動物の行動には「生後1日目」から個性が存在している可能性

GIGAZINE


人間を含む動物の行動にはそれぞれ個性が存在していますが、一体いつから行動の個性が発生し、発達していくのかについては不明な点が多く残されています。そこで、遺伝的に同一なクローン魚の行動を出生直後から追跡した実験を行ったところ、行動の個性は「生後1日目」から存在していることがわかりました。

The emergence and development of behavioral individuality in clonal fish | Nature Communications
https://doi.org/10.1038/s41467-022-34113-y

You’re unique … just like everyone else. But when & how does this happen?
We found that genetically identical individuals, Amazon ????, reared in (as experimentally possible) identical environments show individuality on their very first day of life! https://t.co/HmiAtfwozC

— Kate Laskowski (@KateLaskowski)

一般的に、行動の個性は遺伝子や社会的環境といった条件の差に基づいて生じると考えられています。ところが、無性生殖で繁殖することが知られるアマゾンモーリーを用いた2017年の研究では、遺伝子が同じ個体を高度に標準化した環境で飼育したにもかかわらず、生後7週目に行動の個性が確認されたと報告されています。

以下は、個性が表れる3つのパターンを簡単な図で示したもの。左が「出生時点で個性が存在するパターン」、真ん中が「出生後徐々に個性が表れるパターン」、右が「特定の時点でいきなり個性が表れるパターン」です。


そこでライプニッツ淡水生態学・内水面漁業研究所の研究チームは、遺伝的に同一のアマゾンモーリーを出生直後から同一環境に分離し、高性能な追跡システムを利用して行動を追跡する実験を行いました。

実験では、同じ遺伝子を持つ出生直後の魚を光や温度条件、食物、社会的密度といった環境を同一にそろえた水槽に収容しました。そして、シングルボードコンピューターのRaspberry Piとカメラを用いて構築した自動記録システムを使って、収容直後から生後10週目まで魚の写真を定期的に撮影しました。以下はアマゾンモーリーの写真です。


写真撮影は魚が行動している日中の11時間に3秒間隔で行われ、1日あたりの撮影枚数は1万3200枚に上り、実験期間中に撮影された総画像枚数は1匹当たり90万枚を超えたと報告されています。画像データは1日ごとにタイムラプス動画化され、カスタム追跡ソフトウェアで水槽内の位置座標を抽出し、遊泳速度の中央値や活動傾向といった行動の個性を追跡したとのこと。

実験の結果、アマゾンモーリーの行動的個性は生後1日目から一貫して存在しており、個性の違いは母親や体のサイズなどによって説明できるものではないことが確認されました。また、生後10週目にかけて徐々に個性が強化されていったころや、発達初期の個性は発達後期の個性と有意かつ強力な正の相関があることも研究チームは報告しています。

以下のグラフは、データから推測した特定固体の遊泳速度が時間の経過によってどのように変化したのかを示したもの。出生直後から泳ぐのが速かった個体はその後の段階でさらに遊泳速度が速くなる一方、遅かった個体は遅いままであり、発達初期の個性がその後も維持・強化される傾向がみられます。


遺伝的に同一の個体において出生直後から個性の違いが生じる点について、研究チームは「母親のDNAメチル化やホルモンといった母体内環境の違い」という仮説や、「分子的・神経学的・生理学的マーカーの確率的変動の結果」といった仮説を挙げています。いずれにせよ、これらの違いから生じる個体差は環境に対する種としての適応性を増し、遺伝的に同一なアマゾンモーリーの生存確率を上げる可能性があるとのこと。

研究チームは、「行動的個性は動物集団の基本的な特徴です。私たちの研究は、遺伝的・環境的な差異がない場合にこれらの個体間差異がどのように変化し、発達するかについての帰無モデルを提供するものです」「一般に個性は遺伝子や経験の違い、特定の生態学的条件によって生じると考えられています。しかし私たちの研究は、出生前のより微妙なプロセスが、行動的個性を生み出す上で基本的な役割を果たす可能性があると示唆しています。つまり、個体は生まれながらにしてユニークですが、それが生涯にわたる行動の変化を否定するわけではないということです」と述べました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
「育った国や家族が違う一卵性双生児」のIQや価値観にはどのような差が出たのか? – GIGAZINE

なぜDNAが同じ一卵性双生児でも指紋はまったく同じにならないのか? – GIGAZINE

「シャワー中に歌う」「辛いものを食べる」といった何気ない日常の行動が本人の性格を物語っているとする研究結果 – GIGAZINE

年齢を重ねると性格は変わるのか? – GIGAZINE

遺伝的な差異が教育レベル・職業的地位・収入にどれぐらい影響するのか? – GIGAZINE

幸福になれるかどうかを決めるのは「遺伝子」だけではない、「本人の選択や環境」も重要との主張 – GIGAZINE

・関連コンテンツ

2022年10月31日 23時00分00秒 in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

You can read the machine translated English article here.

Source