あの店、出るらしいぜ(デジタルリマスター)

デイリーポータルZ

でたー。

「あそこ、出るらしいぜ」という類の噂がある。夏場によく聞く心霊系情報だ。そんな噂を聞くと自分が見たわけでもないのにびくびくしてしまう。果たしてそういった噂はどのように発生し、そして広まっていくのか。今回は積極的に噂を作り上げることでその成り立ちを体感したい。

2007年8月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。

噂になりたい

ひとけのない交差点にぽっかり浮かぶ白い顔。閉店後の店内に飛び交うヒトダマ。そういう真偽のほどのよくわからない噂はさらなる噂を呼び、あっというまに人々の間に広まっていく。

今回はその噂の元を作ることで、実際に自分の周りで噂がどのように発生し、どれくらい広がっていくのかを確かめたい。

方法は簡単だ。白い顔して夜な夜な通りに立つのだ。そうしたらいつか「あの交差点、出るわよ」って噂になるに違いない。

自販機の明かりすら物寂しい。

だけど実行するにあたって場所の選定に手こずった。白い顔してむやみに道の脇にとか立っていたら驚いたドライバーが運転を誤って事故を起こしそうだ。それに近所のお店や家は風評被害に悩まされないだろうか。そんなことを考えていると、ある程度人通りがあってしかも他人の迷惑にならなさそうな場所がないのだ。

うちの店の前、以外には。

ということであっさりと場所は決まった。うちのお店の前には片側二車線の通りがあり夜中でもある程度の交通量があるが、歩道も広くドライバーを脅かさない程度の距離が保てる。遠くに夜景が見えるので、それを目当てに夜中に訪れるカップルたちもいる。噂になるには絶好の場所といえるだろう。ここで1週間夜な夜なお化けになろうと思う。

店の前は小高くなっているので夜景を見るカップルなんかも来ます。

1日目

まずは営業が終わったあと30分くらい店の前に立ってみることにした。店の閉店時間が0時、片付けとかしてからなので0時半から午前1時くらいまでの間立っていたことになる。

手探りではじめてみたお化けだが、なんとも手持ち無沙汰だ。なにをしていいのかわからない。思惑通り前の道は深夜でも一定の交通量を保っているが、どうも僕の姿を確認して「きゃー」だの「ひー」だの言う声が聞こえてこないのだ。そう

たぶん見えていないのだ。

お化け用ライトを設置。

15分くらいしてから気づいて足元にアップライトを設置してみた。お化けといえば下からの照明だろう。これでずいぶんお化けらしく、また人目にも付きやすくなったと思う。

こんな具合になる。

明日からの下地ができたところで初日は終了。これを1週間も繰り返せば、もう町はお化けパニックだろう。うちの店は誰も寄り付かなくなるか、もしくは怖いもの見たさの人たちが集まってくるかどちらかだと思う。後者で軌道に乗ったらお化けまんじゅうとか売りたい。

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2日目

新しいアイテムを導入した。懐中電灯だ。下から顔だけ照らすにはこれが最適。昨日使っていたアップライトだとうっかりおしゃれな間接照明っぽくなってしまうのだ。

よりお化けらしくなった。

写真はカメラの感度を上げて撮影しているので結構明るく写っているが、実際はもっと暗い。下の写真が実際の感じに近い。

本当は超怖い。

実際こんなだ。お化けだ。夜中の1時にこんなの見たら僕ならもらす。

車が通るたびに顔にライトを当ててアピールしていたのだが、どうも彼らが気づいているのかどうか判断できない。たまにタクシーが止まった。

通り過ぎる車は僕に気づいているのだろうか。

噂の広まりを確認する方法としていくつかチェックすることにした。

・お店にくるお客さんからの情報
・インターネットの掲示板
・見物人の有無

これらを毎日こまめにチェックする。ちなみに今のところどの情報源にも動きはない。闇に立つ時間は日に30分程度とした。可能性からいって長ければ長いほどいいわけだが、これ以上は精神的に無理だ。

3日目

雨。仕方がないので店の軒先に立つ。人通りはまったくないし、いつもよりも車も少ないようだ。雨足が強くなってきたので15分でお化けを切り上げる。

雨だー。

噂の広がりは今のところ感じない。mixi内にうちのお店のコミュニティがあり、なにか書き込みがあるたびにどきどきしてチェックしているのだが、今日もそれらしきことは書かれていなかった。僕が自ら書き込んでもいいがmixiの場合投稿者がばれるので説明しにくい。無記名の掲示板に関してはどこをどう探したらいいのかわからなかった。どこかにそれらしき書き込みを見つけた方はぜひとも連絡をください。

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4日目

雨足さらに強まる。「記録的な大雨」と報道されるとおり、沖縄では各地で冠水や土砂災害が出ている模様だ。うちのお店の前も下水溝がごぼごぼいいながら水を噴き上げている。今日も人通りはほぼ皆無。

とにかくすごい雨だ。

この状況ではドライバーも周囲に注意を払っている余裕なんてないだろう。お化けにとっては驚かし甲斐のない夜だ。屋根のある場所にいても足からどんどん濡れてくるので今日も15分で切り上げる。情報源からの噂の広がりは未だ特に感じない。 

車が水しぶきを上げながら通り過ぎる。

5日目

今日も雨がすごいことになっている。お客がぜんぜん来ないのはもしかしたらお化けの噂が広がっているからか。しかしインターネット上ではなんの噂もみられないので、大雨で家から出られないだけなのだろう。きっとみんな家でテレビとか見ているのだ。恨めしいからお化けになるのではなく、お化けになると現世が恨めしくなるのだということを発見。ビール飲みたい。

後ろで雷がごろごろいってるよ。

とにかくここ数日の雨は沖縄ごと沈んでしまうんじゃないかというくらいの降りっぷりだった。 

6日目

いい加減お化けだろう。

ようやく雨がやんだので思い切って三角布を付けてみた。しかし坊主頭にはいまいち似合わないことが判明。まあ暗いからわかんないだろう。店主とお化けの二足のわらじ生活も今日が最終日なのでなんとか成果をあげたい。

昼は店長。
夜はお化け。

噂、広まらず

という具合に1週間お化けとして店先に立ってみたわけだが、現時点ではお客さんからもインターネットからも特にお化けの噂は流れてこない。夜中に見に来る見物客もいない。

学生の頃、所属していた部活の先輩が、うちの部員達は噂話に詳しいが果たしてどのくらいの速度でそれは広まるのか、という疑問を抱き実験を試みたことがある。自分と美人なマネージャーさんが付き合っているという噂を自ら流したのだ。という話を3ヶ月くらい立ってから先輩本人から聞いた。噂は広めようとして広まるものではないようだ。

でももしも「あの店、出るらしいぜ」なんていう噂を聞いた方がいましたらご連絡ください。お化け、喜びますから。

誰か見に来いよな。

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