【山田祥平のRe:config.sys】アドビが学校にやってきた

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 アドビが高校情報科の授業「データサイエンス」カリキュラムを関西学院千里国際高等部と共同開発、高校生が自校のwebサイト来訪者データの分析を行ない、Adobe Analyticsを活用したデータに基づく課題解決を図る社会とつながる学びの機会を提供すると発表したのは2022年6月末だった。そのカリキュラムに沿って2022年11月から2023年3月にかけて実際の授業が行なわれてきた。その授業も、もう少しで大団円の完結というタイミングだ。今回は、生徒たちの学ぶ様子を視察してきた。

高校生が自校のWebを斬る

 関西学院千里国際高等部はどんな学校なのか。それを知りたければWebサイトを訪れてみればいい。今どきの学校は、在校生はともかく、保護者や卒業生、そして受験生が必要とする情報を入手できるようにWebを充実させている。もちろん同校も例外ではない。

 学校法人としての関西学院は、幼稚園から初等部、中学部、高等部、そして大学、短期大学、大学院を擁するが、それらとは別に関西学院千里国際高等部とインターナショナルスクールが存在する。それぞれの学校がどのように機能しているのか、その位置づけはどうなっているのかなど、そのあたりは、Webサイトを見れば一目瞭然だ……、といいたいところだが、これがまったくわからない。

 あの手この手で四苦八苦して調べたところ、兵庫・西宮市に本拠を置く学校法人関西学院には、帰国生を積極的に受け入れるための一貫教育校校として千里国際中等部、千里国際高等部がある。また、日本在住の外国人生徒たちの幼小中高として関西学院大阪インターナショナルスクールもあって一体化、結果として、3つの学校が大阪・箕面市の千里国際キャンパスの同一校舎に集まっている。このことは、学校法人関西学院のWebサイトの奥まったところにある学校紹介のページでようやく理解できた。

 それをアドビが見かねたのかどうか、とにもかくにも、同校のWebサイトの来訪者データを分析した上で、課題発見から解決アイディア策定までのプロセスを学ぶデータサイエンス授業のカリキュラムを共同で開発しようと名乗り出たのだ。社会のデジタル化の進展とともに、数理データサイエンス人材の育成は重要な課題となり、2022年度から高等学校で必履修化された情報科の授業においても、重要な強化点となっている。

 生徒たちは、アドビの分析ツール「Adobe Analytics」を使い、自分たちの高校のWebサイトの来訪者データを分析、課題を見つけて解決アイディアを立案、プロトタイピングツール「Adobe XD」を使ってそのアイディアのプロトタイプを作成する。それを他の生徒、教師、アドビの関係者に対して披露し、彼らからのフィードバックを受ける。こうして、情報社会を構成するデータに着目しつつ、情報社会と主体的に関わるための一連のプロセスを学んでいく。

昭和と令和、2つのKKDで両輪駆動

 見学が許可された日の授業は、これまでの授業で生徒たちが得た知見を披露するほぼほぼ最終段階のプレゼンテーションだった。出席していた生徒は2年生と3年生が混在する合計23名。担当教員は西出新也教諭1人で、全35時間となる一連の授業を担当してきた。

 ちなみにここでは小学校入学で1年生として始まり、12年生で卒業だ。高校2年生の場合は11年生ということになる。帰国生受け入れ配慮の関係で変則的な授業編成でもあるのも特徴の1つだ。

 さて、この授業を履修する23名は4つのグループに分かれる。それぞれが教室2つ、教室の外廊下のパブリックスペース2カ所、合計4カ所に分散し、各箇所で発表側3名と聞き手側3名に分かれてプレゼンが始まった。この3名は共同で分析や立案をしてきた継続的なユニットだ。プレゼンは7分間で、そのあとフォローアップディスカッションが8分間続き、1セット合計では15分間だ。

 この15分間が終わると、聞き手側の3名は別の発表者ユニットのスペースに移動し、別のプレゼンを聞く。発表側ユニットの3名は次の聞き手に対して同じプレゼンを繰り返す。こんな具合にあわただしくプレゼンとディスカッションが展開していく。先生は、4つのスペースを行ったり来たりしながら様子を見る。

 こうした流れの中、実は、今の分かりにくいサイトを構成した張本人である西出教諭は、生徒たちに対して、データサイエンスとデータサイエンティストに求められる素養について講釈する。多くのユニットは、サイトの問題点を的確に指摘し、どうすればいいのかを考え抜いていた。それを誰かに伝えるためにはコミュニケーション力が求められる。

 そのゴールは課題解決力、課題発見力、価値想像力の3つだと西出教諭は力説する。生徒たちに向かって「君たちは今、新しい一歩を踏み出した」と。

 生徒たちの手にはKKDがあるともいう。KKDは勘、経験、度胸の頭文字だ。まさに昭和時代のKKD。そして、令和時代の君たちには、仮設、検証、データサイエンスという新しいKKDが必要だと念を押す。2つのKKDを手にすれば鬼に金棒だというわけだ。

 これまでもデータ活用について教えてこなかったわけではないと西出教諭はいう。だが、人口のデータなどを分析する大雑把なもので、身近なテーマではなかった。だから自分ごととして生徒がすすんで解析したいとは思えなかった。だが、今回は、自分が通う学校のリアルデータを使っての実践だ。また、この形態での授業は初めてで実証実験のイメージもある。最初の段階では、アドビの講師がリモートで授業に参加し、ツールの使い方などをレクチャした。

 裏事情をいえば、生徒たちからは、もう少し、時間に余裕が欲しかったという声もあったようだ。これは、教える側にとってはさらに深刻で、今の倍は時間があってもいいと西出教諭は嘆く。それでも、教科書をなぞると何もできない時間不足の中で、35時間を集中して取り組めたというのは価値あることだと同教諭はコメントする。

根拠のない自信もあり、それが私

 現行の同校サイトは、校長と西出教諭が以前のサイトを大改修してつくったもので、情報の継ぎ足しが多くわかりにくくなっていたという。作った本人としては学校のブランディングをイメージで伝えたかったそうだが、データサイエンスの観点ではだめだったと反省する。定性的な見せ方がいいのか、定量的な見せ方がいいのか、テーマごとにどちらがいいのかといったところまで追求できればパーフェクトなのだがと、この半年を振り返る。

 ちなみにこの高校では、生徒が使うPCはBYODだ。それぞれが自由に選んだまちまちのPCを持って来て、それを使ってデータを分析し、プレゼンテーションを作り、発表に使う。

 意外といっては失礼なのだが、生徒たちにとってアドビは身近なベンダーだったようだ。もともと理科の発表用に、Illustratorを使ってポスターを作ったりするなどで、アドビは身近なブランドだったのだ。そのアドビといっしょに学べることに興味がわいて履修した生徒もいた。あまり身近に感じていなかったAnalyticsについても、プロから学ばなければこれだけの知識は得られなかったといった声もきいた。データは苦手だが、将来のキャリアとして経営などにも興味があって、ただ、個人でそれをやるのは難しいので、この授業をとってよかったという声もあった。

 本音としては、授業ごとにリアルなアドビがセンセイとしてやってきてくれると思っていたともいう。それがリモートレクチャだったことで、そこに限界を感じたとも。

 2021年の秋からアドビの日本の有志が集まって話をし、デジタル人材不足についてアドビがどう貢献できるかを考えながら走り始めたこのプロジェクトだが、女生徒の1人からきいた「勘、経験、度胸による根拠のない自信はとても大事で優先すべきもの、それが私ということだから」という言葉は、データサイエンスを全面的に信じない抵抗の姿勢が感じられてちょっとうれしかった。でも、このことはナイショにしておこう。

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