ノートPCを外出先で長時間使うときに必要となるのがACアダプター。ノートPCの省電力化が進んだとはいえ、負荷が増えたり画面を明るくしたりすれば、バッテリー稼働時間が短くなる。特に今の寒い時期はバッテリーが弱りがちで、いつもより減りが早く感じたことがある人も少なくないだろう。
筆者の使っているノートPCはUSB PD(Power Delivery)に対応しているので、PD対応の充電器は過去に購入して持っている。しかし、最近はかなり小型のPD充電器が登場しているので、そろそろ買い替えようかなと検討していたタイミングで登場したのが、Ankerの「521 Power Bank」だった。これは、45W給電でノートPCも充電可能なPD充電器なのだが、なんと5000mAhのバッテリーも内蔵したという。もちろんその分大きくはなるが、外出先でコンセントも見つからないような状況では助けになるハズ。ということで、買って試してみることにした。
テレワークが定着した昨今、INTERNET Watchの編集部員や外部スタッフも、それぞれのテレワーク環境を改善すべく工夫を凝らしている。この連載では、そんなスタッフが実際に使ってオススメできると思ったテレワークグッズのレビューをリレー形式で紹介。今回はフリーライターの正田氏が、外出先でのノートPCの電源を確保すべく、バッテリー内蔵タイプのPD充電器をレビューする。
モバイルバッテリーとACアダプターの一体化は便利
もともとモバイルバッテリーとACアダプターが一体になったものは持っていて、便利に活用していた。PD給電に対応したものも持っているが、出力が低いのでスマートフォンの充電には使えるがPCの充電には使えない。モバイルバッテリーとスマホの充電が必要で、PCも同時に持ち歩く場合は、モバイルバッテリーとPCに対応した充電器の両方を持ち歩かなければならなかった。
充電器だけ持ち歩けばスマホもPCも充電できるといえばそれまでだが、できればコンセントがないときでもスマホだけでも充電ができたらうれしい。そういうときはPC用の充電器とスマホ用のバッテリー内蔵型の2つを持っていく必要がある。その日の使い方次第で持ち物を変えていくという感じで、出発前にちょっとした「電源検討タイム」が必要だった。
なかなか万能な電源はないなと思っていたときにタイミングよく登場したのがAnker 521 Power Bankということになる。最初にどこかのニュースで見たとき、あたかも内蔵バッテリーからノートPCの充電ができるようにも想像できる記述だったので、よけいに注目したのだった。
バッテリーからはスマホだけ。PCの充電はコンセント接続時のみ
ここで残念なお知らせである。
Anker 521 Power Bankのスペックを確認すると、モバイルバッテリーの容量は5000mAhで、コンセントに繋いだ状態での最大出力は45W。しかし、バッテリー利用時の出力はなんと最大20Wにしかならなかった。
電圧と電流の組み合わせで言えば9V 2.22Aが最大で、つまりこれでは一般的なノートPCは充電できないことになる。一般的なノートPCが充電できる45W出力、つまり20V 2.25A出力はコンセントに差し込んだときだけ出力できるということになる。
バッテリーで45W出力を実現するにはバッテリーやDC-DCコンバーターといった部品サイズもあるため、このサイズに収まりきらないのは、よく考えれば当然かもしれない。しかも、仮にノートPCの充電ができたとしても5000mA程度で実用になるのかも疑問ではある。しかし、そこはANKER、極小サイズの充電器を出しているだけに、もしかしたらバッテリーからPCの充電にも対応しているのではないかとも期待してしまったのだ。
だがしかし、気分はすっかり購入モード。今使っている初期の45W出力のPD充電器とほとんど変わらないサイズでバッテリーまで付いてくると思えば自分にとって便利であることは間違いないだろう、などと心の中でいろいろ言い訳をしつつ、8990円という価格もあまり気にせずイッてしまったのだ。
使ってみたら、荷物がひとつになってけっこう便利
届いてみると、まず、高級感を演出したのか、表面が細かいサラサラとした仕上げに気づく。表面仕上げが細かすぎるため、何かが当たると、すぐに跡がついてしまう。プラスチック感を抑えているのかもしれないが、自分が選んだブラックのような濃い目の色にしてしまうとかえって目立つ。汚れが気になるが、ホワイトをはじめ明るい色のほうが逆にきれいに使えそうだ。
出だしから不満点を書いてみたが、充電器と5000mAのバッテリーを足したにしてはやや割高な価格と、期待の大きさからの評価だと思ってみてほしい。
使い始めてみると、今までの充電器とほぼ同じサイズで、ときにはスマホの充電もできると考えると非常に便利だった。AndroidスマホならノートPCと同じUSB Type-Cのコネクターがそのまま使えるため、持ち歩くケーブルは1本でよく、これも便利だ。
モバイルバッテリーとなると充電管理、つまり、忘れずに充電しておく必要がある。その点、コンセントに差し込んでノートPCを使っているうちに充電されてしまうと考えると、ANKERが特徴として謳っている「充電忘れがない」という点もうなずける。
早速、新幹線で使ってみたが……
購入してすぐ新幹線で使う機会があった。試したのは東海道・山陽新幹線のN700系。正確にはN700Aだったのかもしれないが、普通車のコンセントが壁の下のほうにあるタイプだ。
差し込んでみると問題なく使うことができる。この手のコンセントプラグが折りたたみの場合、プラグ部分が筐体のコーナーから距離があって、狭い場所のコンセントに差し込めないことがある。また、2個口以上のコンセントに差し込むとき、となりの口のコンセントをふさいでしまうということもある。
実際、そういう充電器もある。筆者の手持ちでは国内ブランドを謳い、品質の良さも強調している製品だったが、設計する際に使い込みが甘いのか、コンセントがほぼ中央にあって差し込めないコンセントが多く、早々とお蔵入りしてしまった。
念のため、Anker 521 Power Bankの寸法を測ってみた。コーナーから刃先の幅を含めた距離は22mmほどで、決して短くはないがほかの同等構造の充電器よりもできるだけ角に寄せているという印象。このあたりの実用性も考えられているところが筆者がAnkerに一定の信頼を寄せている理由だ。
余談が長くなったが、N700系の普通車では問題なく使用できた。しかし、問題はN700S系だ。
現在、東海道・山陽新幹線の最新はN700S系で、少しずつ増えている車両。従来のN700系におけるコンセントの問題点として、普通車の場合は壁側しかなく、A席やE席でないと自由に使えない。そこで、新しいN700S系では各席の肘掛けのところにコンセントが設けられ、どの席からでも自由に使えるように改善されている。
しかし、コンセントの向きが若干下を向いており、抜けやすいという問題がある。ただの電源コードなら問題がないが、Anker 521 Power Bankのように重量があるものだとコンセントの差し込みだけで約200gの重量を支えることになり、コンセントの刃受けバネが弱くなっていれば自重で抜け落ちてしまうことになる。
筆者が乗車したN700S系はまだ新しい車両だったためコンセントのバネの力もあったが、それでも非常に危うい印象で、数時間の乗車の間にも一度落ちてしまった。N700S系がもう少し古くなってくれば、Anker 521 Power Bankを使っている人はあちこちで落下してしまうかもしれない。対策としては50cm以上のACの延長コードを使って重量をかけないか、マスキングテープなど弱い粘着テープや面ファスナーテープで肘掛けに固定するなどの方法が考えられる。
ちなみに、コンセントから脱落した場合の挙動だが、ノートPCの場合は充電に対応してない充電器が接続されているという旨のアラートが出るのですぐ分かる。スマホの場合は一瞬の電源断があるが、そのままバッテリーからの充電になってしまうため、そのまま気が付かなければバッテリーを消費してしまう。
コンセントの問題はほかの車両は分からないが、画像で検索した限り、北陸や上越新幹線のE7/W7系のコンセントも危ないかもしれない。
弱点も多いが、使用方法がハマれば“使える”モバイルバッテリー充電器
まとめると、購入して間もない筆者だが、N700S系新幹線に乗ったおかげでAnker 521 Power Bankの最大の弱点を発見してしまった感じがある。N700S系のコンセントに限らず、斜め下を向いていて抜けやすい場所に差し込むときは約200gの重量のあるAnker 521 Power Bankは注意が必要ということは特に訴えておきたい。
また、Anker 521 Power Bankの価格は8990円と決して安くはない価格。45Wの充電アダプターとPD対応の5000mAのモバイルバッテリーを別々に買うよりも高くなりがちな点もある。
Anker 521 Power Bankを導入するなら、これらの弱点を踏まえてでも2つが合体して便利になりそうと思えるならおすすめだ。筆者の場合は、すでに持ち歩きの第一充電器になっていて、バッテリーがあることはスマホの充電切れや充電忘れの際の安心感につながっている。この仕様でたいへん満足して使ってるということだ。