楽天(楽天グループ株式会社)が4期連続の赤字となった。
2022年12月期の損失は3729億円(赤字)。これは前期損失の2.8倍。過去最大でもある。EC事業等で+782億円、銀行事業等で+987億円稼いだ利益を、モバイル事業の損失△4928億円が食いつくした形だ。
楽天の三木谷社長は決算説明会で以下のように述べている。
健全なバランスシートを保ちながら成長していきたい。
「保ちながら」。うまい言い方だ。まるで、いま健全であるかのように聞こえる。元銀行員の三木谷氏が、いまの楽天のバランスシート(貸借対照表)が健全かどうか、分からないわけがあるまい。
△2540億円(マイナス)に減少した剰余金(利益剰余金)。1.7兆円を超える有利子負債。結果、自己資本比率は「4.3%」まで落ち込んでいる。楽天と同様、銀行・モバイル事業を抱えるソフトバンクの自己資本比率は「25.0%」、KDDIは「47.6%」だ。突出して低い指標値が楽天の厳しい状況を裏付ける。
モバイル事業の赤字脱却が急務だ。
2000万人の新規契約を獲得できるか
赤字から脱却するには、「損益分岐点」すなわち営業費用の約5400億円(※経営管理指標値)を超える売上高を獲得する必要がある。
現在の楽天モバイルの客単価(ARPU)は1805円。粗く計算すると、損益分岐点の契約数は、約2500万人。現契約者約450万人を除くと、「2000万人」以上の新規契約者を獲得しなければならない。
楽天モバイルの強みは「安さ」
楽天モバイルの強みは「安さ」だ。
データ利用量無制限のプランでは圧倒的に安い。他社が7000円を超えるのに対し、楽天モバイルは2980円(税抜)と半額以下だ。よって、楽天モバイルが他社からどれだけ顧客を奪取できるかは、データ利用量無制限のユーザーすなわち「ヘビーユーザー」が、今後どれだけ増えるかにかかっている。
だが、ヘビーユーザーが増えたとしても、「2000万人」以上の顧客を、他社(ドコモ、KDDI、ソフトバンクなど)から奪うのはかなり難しい。他社の客単価(ARPU)はおおよそ4000円。2000万人の流出は、8000億円の利益減を意味する。楽天の弱みである「品質」「信用」を突くさまざまな施策を仕掛けてくることだろう。
楽天の弱みは「信用の低さ」
楽天モバイルの弱みは「信用」の低さだ。
モバイル事業参入は2020年4月。まだ経験3年にも満たない新参者だ。他社より信用が劣るのは止むを得ない。だが、楽天モバイルは、信用をさらに貶めるような施策を行っている。
例えば0円プラン(Rakuten UN-LIMIT VI)だ。データ利用量が1GB以下であれば、通信料無料で使えるプランである。新プラン「Rakuten UN-LIMIT VII」(月額980~2980円 税抜)の導入とともに、これを廃止。利用者を強制的に新プランへ移行する措置をとった。結果、36万人の顧客流出を招いている。
以下は、この0円プランに関する、三木谷社長の発言だ。
「データ利用量1GB未満なら無料でいいんじゃないかと思っている」
(2021年1月 0円プラン発表時)「0円でずっと使われても困るというのが、ぶっちゃけた話」
(2022年05月 0円プラン廃止・新プラン発表時)「血を入れ替えるといったら怒られるかもしれないが、われわれにとって優良なユーザーに変えていく動きだった」
(2022年08月 0円プラン廃止の動向を振り返って)
これらの発言は、流出した「非優良」ユーザーたちを不快にさせたばかりか、楽天モバイルを検討していた潜在顧客の信用をも失うこととなった。
「いきなりプランを変えるので不安」「今度は『数千円で使い放題されても困る』と言い出しそう」
契約者数を増やした後値上げするのではないか。ネットの投稿からは、そんな「不信感」が伝わる。
2月14日の決算説明会では以下のようにも述べている。
「月980円の人じゃなくて。やっぱり、ちゃんと使ってもらえる人たちを取り込んでいく、というのが一つの目標なんで」
(2023年2月14日 2022年度通期及び第4四半期決算説明会)
従来、楽天モバイルのイメージの悪さは、つながりにくいという「低品質」に起因していた。今はむしろ「信用」低下の方が深刻だ。
格付け機関からの「信用度」も低下
さらに深刻なのが、格付け機関からの「信用」低下だ。
2022年12月、イギリスのS&P(S&P グローバル・レーティング)は、楽天の長期格付けを「BB」に引き下げた。「BB」は、元本の返済や利子の支払いが滞るリスクが高く、「投機的」等級とされる。つまり、今後楽天は
「金が借りづらくなる」
具体的には、社債を引き受けてもらいにくくなる、引き受けてもらうには利率を高くする必要がある、ということになる。
格付け「BB」の社債は、国内機関投資家から敬遠されると言われている。楽天は、これを回避するかたちで、海外投資家向けに「利率 10.25%」のドル建無担保社債を、国内個人投資家向けに「利率 3.3%」の無担保社債を発行している。金利負担が大きく、今後、社債による資金調達は困難になるだろう。
S&Pは、格付け引き下げの理由の一つとして「モバイル事業の業績改善が遅れていること」を挙げる。楽天モバイルの不調が、楽天グループ全体の信用を損なわせている。
過去に関心がない経営者
これまで述べてきた決算値や格付けは、過去の実績を反映したものに過ぎない。
書籍「問題児」(著:山川健一 幻冬舎)によると、三木谷氏は過ぎたことをよく覚えていない、という。
過ぎ去ったことをあまりよく覚えていないのは、三木谷 浩史の一種の癖みたいなものだ。記憶力が悪いわけではなく、過ぎてしまったことにはほとんど関心を持てないのだ。(中略)いつも自分が夢中になっているその時々のことで、それ以外の過ぎたことは、彼にとってはほぼどうでもいい。少年時代もそうだったし、今でもそうだ。
(「問題児」山川健一著 幻冬舎)
氏の頭の中にある「未来」のバランスシートは健全な状態であるに違いない。顧客や格付け機関、投資家、金融機関などステークホルダーは、氏の描くバランスシートを信用することができるだろうか。
【参考・注釈】
※2022年度第4四半期 決算データシートより デバイス等原価は除く
参考:楽天グループ株式会社決算資料