北朝鮮が2022年10月4日に発射し、日本上空を通過した弾道ミサイルは約4600キロにわたって飛行した。ミサイルは17年8月と9月に日本上空を通過した中距離弾道ミサイル(IRBM)「火星12」型の改良型の可能性があり、この4600キロという距離は北朝鮮のミサイルとしては過去最長だ。
この点は北朝鮮にとっては格好のアピール材料になるとみられ、過去のミサイル発射事案では現場を視察する金正恩総書記の写真つきで1面トップを飾ることも多かった。ただ、今回の発射については「ダンマリ」。代わりに労働新聞を飾ったのは、金正恩総書記をたたえる「社説」だった。
「健康状態と食糧事情が悪く、住民たちがミサイル発射を肯定的に受け入れない?」
北朝鮮メディアが最後にミサイル発射を報じたのは4月17日。金正恩氏が「新型戦術誘導兵器の試射」を視察したと報じている。この記事に視察の日付は入っていないが、日韓は北朝鮮が4月16日にミサイルを発射したとみられると発表している。北朝鮮メディアが報じたのは、この発射の様子だとみられる。それ以降も北朝鮮はたびたび発射を繰り返してきたが、国営メディアは沈黙を守ってきた。
今回のミサイル発射の翌日にあたる10月5日付けの労働新聞1面に載ったのは、「人民大衆第一主義を党と国家事業全般にさらに徹底的に具現していこう」と題した社説など6本の記事。社説は正恩氏への忠誠を求める内容だが、特に核やミサイルの話題は登場しない。
聯合ニュースは、国営メディアの沈黙の理由として、梨花女子大の朴元坤(パク・ウォンゴン)教授の「それだけ内部の状況が良くないという証拠」という見立てを紹介。新型コロナで多数の犠牲者が出たとの説もあるなかで、「健康状態と食糧事情が悪く、住民たちがミサイル発射を肯定的に受け入れないだろう」との見方を示した。
金正恩氏は9月8日、国会にあたる最高人民会議で行った演説で、核兵器について「すなわち祖国と人民の運命であり、永遠なる尊厳であるというのがわれわれの確固不動の立場」だとして非核化を否定。ミサイルの発射回数を重ねることで技術向上を狙う一方で、内部向けにはアピールしにくいという事情もあるようだ。
ミサイル発射を受けて日本国内では、日本政府全国瞬時警報システム(Jアラート)が発動され、国民に情報が伝えられた。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)