小さな、しかし大きな教育のDX

アゴラ 言論プラットフォーム

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情報通信フォーラム(ICPF)ではデジタル教科書の活用についてセミナーを開いた。リンク先からセミナーの動画(一部)も視聴できる。

文部科学省が先日発表したように、普通教室にいる子供たちのおよそ1割は何らかの障害を持っている。そこで、デジタル教科書を使って障害を持つ子供も一緒に学ぶ実践例をセミナーで紹介した。

たとえば、教員が物語を一緒に読もうという課題を与えたとしよう。1/3の子供は紙の教科書を、1/3はデジタル教科書を読むが、1/3はデジタル教科書に装備された読み上げ機能を使って物語を聞き取るという。こうして、読み上げが苦手な子供たちも一緒に物語を楽しめるようになった。

たとえば、物語を要約する課題を与えたとしよう。多くの子供はノートに要約を書くが、デジタル教科書からテキストを切り出す機能を利用する子供もいる。こうして、文字を書くのが苦手な子供たちも要約を作れるようになった。

デジタル教科書には文字と背景の色を変える機能がある。通常は白地に黒文字だが、たとえば、濃緑の地に白文字というように変換できる。弱視の子だけでなく、集中するのが苦手な子供も利用するそうだ。

紙の教科書にはない機能を利用することで、多様な子供たちが一緒に勉強できるようになった。教員が与えた課題をこなすには方法はいろいろある。隣がどんな方法を使っているか気にする子はいないし、それどころか、他の子をまねして「こっちのほうがいいや」となる子供もいるそうだ。

セミナー後の質疑では、自分が読みやすいフォントに変える機能も装備すると、読字障害(ディスレキシア)の子供に役立つという、提案も出た。

ここまでは小さなDXかもしれない。

しかし、セミナーで実践例を紹介した教員たちはもっと先に進んでいた。彼らは、こんな話をした。

今までの教育法は学年配当の漢字を読め・書ける主流派の子供たちに的を当てていた。主流から外れた子供は取り残されていた。デジタル教科書によって、この壁を破ることができた。

「Elementary School Classroom in US」をキーワードにしてGoogle画像検索をすると、何個かの丸テーブルを囲む子供たちがいる教室風景が出てくる。USをAustraliaに変えても、他にしても同じような画像である。これに対して、Japanでは教員が黒板の前に立つ教室風景になる。

教員が黒板の前に立つ教育法を一斉学習と呼び、わが国で主流の教育法だった。しかし、デジタルの導入で他の学習方法も利用されるようになる。オンライン会議のブレイクアウトルームの機能を使うと子供たちが活発に意見を交換するようになる、という事例がセミナーで紹介された。これは協働学習に相当する。米国やオーストラリアの教室風景も協働学習に適している。

こうして、小学校・中学校での教育方法が変わっていく可能性がある。また、障害のある子供と一緒に学ぶ経験は障害者と共生する社会の実現にも役立つ。

デジタル教科書の導入という小さなDXが社会の変革につながっていく可能性がある。その意味で、これは大きなDXへの第一歩である。

光村図書出版のサイトでデジタル教科書を利用したインクルーシブ教育の事例とビデオが公開されているので、併せてご覧ください。