日産とルノーの新しい「お友達関係」:日産の新時代は過酷かつ逆風

アゴラ 言論プラットフォーム

日産とルノーは非常に近いうちに新たなる関係になると発表する見込みです。それはもつれに縺れた糸を解きほぐし、1999年に必ずしも平等ではないながらも日産を倒産の危機から救ってもらったルノーとのより対等でより肩の力を抜きことが出来る関係とされます。

一部報道によればルノーが日産の持ち株を15%まで下げ、日産と同じ持ち株比率にするというものです。これが実現すれば一時期はフランス政府の強い介入からも解放され表層上は一息つくことになります。

日産自動車株式会社HPより

メディア的にはそれをついに勝ち取ったというスタンスで報じていますが、内情はウィンウィンではなく、ルーズルーズだったのかもしれません。日産にとってみればしがらみが取れるというウィンではないか、と思われますが、今、日産が世界で再びリードできる自動車会社だとは想像するのはやや困難があるのです。言い換えればルノーにとって株主配当を通じてもっと稼いでくれる孝行息子のはずが放蕩息子となってしまえば、ルノーは新たな戦略を立てるためにも息子の背中は押さざるを得なかったという事でしょう。

ルノーはその代わり、別に立ち上げる電気自動車専門会社に日産に一定額の出資を求める用意があるとされます。つまり、今までの内燃機関の自動車の関係は「お友達同士」となり、「電気自動車で同棲しよう」という感じに見えます。これはルノーが引き続き日産のノウハウを多少なりとも期待していると取るべきなのでしょうか?「あの夢よ、もう一度」なのでしょうか?

世界の自動車市場において日本の電気自動車産業は最も遅れているかもしれません。普及率も生産者の能力においてもそして、市民や政府の理解度や将来計画も含めて、と言う意味です。電気自動車について厳しいご意見の方がまだまだ多くいらっしゃるのは十分承知しています。かといって私はテスラ信者でもありません。ただ、言えるのはテスラは確かに開拓者であり、常に発想の面で先手必勝であったことは否めません。何故それができたか、といえばテスラ社は創業者独裁であり、物事の決定の早さが他社の何倍、何十倍であり、かつ革新的、斬新的、画期的でリスクを恐れない創業者がいることがいままでのところプラスに回っているとみています。

ただ、いつまでもテスラがリードする事は100%ありえず、次のグループが虎視眈々とグローバルな観点から戦略を練っています。ルノーの本拠地である欧州は環境問題に繊細であり、社会がそれに積極的に取り組む点において市場はインキュベーション(孵化)時代から普及期に入るところであります。欧州はベンツやポルシェといった高級車メーカーが主導した電気自動車マーケットからフォルクスワーゲンといった普及車メーカーに広がりを見せています。

アメリカ、中国は言うに及ばず、韓国メーカーの電気自動車へのシフトもすさまじいものがあります。それに対して日本は電気自動車の夜明けを感じさせないわけではないのですが、ムードも盛り上がりもありません。個人的には経済産業省、国交省、警察あたりの連携の悪さもあるし、官邸が本気度を見せていないこともあります。これはこのブログで再三指摘している通り、日本が政治をしていない、官僚が構想を展開できない、首相が国民に訴える力がないことが災いしているのでしょう。

それ以外に業界の圧力や微妙な力関係も影響しているように思えます。自動車産業が抱える雇用のすそ野を考えれば政府が「右向け、右」とは言えない事情は分かります。ただ、その雇用の硬直性が日本に陽が昇らなくさせている一つの理由でもあります。今になってようやくリスキリングという言葉が世間で「なに?」と言う広まりを見せ始めています。世代替わりという時間軸を経ないとどうやら展開にはもう少し時間がかかりそうだと感じています。

とすれば日産はルノーとどのようなお友達関係が良いのでしょうか?個人的には欧州自動車市場の刺激を受けること、そしてその需要や消費者目線から次世代の電気自動車の開発を共にすすめて行ったらよいと思います。併せてバッテリーを現在の充電式にするのか、着脱交換方式にするのか、既存の流れに囚われない革新的な発想をきたして欲しいと思います。

東京都が新築住宅について太陽光パネルの標準設置を打ち出しましたが、これを売電ではなく、電気自動車のバッテリー充電、蓄電で電力の家庭内の利用といった家庭内インフラに転換させるパッケージ作りなど大胆な切り口と電気の自給自足化という発想もひとつ、加えることで世間が突如飛びつくような製品開発がまだまだ可能である、と私は信じています。

日産の新たな時代はより過酷、かつ逆風すら吹く時代です。経営陣の創造力と実行力を期待したいと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年10月20日の記事より転載させていただきました。

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