運転免許証の顔写真は正面で真顔と決まっている。しかし、以前に別の記事でふれたが、ドイツの証明写真は笑顔でちょっと横向きになるのが常識らしい(参考記事「証明写真」)。免許証の写真が笑顔な訳だ。何故笑顔で? とその時は疑問に思ったが、今考えてみると笑顔の免許証って素敵だ。ムスッとした顔よりもずっといい。ちょうど免許証を失効してしまっていて、再交付の手続きに行くところであった。これを機に免許証の写真を笑顔にしてみよう。
※2007年4月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。
うっかり失効すると面倒臭い
冒頭でもふれたが、僕は免許証を失効してしまった。有効期限内に更新するのを忘れてしまったのだ。特にちゃんとした理由もなく失効することを「うっかり失効」というらしい。そういえば、前回の更新もうっかりしてて、「うっかり失効」してしまっていた。うっかりし過ぎである。
有効期限内の更新は最寄りの警察署で出来るのだが、うっかり失効した人は運転免許試験場まで行かないといけない。僕の住む神奈川県の試験場は横浜市の二俣川にしかない。しかも、本籍の分かる住民票を用意しないといけないという。遠いし面倒臭い。
しかし、今回の更新には目的がある。笑顔の写真で免許証を作ってもらうのだ。うまくいくかどうかは分からない。もしかしたら凄く怒られるかもしれない。運転免許証を取得して20年近く、こんなに緊張感のある更新は始めてだ。不備のないよう、更新に必要なものを揃える。住民票と失効してしまった免許証、そして顔写真(笑顔)である。
笑顔はスピード写真で撮影する事にした。機械相手なので照れずに笑顔を作る事が出来る。品川駅構内のスピード写真は盛況で、僕の前に3名並んでいた。みんな免許証の更新だろうか。転職のための履歴書かもしれない。いずれにしても、笑顔で写る人はいないはずだ。
5分ほど待って僕の番が来たのでカーテンの中に入った。機械の指示に従って顔の位置をセンターに合わせ、笑顔を作った。
笑顔を持って運転免許試験場にやって来た。
失効の場合、受付時間が限られている。午前だったら8時半から9時の間で、午後だったら13時から13時半の間だ。それぞれたったの30分しかない。うっかり者に許される時間は短いのだ。
朝は早過ぎて無理なので、13時に間に合うように行った。15分くらい早く着いたのに、「うっかり失効」の受付は長蛇の列であった。うっかり者大集合である。
この列に並んで、まずは申請用紙を受け取る。
列の進みは早く、13時前に申請用紙を受け取る事が出来た。住所、氏名など、必要事項を記入したら、用意しておいた笑顔の写真を貼る。
免許証用のサイズに裁断出来るマシーンを使って、品川駅で撮影した笑顔をカットする。
笑顔って難しい。何も面白い事がないのに笑おうとすると、こういう顔になってしまうのだ。目が笑っていない。こんな顔だったら普通にしてた方がましなのではないか。いやダメだ。今回の目的は免許証の写真を笑顔にすること。笑顔に多少問題があったとしても、これで挑戦するしかない。
いよいよ受付に写真を提出する
写真を申請用紙に貼付けて、失効手続きの受付に並んだ。
ここからが正念場である。ここで申請用紙が通れば、免許証の写真が笑顔になるはずだ。もし怒られたら、「いや、僕って普段から良く笑う人じゃないですか」と食い下がってみよう。いや、そんな事言える雰囲気じゃないかもしれない。あらゆるパターンを想定しているうち、僕の番が回ってきた。どきどきしながら係の人に差し出す。
記載事項に間違いがないか、一通り確認された後、
「別の写真ありますか?」
と冷静に戻された。
だ、ダメですか? と恐る恐る聞いてみた。
「顔の識別が出来るものでお願いします」
記載事項に間違いはないが、写真に間違いがある。
それが係の方の判断であった。
違う笑顔もある
そんな事もあろうかと、もう少しソフトな笑顔も用意しておいたのだ。
さっきの笑顔は、自分でもどうかと思っていた。
これくらいのスマイルだったら大丈夫なんじゃないか。笑顔を作る事に慣れていないので、若干ぎこちない表情ではあるが。
写真を張り替えたりしているうち、受付時間の締め切りが迫ってしまった。
もしこの写真もダメだったら、別の日に出直さないといけない。それは本当に面倒臭い。頼む、何とか通ってくれ。
さっきは左の係の人にダメ出しをされたので、今度は右の係の人に提出した。
さあ、どうだ?
今度はあっさりと通った。あのスマイルは大丈夫だったのだ。
やった! これで新しい免許証の写真はあのスマイルになる。
1時間後に2階の受付前に集合し、講習を受けた後に新しい免許証を受け取る段取りらしい。
緊張から解放されて一気にお腹が空いてきた。試験場内の食堂でしょうゆラーメンを注文した。濃いめの味付けではあったが、おいしいラーメンだった。一仕事終えた後のしょっぱい食事は本当においしい。
事態は急変する
ラーメンを食べたりアイスコーヒーを飲んだりして時間を潰した。
みんなも笑顔にすればいいのに。みんなが笑顔を携帯する車社会。いい感じだ。そんな事を考えているうち、あっという間に集合時間がやって来た。
ここで「うっかり失効者」たちが振り分けられる。過去に1度も違反がない人は30分の講習で済むが、僕のように過去に2度以上の違反がある人は2時間の講習を受けないといけない。
スマイル免許証はあと2時間のお預けである。ああ、早く手にしたい。
係の人から講習から受け取りまでの説明がある。
「名前を呼ばれた方は申請用紙を一旦受け取って、写真室で写真撮影をした後、講習会場に行ってください」
ん? 写真撮影?
どういう事だ? さっき申請用紙に貼った写真は?
事態を把握出来ないまま写真室に誘導される。
「ここで撮る写真が免許証になります」という張り紙が見える。
じゃあ、用意した写真の意味は?
こっちで用意した写真は免許証に反映されないのか?
誰かに確かめたかったのだが、近くに係の人はいない。はっきりしないまま、僕の写真撮影の番が来てしまった。
仕方ない。今、笑おう。
恥ずかしがってはいられない。
思い切ってさっきのスマイルくらいの笑顔を作ったら、
「はい、口は閉じてください」
と、係の女性から冷静に言われてしまった。
笑顔はダメらしい。
天国から地獄に突き落とされた気分で講習を受けた。掴みかけたスマイル免許証が遠ざかっていく。そうなってくるともう、さっきのラーメンに腹が立って仕方ない。なんだあのしょっぱいラーメンは。
2時間に渡る講習が終わり、免許証が交付される。
もしかしたら、スマイルの方が採用されているかもしれない。一分の望みを胸に、列に並んだ。
結局、さっき写真室で撮影した写真であった。
笑顔からはほど遠いマヌケな顔である。
後から係の人に確認したら、運転免許試験センターで更新する場合は、その場で撮影する写真を免許証に使用し、事前に用意した写真は試験センターの控えとして保存されるとの事であった。あのスマイルは保存用として役立った訳だ。
神奈川県警のホームページには免許証に不適正な写真の例が掲出されていた。色つきの眼鏡をかけている、前髪で目が隠れてしまう、目を閉じている、などと並んで「笑顔」も不適正となっていた。(https://www.police.pref.kanagawa.jp/mes/mes83068.htm)
結論:免許証の写真を笑顔にする事は出来ない。