぜひ参加してみて欲しい。
おススメは、やはり地球の夜側が銀河の内側を向く夏だろう。天の川が濃厚になるぞ。新月に合わせて来島すれば最高だと思う。
2023年中であれば、台風のリスクがあるが8月16日の新月の前後1週間くらい。ペルセウス座流星群、はくちょう座κ(カッパ)流星群、みずがめ座ι(イオタ)北流星群の極大日が近いので、晴れていれば超高確率で流れ星を見られるだろう。
台風を避けるなら12月13日の前後1週間くらい。ふたご座流星群の極大が15日なのだ。何よりここは12月でもだいぶ暖かい。
・ダメそう
ところで、私(江川)は数年前から当サイトにて毎月の満月関連や年間で恒例の流星群のニュースなど、天文関連をほぼ全て担当しているため、メジャーな星はだいたいわかる。
その日どれくらい星が見えそうかもなんとなくわかる。ちなみにこの日は満月直後。まともに星が見えるのは日没後から月の出前の短い時間のみ。
前日は雨で、昼間は晴れたとはいえ、わりと雲が点在。夜になったら全体的にうっすらと霞んだような感じに。この条件は正直あまり期待できない。
実際にペルセウス座方面を撮ってみたのがこちら。与論島の星空力が本物であることは伝わると思うが……やはり雲が途切れない。微妙に盛れていない。
せめてわかりやすいオリオン座くらいはなんとか……ならんか。まあでも星が見えることは十分伝わるだろう。天候ばかりはどうにもできない。
・ガチ
そんな感じで妥協することにし、自動で連続撮影する設定にした異なる設定のカメラを2台放置。運がよければ雲が切れた瞬間が撮れていることもあろう。
そうして放置していたところでそれは起きた……
おや流れ星
が消え……
↓
↓
↓
↓
!?
お分かりいただけただろうか?
この勢いは圧倒的だ。きっと、ついてこられなかった方も多いと思うので、長い時間露光していたカメラに写っていた光景がこちら。
エンダァァァァアアアア!!!
流れた瞬間はマジでFF7のロゴかと思った。ガチにメテオ。一帯が緑に照らし出され、あまりの明るさに写真が白飛びしている。
欲を言えば、もっと画角の広いレンズで撮りたかった。そうすればこの凄まじい火球の発生から消滅までを写せて最高だったろう。しかし偶然取材に来たタイミングで遭遇できただけでもほぼ奇跡。
一度消えてから復活するタイプの流星。しかもちょうど良い感じの配置にいた雲が火球の光を拡散し、威力が盛れている。オレンジ~赤の流星痕は、風で流されつつも5分ほど残っていた。
ということで皆さん、これが与論島の星空力の片鱗です……!