日本でも「ステマ」が法規制へ–現役インフルエンサーの4割が依頼受けた経験

CNET Japan

 消費者庁の有識者検討会で、ステルスマーケティング、通称「ステマ」を規制する方針が固まった。ステマとは、広告ということを隠して商品、サービスを宣伝する手法のことだ。なぜ今、ステマが規制に向かっているのか。

約4割が「ステマを依頼された経験あり」

 リデルの「現役のインフルエンサーに対するアンケート結果」(2022年)によると、広告主からステマを依頼されたことがあるという回答はなんと41%に上った。そのうち、その依頼を「全て受けた」のは2.4%、「一部、受けたことがある」のは42.3%と、4割以上がステマを引き受けている状態だ。

 受けた理由の最多は、「ステルスマーケティングに対する理解が低かった」で63.6%。そのほか、「広告であることを隠すことを条件に広告主から報酬(現金、商品、サービス等)がもらえるから」(30.9%)、「広告であることを記載するとフォロワーの信頼を失うから」(18.2%)、「広告であることを記載すると商品、サービスが売れないから」(9.1%)などとなった。

 さらに、「ステルスマーケティングは悪いことだと思う」という回答は56%と約半数にとどまり、「わからない」も29.0%いた。悪いことだと思う理由は、「(消費者)フォロワーに広告であることを伝えないから」「(消費者)フォロワーの信頼を損なう行為であるから」(各70.8%)となった。

 ステマは明らかに蔓延している。一方で理解度は低く、悪いことと感じていない人たちも少なくない。広がっている背景には、そのような課題があるというわけだ。

守られない自主規制、法的規制がない日本

 欧州や米国など海外では、ステマが法規制されている国も少なくない。一方日本では、ステマは法的に規制されていない。このことも、SNSを中心にステマが広がる理由になっている。

 たとえば2019年には、ディズニー映画『アナと雪の女王2』のレビュー漫画が一斉にツイートされ、「ステマではないか」と指摘された。漫画家らは投稿がPRであったことを謝罪したが、ディズニーは他の作品でも「類似の案件」があったことを公開。ネット上では『アベンジャーズ/エンドゲーム』『キャプテン・マーベル』などの作品で同様の事態があったことが指摘されており、ステマが常態化していたと見られる。

 TikTokも、2019年7月から2021年12月末に渡り、運営会社となるバイトダンスがTwitterのインフルエンサー20人に対して総額7600万円を支払い、アプリ利用者を増やすことを目的にTikTok動画を投稿させていたことを発表。運営会社は、「サービスを宣伝するものではなく、広告表記は不要という認識だった」としている。

 芸能人が依頼されてステマを行った疑惑が報道されることも多い。大手企業も日常的にステマを行っており、どのような行為がステマに当たるのかも正しく理解されていないのが現状なのだ。

「広告表記をつけない方が宣伝効果が高い」

 「『広告表記をつけないで投稿してほしい』という依頼はある」と、あるマイクロインフルエンサーの女性はいう。「広告とつけない方が効果が高いという認識があるみたいで。確かに表記をつけないほうがフォロワーの反応もいい気がする」

 ステマが多いことは問題視されており、業界団体WOMマーケティング協議会が広告には「#PR」「#広告」などとつけるという「WOMJガイドライン」を出していたが、実際は守られていなかったというわけだ。

 WOMJマーケティング協議会のインフルエンサーマーケティング実態調査(2018年11月)によると、インフルエンサーのステマに対しては51.9%が不快を感じている。逆に依頼の事実を明示したものは、「とても良いことだと感じる」(29.8%)、「良い情報を教えてくれてありがたい」(24.1%)と好意的にとられる。

 しかし前述のインフルエンサーは首をかしげる。「守ってもメリットがないし、守らなくても罰則もない。広告表記をつけない投稿でないと支払いがない案件もある。だからインフルエンサー仲間は『しないよね』って話しているし、それが当たり前だと思う」

 大学生に対してステマの話をしたところ、ある程度の認知度はあったが、「(ステマについて)知らなかった」という学生もいた。「商品が良かったから投稿していると信じていた。まさかそんなことがあるなんて、何を信じたらいいのかわからない」

日本でもいよいよ法規制へ

 景品表示法は、消費者向けの広告などについて規制を設ける法律だが、ご説明したようにステマは規制対象ではなかった。

 そこで、景品表示法の不当表示として、「事業者による表示であることを消費者が判別することが困難であると認められるもの」という内容を新たに追加する。SNS以外に、テレビやラジオなども対象とされる見込みだ。

 違反した場合、広告を依頼した事業者名を公表するなどの行政処分を行い、従わなければ2年以下の懲役または300万円以下の罰金または併科とする。両罰規定で法人も最大3億円が科される可能性があるという。

 同法では、現状、広告主しか対象とならないが、仲介事業者が中心となって実施している場合もある。そこで、規制の対象範囲を広告主だけでなく、仲介事業者やインフルエンサーまで拡大するよう検討すべきという声もある。

 ステマは、消費者に誤った情報を与え、正しい判断ができなくしていることが一番の問題とされる。また、ステマが蔓延することで、投稿自体への信頼性も下がってしまう。ステマ自体の認知度を高めるとともに、ステマをすると損をする仕組みが必要なときにきているのではないか。規制が功を奏し、ステマが一掃されることを期待したい。

高橋暁子

ITジャーナリスト、成蹊大学客員教授。SNS、10代のネット利用、情報モラルリテラシーが専門。スマホやインターネット関連の事件やトラブル、ICT教育に詳しい。執筆・講演・メディア出演・監修などを手掛ける。教育出版中学国語教科書にコラム 掲載中。元小学校教員。

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