2,042Mbps? メッシュ? IPv6?……。Wi-Fiルーターを購入したいが、よく分からない用語ばかりで、選び方の基準が分からないという人も少なくないことだろう。最終的には予算が大きく影響するにしても、スペックの意味や違いを理解せずに購入すると、後悔することにもなりかねない。Wi-Fiルーター選びで重要となる項目についてチェックしてみよう。
パッケージを読み解く
最近ではネットで購入することの方が増えてきたため見かける機会も減ってきたが、それでもWi-Fiルーターを購入するとき、まず参考にしたいのはパッケージに記載されている情報だ。
情報量自体は、メーカーのWebページの方がはるかに詳細だが、パッケージにはその製品の特長が強弱をつけて、簡潔にまとめられているので、ここを読み解けるようになれば、Wi-Fiルーター選びで困ることがなくなる。
たとえば、上にあるバッファローの「WSR-5400AX6S」と、下にあるNECプラットフォームズの「Aterm WX3600HP」のパッケージだ。
ひと目で分かる通り、両方とも「Wi-Fi 6」という規格と、バッファローの方は「4803+573Mbps」という速度が強調されている。
この2つは、Wi-Fiルーター選びで必須のチェック項目だ。これによって、Wi-Fiルーターの性能が変わるうえ、価格の違いにも影響してくる。
その一方で、競合との差異化のために、あった方がいいが、なくても困らない機能もパッケージには記載されている。最終的には、こうした情報を取捨選択しながら、自分に合ったWi-Fiルーターを選べるようになるのが本稿のゴールだ。
Wi-Fiルーター選びの重要項目
それでは、実際にWi-Fiルーター選びで重要となる項目を具体的に見ていこう。
(1) Wi-Fiの規格
Wi-Fiの規格は「Wi-Fi 6」のように、Wi-Fiに数字を組み合わせた形式で呼ばれる。かつては、Wi-Fiの通信規格を定めたIEEE 802.11acやIEEE 802.11axなどで呼ばれていたが、分かりにくいということで世代を表す数値で表現されるようになった。
新名称 | 規格 | 周波数帯 | 最大速度 | 実際の製品の最大速度 |
---|---|---|---|---|
Wi-Fi 4 | IEEE 802.11n | 2.4/5GHz | 600Mbps | 600Mbps |
Wi-FI 5 | IEEE 802.11ac | 5GHz | 6.93Gbps | 2,167Mbps |
WI-Fi 6 | IEEE 802.11ax | 2.4/5GHz | 9.6Gbps | 4,804Mbps |
Wi-Fi 6E | IEEE 802.11ax | 2.4/5/6GHz | 9.6Gbps | 4,804Mbps |
Wi-Fi 7 | IEEE 802.11be | 2.4/5/6GHz | 46Gbps | – |
Wi-Fiの規格は、基本的に下位互換があるので、上位のものを選んでおくのが基本だ。たとえば、Wi-Fi 6対応のルーターを選んでおけば、Wi-Fi 6/5/4対応のPCやスマートフォンを接続できる。
ただし、Wi-Fi 4/5対応の機器は、Wi-Fi 6で規定された通信方式には対応していないので、接続先のWi-FiルーターがWi-Fi 6対応であっても通信速度はWi-Fi 4/5など子機側の上限までとなる。また、互換性を確保するため、上位規格の機能がネットワーク全体で無効になる場合もある。
今(2022年10月時点)、Wi-Fiルーターを購入するなら、 「Wi-Fi 6」または「Wi-Fi 6E」がおすすめだ 。現状、ほとんどのPCやスマートフォンがWi-Fi 6対応なので、いくら安くてもWi-Fi 5を選ぶのは得策ではない。
実際、Wi-Fi 6対応のPCをWi-Fi 5対応のWi-FiルーターとWi-Fi 6対応のルーターに接続して速度を比較したのが以下のグラフだ。Wi-Fi 5ルーターの場合、1階で600Mbps前後だが、Wi-Fi 6では同じ600Mbpsの速度を3階でも発揮できる。Wi-Fiルーターが古いと、せっかくのWi-Fi 6対応PCの性能がもったいない。
なお、Wi-Fi 6Eは、従来のWi-Fi 6と同じ通信方式だが、利用できる帯域として2022年9月に法令で認可された6GHz帯を利用できる。6GHz帯は、空いている帯域なので、近隣との干渉を避けた高速な通信が可能だが、本稿執筆時点(2022年10月)では接続可能なPCやスマートフォンが市場に存在しない。
将来的には対応機器が増えてくるうえ、後述するメッシュや中継で6GHz帯を使うメリットもあるが、もう少し、様子見でも構わない。
(2) 通信速度
通信速度は、製品によってさまざまあり、前述したように、これが製品ラインナップの位置づけや価格を決定する要素となっている。
現在主流のWi-Fi 6ルーターであれば、速度は2.4GHz帯が574Mbpsと1,147Mbpsの2種類、5GHz帯が1,201Mbps、2,402Mbps、4,804Mbpsの3種類となっており、モデルによって組み合わせが変更される。
前述したパッケージでは、この速度の組み合わせが「+」で表現されている。4,804+574Mbpsなら、5GHz帯が最大4,804Mbps、2.4GHz帯が最大574Mbpsにまで対応しているという意味だ。
- エントリーモデル : 1,201Mbps+574Mbps
- ミドルレンジモデル : 2,402Mbps+574Mbps
- ハイエンドモデル : 4,804Mbps+1,147Mbps
なお、製品によっては、「トライバンド」対応として、2,402Mbps+2,402Mbps+574Mbpsと3つの速度が記載されている場合もある。これは、Wi-Fi 6E対応で6GHz帯が追加されているケース(6GHz+5GHz+2.4GHz)、またはメッシュや中継用に5GHz帯が追加されている製品となる(5GHz+5GHz+2.4GHz)。
これら速度の値は、以下の表のように、主に帯域幅とストリーム数によって決まる。正確には変調方式や誤り訂正率、干渉を避けるためのインターバルのパラメータなども影響するが、パッケージやスペック表を読み解くまでなら単純に帯域幅とストリーム数で考えていい(興味がある人はWikipediaにあるMCSインデックスを参照)。
周波数帯 | 速度 | 帯域幅 | ストリーム数 |
---|---|---|---|
2.4GHz | 574Mbps | 40MHz | 2 |
1,147Mbps | 40MHz | 4 | |
5GHz | 1,201Mbps | 80MHz | 2 |
2,402Mbps | 80MHz | 4 | |
2,402Mbps | 160MHz | 2 | |
4,804Mbps | 80MHz | 4 | |
4,804Mbps | 160MHz | 2 |
要するに、一度にどれくらいの幅の通信を何本使えるかで最終的な速度が決まるわけだ。帯域幅はどれくらいの電波を使って通信するかを示し、ストリーム数は同一空間中で通信を多重化するMIMOという技術で何本の通信を同時に行なうかを示している。
ストリーム数はアンテナ数で表現される場合もある。同一空間中で異なる通信を多重化するには、それぞれの通信を個別の無線モジュールとアンテナを使って放出する必要がある。ストリームの数だけアンテナが必要ということになる。
長くなったが、結局どれを選べばいいのかというと、 基本的には2,402Mbps以上をおすすめする。
現状、ルーターメーカーでは、エントリーモデルは1,201Mbps、ミドルレンジが2,042Mbps、ハイエンドが4,804Mbps対応と位置付けているのが一般的だ。このため、対応速度が高いほど値段も高くなる。
一方、接続する側の機器は、スマートフォンの多くが1,201Mbpsで、一部機種(Pixel 6以上)が2,402Mbps対応。PCは、ほとんどが2,402Mbps対応となっている。このため、2,402Mbps対応ルーターの購入がおすすめとなる。
ただし、上記の表のように、同じ2,402Mbpsでも、80MHz×4ストリームの場合と、160MHz×2ストリームの場合の2種類が存在する。最大速度が2,402Mbpsとなるのは、160MHz×2ストリームのケースだ。この場合、2,402Mbpsを2系統同時に通信できる。
一方、80MHz×4ストリームは、端末の最大速度は1,201Mbpsで、それを同時に4系統分確保できるという意味になる(実際の同時通信可能数は機器によって異なる)。前述したNECプラットフォームズの「Aterm WX3600HP」は、まさにこのパターンで、80MHz×4=2,402Mbpsと160MHz×2=2,402Mbpsのどちらにも対応している(自動的に判断)。
このため、実際に購入する際は、パッケージやスペック表などで 「160MHz」や「HE160」という表記を確認し、160MHz幅対応であることを確認しておくのが確実だ。
(3) 中継/メッシュ
Wi-Fiルーターによっては、中継機やメッシュに対応している場合がある。これらは、必要に応じて選択すればいい。
どちらもWi-Fiのエリアを広げられる機能となる。 中継機やメッシュポイントとして設定した機器が、電波を中継することで、1台では電波が届かない場所での通信を可能にしたり、長距離や遮蔽物がある環境で速度を向上させたりできる。
現状は、単純な中継機能ではなく、メッシュに対応した製品の方が多いが、メッシュの場合、移動しながら使う端末の接続先をよりスムーズに切り替えることなどができる。また、メッシュ構成の設定が簡単にできるなどのメリットなどもある。
いずれも、広い家やマンションなどの遮蔽物が電波を通ししにくい環境で検討すべき機能だが、多くの製品が標準で対応しているので、将来的な拡張に備えて一応確認しておけばいいだろう。
(4) IPv6対応
Wi-Fiルーターは、Wi-Fiでの接続に加えて、インターネット接続も担う機器となる。このため、対応するインターネット接続方式も重要なチェックポイントの1つとなる。
インターネット接続に関しては、現在であればIPv6対応が必須と言える。IPv6機能は、厳密にはIPv6で接続するIPoE IPv6機能と、IPv6ネットワーク上で従来のIPv4通信を実現するIPv4 over IPv6の2種類があるのだが、両方がセットで搭載されているので、単にIPv6機能と呼ばれることが多い。
IPv6機能については、国内メーカーの製品であれば、ほぼ対応している。 バッファロー、NECプラットフォームズ、アイ・オー・データ機器、エレコムであれば、むしろ対応していないモデルを探す方が難しい。
一方、海外メーカーの製品は、対応がまちまちだ。最近では、TP-LinkやASUS、ネットギアの対応も進んできたが、一部機種のみだったり、ファームウェアのアップデートが必要だったりする。
とは言え、これらは接続する回線がIPv4 over IPv6対応で、しかも購入したWi-Fiルーターをインターネット接続用に利用する場合のみとなる。
すでに回線事業者からレンタルで提供されているホームゲートウェイやルーターでIPv4 over IPv6によるインターネット接続が可能な場合は、新たに購入したWi-Fiルーターをアクセスポイントモードにして利用すればいい。
(5) 2.5Gbpsや10Gbpsの有線LAN
Wi-Fiルーターの有線LANと言えば、長らく1Gbpsが一般的だったが、最近では2.5Gbpsや10Gbpsに対応した製品も登場している。
これらは、上記IPv6同様、契約中のインターネット接続環境によって選択すればいい。 インターネット接続回線が10Gbpsなど高速な環境なら、10Gbps対応の有線LANを備えたWi-Fiルーターを購入することで、せっかくの速度を無駄にせずに済む。
なお、1Gbps以上の有線LANがいくつ搭載されているかは製品によって異なる。WAN側(インターネット接続用)のみが2.5Gbpsや10Gbps対応のケースもあれば、PCなどを接続するためのLAN側にも2.5Gbpsや10Gbps対応のポートが用意されている製品もある。
理想は、WAN/LANともに1Gbps以上だ。高性能なPCは2.5Gbps対応のLANを備えているケースも増えているので、有線でも高速に接続することが可能になる。
ただし、2.5Gbpsよりも10Gbps対応、WANのみよりもWAN/LAN対応のWi-Fiルーターの方が価格は高くなる。これらはメーカーもハイエンドに位置づける高級品になりがちなので、費用をよく検討する必要があるだろう。
なお、LAN側でPCやNASなど、複数台の機器を2.5Gbpsや10Gbpsで接続したいなら、2.5Gpbsや10Gbps対応のスイッチングハブが必要になる。2.5Gbps対応であれば1万円前後でも購入可能だが、10Gbps対応は高価なので、こうした費用も予算に組み込んでおく必要がある。
(6) 必須ではない機能
このほか、パッケージやWebページには特徴として記載されているものの、実際にWi-Fiルーターを使う上で必須ではない機能について触れておく。
まずは、ゲーミング機能だ。ゲーミングルーターというのは、言わばメーカーのブランディングで、高性能な製品の代名詞として使われるケースが多い。実際、CPUやメモリなどのスペックが高く設定されている場合もあるが、Wi-Fiルーターの場合、CPUやメモリが全体の性能に与える影響は小さい。
あるとすれば、ルーター上で、後述するセキュリティ機能などを稼働させる場合や、大量の端末の同時接続が発生する場合だが、一般的な製品でもCPUやメモリの性能不足を感じることはほぼない。
また、特定の端末やアプリの通信を優先的に処理する「QoS((Quality of Service))」機能によって、ゲームなどの遅延を下げられるとするケースもあるが、これも機能として効果が見えにくい。実際の環境では、インターネット側の遅延や無線そのものの遅延の方が大きいため、QoSの効果が表れにくい。
もう1つは、最近、国内メーカーでも採用例が増えているセキュリティ機能だ。これは、あると便利な機能であることは確かだ。接続中の端末を把握したり、子供が悪質なサイトにアクセスできないように制限したり、フィッシングや不正アクセスなどの攻撃を遮断することができる。
しかしながら、製品によっては利用するために月額料金が必要になるケースがあるため、この費用をどう考えるかが判断の分かれ目になる。
個人的には、小中学生の子供がいる家庭であれば、利用する価値はあると思うので、自分の環境で必要かどうかを事前に検討しておくといいだろう。
いまは絶対にWi-Fi 6以上のルーターを選ぶべき
以上、Wi-Fiルーターを購入する際の重要項目について解説した。
まとめると、選ぶべきは「絶対Wi-Fi 6以上」で、「160MHz幅対応2,402Mbpsがおすすめ」で、あとは回線環境や使い方次第ということになる。
なお、すでに次世代のWi-Fi 7の話も聞こえているが、規格としての登場は2024年が想定されているので、現段階で意識する必要はない。メッシュや中継構成を考えているならWi-Fi 6Eがおすすめだが、多くの場合はWi-Fi 6の選択で間違いないだろう。
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