折り曲げディスプレイを搭載するASUSのノートPC「Zenbook 17 Fold OLED」が12月1日に発売された。2022年初頭に発表され、9月開催のIT・家電の国際展示会「IFA 2022」では実物が披露された製品だ。
一面すべてがディスプレイというエクストリームなデザインで、かつ折り曲げることもできるインパクトしか感じられない本製品だが、その実力はいかほどのものなのか、製品版をお借りできたのでチェックしていきたい。価格もインパクト大の64万9,800円だ。
最新に近い装備に大画面有機ELディスプレイの贅沢仕様
Zenbook 17 Fold OLEDは1種類のみのラインアップだ。CPUは第12世代Core i7-1250U(最大4.7GHz、10コア/12スレッド、Processor Base Power: 9W)、GPUはCPU内蔵のIris Xe Graphicsを搭載する。
メモリは16GB、ストレージはPCIe 4.0 x4接続の1TB NVMe SSDで、いずれも増設は不可。OSはWindows 11 Homeで、Microsoft Office Home & Business 2021がプリインストールされる。
17.3型のタッチ対応ディスプレイには有機ELを採用しており、先述の通りアスペクト比4:3の2,560×1,920ドット。60Hzの標準的なリフレッシュレートにとどまるが、輝度500cd/平方mでHDRに対応し、DCI-P3比100%の色域をカバーする。
光沢タイプのため環境光の反射が目立つものの、色見本やカラーマッチングシステムで知られるPANTONEに認められた広色域ディスプレイとして、デザイナー視点でもお墨付きの性能を持っていると言える。
インターフェイスはThunderbolt 4×2と、3.5mmヘッドセット端子という最小限の装備。Thunderbolt 4はUSB PDに対応し、DisplayPort Alternate Modeによる最大4K×2の外部映像出力をサポートする。USB Type-A接続の周辺機器を使いたい場合は、付属しているType-C to Type-Aの変換コネクタを利用するか、別途USBハブを用意するとよいだろう。
ネットワーク/無線通信はWi-Fi 6とBluetooth 5.1を搭載。また、Windows Helloの顔認証に対応する491万画素のWebカメラを内蔵する。
ディスプレイサイズの影響で電力消費が大きくなりがちなためだろうか、バッテリは75Whと比較的大容量で、スペックシート上の動作時間は約12時間と余裕がある。充電用に最大65W出力のACアダプタが付属するが、USB PD対応なので市販の充電器やモバイルバッテリも問題なく利用可能だ。
スピーカーはharman/kardon監修の1W出力×4基構成。Dolby Atmosにも対応し、Netflixなどの動画配信サービスでは広がりのあるサウンドが楽しめる。
ただ、筆者が確認した限りでは、スピーカーの開口部の位置関係から、タブレットモードで横置きにしたときにのみ最適なサウンドとなるようだ。縦置きやノートPCモードにすると左チャンネルの音が右奥側から、右チャンネルの音が左手前から聞こえる違和感のある状態になってしまう。
Dolby Atmosなどの空間オーディオの設定をオフにしても変わらなかったので、動画や音楽をしっかり再生したいときは横置きタブレットモードにしたい。
ディスプレイを折り曲げるということで、耐久性も気になるところだ。ASUSによると3万回の折り曲げ試験をクリアしており、さらに筐体としては米国防総省の物資調達基準として知られる「MIL STD-810H」、いわゆるMILスペックに準拠する動作テストもパスしているとのこと。
それでも全く新しい構造のハードウェアということもあり、通常のノートPCよりもなんとなく丁寧にあつかいたくなってしまう……。
どんなアプリをどんな風に使うとしっくりくるのか
以上の使用スタイルのパターンや機能などを踏まえたうえで、Zenbook 17 Fold OLEDは具体的にどんな使い方ができるか考えてみたい。
まず「タブレットモード」は大画面なので、横置きしたときに動画視聴に向いているのは当然として、4:3という縦がやや長いアスペクト比を活かし、3:2であることが多い写真の編集作業が効率的に行なえる。
縦置きは、付属スタンドと化粧箱を利用するスタイルだといつでもどこでも、というわけにはいかないだろうけれど、ビジネス用途で考えると、高解像度も活かして設計図など細かい資料を現場で確認するようなシーンで本領を発揮しそうだ。
「ノートPCモード」は独特なスタイリングではあるけれど、上半分(正面)と下半分(手前)で2つのアプリケーションを同時に表示して使うのにちょうどいい。1アプリケーションで1,920×1,280ドットの解像度としても不足はないだろう。
それに加えて、意外に利便性が高いのが、縦方向に長いデータを見ていくような用途だ。たとえばWordやExcelなどドキュメントを縦スクロールして閲覧/編集していくとき、縦に長い画面だと効率的ではある。だが、従来の平面のディスプレイを縦置きすると、高さがありすぎてかえって視線移動が多くなり、疲れてしまう場合もあった。
しかし本製品は途中で折れ曲がっているため、画面の高さは一般的なノートPCと変わらないまま、縦長画面で広く閲覧していける。データ編集の効率アップにつながるのではないだろうか。
タブレットモード+Bluetoothキーボードの「デスクトップPCモード」はまさしくデスクトップPCらしい汎用的な使い方ができるものだが、ノートPCモード+Bluetoothキーボードの「拡張モード」は、もしかするとプログラミングに適しているかもしれない。
たとえば画面の上半分でテキストエディターやIDE(開発環境)を使ってコーディングし、下半分にマニュアルや成果物(実行中のアプリケーション)を表示する、みたいな応用は面白そうだ。
「リーダーモード」は、電子書籍を全画面表示すれば、確かに本っぽい雰囲気で読み進められるし、左右2分割して複数のWebページやSNSを同時に閲覧していくのもいい。
あるいは、ちょっとテイストの異なる使い方としては、レースゲームもアリかもしれない。折り曲げ角度をイイ感じに調整して湾曲モニター風に視野を覆うようにすることで、スピード感がちょっぴり増すような気がするのだ。
ビジネス用途には不満のない性能を発揮
性能も確かめておこう。CPUとGPUの構成から、どちらかというとビジネス向けPCの趣が強いのではないかと想像できるが、各種ベンチマークテストの結果からもそうであることが分かる。
CPU性能を測るCinebenchは、第12世代Core i7なりの高いスコアとなった。「PCMark 10 Extended」を見ると動画やゲーミングの分野がやや弱いようだが、ほかの項目は必要十分以上の性能が出ており、写真編集周りも決して低くない。それは「PCMark 10 Applications」や「UL Procyon」の2つのベンチマークテストからも伺える。
内蔵SSDはPCIe 4.0接続ということもあってかなり高速で、ビジネス用途における快適度はなかなかに高そうだ。
念のため「3DMark」と「ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク」でゲーミング性能も軽くチェックしてみた。結果としては、2,560×1,920ドットの解像度をフルに活かそうとすると厳しい感じだが、フルHDで多少クオリティを落とした設定であれば問題なく楽しめそうだ。
こうした性能を考えると、ウィンドウ表示対応のゲームは「ノートPCモード」であえて画面上半分のみに表示し、攻略サイトなどを画面下半分に表示して遊ぶ、みたいなプレースタイルがバランス的な意味でもちょうどよいのではないだろうか。
なお、高負荷時の冷却ファンのノイズは、「パフォーマンスモード」だとそれなりに大きくなるが、高音成分は多くなく、耳につくものではない。排熱も「ノートPCモード」にした状態のときは画面右上側面から逃げる構造のため、手元が熱くなるようなこともない。
ネガティブ要素はゼロではないが、それを補って余りある新しい個性と楽しさ
大画面が折れ曲がる斬新なZenbook 17 Fold OLED。未来を感じさせる見た目のインパクトは確かに大きいが、ビジネス向けノートPCとして過不足のない性能をもち、それを6パターンの多様なモードで活用できるようにした、実用面にもしっかりフォーカスしたモデルとなっている。
6つのモード以外にも、使い込んでいくうちに、もしかすると未知の応用方法がまだまだたくさんあるのでは……という可能性やわくわくする楽しさを感じさせてくれたりもする。
ただ、細部を見ると気になるところもないわけではない。こうしたフォルダブルタイプの宿命か、折れ曲がる画面中央あたりの表面が波打っていたり(画面をスワイプすると凹凸がよく分かる)、帯電しやすいのか画面にホコリが目立ちやすかったりする。
また、ディスプレイが光沢タイプで光が映り込みがちなだけでなく、「ノートPCモード」だと手前側と天井側の2方向からの光を反射するのでどうしても映り込みを避けにくいといったネガティブ要素もある。
しかしそれでも、実用度が高いノートPCであることは確かだ。この際、価格性能比がどうかという視点で見てはいけないだろう。最先端で、誰もが目を見張るほかにはない個性的なノートPCで仕事したいか、そうでないのか。ビビッと来たのなら本能に従って行動すべきである。
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