日本的会社経営とはなにか?:奇妙なところで個性が出てしまう日本企業

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昨年、稲盛和夫さんがお亡くなりになったあと、時間がたって確信したのは稲盛さんは松下幸之助、本田宗一郎、井深大、盛田昭夫各氏らに並ぶ日本の代表的経営者のおひとりになるだろうという点です。氏の功績も素晴らしいのですが、盛和塾を通じて稲盛思想を広く展開したことが圧倒的強みだったと思います。上述の歴史的経営者は創業者として一つの会社の歴史を作ったわけですが、稲盛さんは京セラ、KDDI、JALという3つの企業に深くかかわるだけではなく、日本の株式会社の99.7%ともいわれる中小企業の経営者の育成に努めたという点で別次元の功績があると思うのです。

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先日、日本の会社に送られていた郵便物が回送され、その中にあった知らない不動産会社のニュースレターを何気なく見ていたところ、後記に盛和塾で〇年に〇賞を受賞したと記載してありました。その瞬間、この会社のニュースレターがぴかっと光ったのです。盛和塾生はブランドなのです。

盛和塾のすごいところは各地域のメンバーが塾で自分の会社のことを下世話に言えば、暴露ってしまうのです。普段は出ない中小企業の売り上げ、従業員数をはじめ、今やっている事業の苦労話などを塾生同士でシェアし、一緒に考えるのです。帝国データバンクなど比ではありません。中小企業の社長は孤独と言われますが、この塾では皆で裸になって風呂に入るようなものです。日本的と言えば日本的ですが、多くの中小企業経営者にとって強い心支えになったものと思います。

さて、本題。私はカナダで31年も仕事をしています。このブログで農耕民族と狩猟民族の話も出ます。私がコンドミニアムを開発していた頃、最上階のペントハウスにはプレミアム価格がついて一番先に売れることを経験的に知っていました。それは狩猟民族にとってトップを取り、制覇することは血が騒ぐ思いなのです。一方、日本の高層マンション開発では時折、最上階が共有スペースになっている物件もあります。私からすればあり得ないもったいなさなのですが、福沢諭吉ではありませんが、人の上に人を造らず、の価値観がしっかり根付いているのだな、と思うのです。

日本では90年代以降、大手銀行の統合を進めましたが、どの銀行も統合後、猛烈に苦労しました。明白に力関係がはっきりしていたところは良いのですが、みずほ銀行は割と似た規模のプライドが高い銀行同士の合併でしたので人事を中心に未だに苦戦しています。当然、3メガバンクの中で最も収益性が低く、トラブルも多いのは支配という思想が日本には少ないからです。海外では負けたものは勝ったものに従わざるを得ないという歴然たる歴史と事実がそこに存在するのです。

これらをみると日本を強化するのはM&Aよりも提携の方が手っ取り早いのではないかという仮説は成り立ちます。双方、良いところを持ち寄り、相手の領域に踏み込まず、です。ところが、日本はなぜか、一緒になろうという思想が常にあるのです。残念ながらほとんど、うまくいった試しがありません。なぜか、といえば主導権争いもありますが、各社の個性が強すぎて、作り出すものが妥協の産物の凡庸なモノになるからだと分析しています。

今、東芝の再建プランを日本産業パートナーズ(JIP)が取りまとめていますが、その出資者に広範な日本の大企業群が参加表明をしています。もう一つ、ラピダスという新しく生まれた日本の半導体メーカーも同様です。この会社はトヨタ、デンソー、ソニー、NTT、NEC, キオクシア、三菱UFJ、ソフトバンクというそうそうたる8社が出資し、最近ではIBMと提携して先端半導体を20年代後半にも展開する計画です。うまくいくか、と言われれば私は正直、ダメだろうな、と思っています。かつて成功した試しがないのですから、これなら成功するという理屈はどうやっても生まれないのです。

海外企業がM&Aでどんどん大きくなっていくのは買われた会社は新しいボスのもとでしっかり仕事をする切り替えができるのです。私の取引先などもこの3-4年で5、6社はオーナーシップが変わっています。しかし、それまでいた人たちはそのまま新しい看板の下で働けるのです。日本では排除の理論が先行します。買収とは経営者を蹴り落とすことである、と。

支配関係が上手に展開できる海外に対して農耕民族である日本人はシェアの思想が非常に強く、奇妙なところで個性が出てしまうのです。お山の大将と言われますがそれは買収された後でも継続する悪い癖があるとも言えます。

ならば、代替案として私は日本的企業連携を模索すべきだと思います。共同体的発想のようなもので例えば日本の建設業では一般化しているジョイントベンチャー(JV)は歴史的にみても機能しています。「同じ釜の飯は食わない」という前提の連携組織を作る、これが案外、将来の勝ち組ではないかと考えています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年1月12日の記事より転載させていただきました。