ソニー「におい提示装置」発売へ–嗅覚能力の低下見極め、神経変性疾患の早期発見へ

CNET Japan

 ソニーは10月5日、独自のにおい制御技術「Tensor Valve」テクノロジーを開発したと発表した。学術研究、企業用途の「におい提示装置」である「NOS-DX1000」を2023年春に発売する予定だ。


「NOS-DX1000」

 NOS-DX1000は、におい制御技術Tensor Valveを搭載し、においに関連した研究や測定を行うためのにおい提示装置。医療機関をはじめ、研究機関、自治体等において、嗅覚測定や嗅覚トレーニング、またにおいサンプルの確認や検証など、においにまつわる研究や測定の用途に展開していく計画だ。

 Tensor Valveテクノロジーは、多数の嗅素(においの素)を手軽に制御し、混在させずに均一に提示できるという新技術。NOS-DX1000は、アレイ上に連なる40種の嗅素成分を含むカートリッジを即時に切り替え、高出力・高ストロークな駆動により、十分な通風で被験者ににおいを届けるワイヤ式リニアアクチュエータを40機搭載。におい漏れを抑制する高気密カートリッジ技術を開発し、嗅素成分を効率よく被験者に届ける。


「NOS-DX1000」の特徴

リニアアクチュエータバルブのイメージ

 「ソニーでは、2016年にスティック型アロマディフューザー「AROMASTIC」を発売。NOS-DX1000には、AROMASTICの開発で培ったカートリッジ流路技術を発展させた、らせん流路構造を採用し、においの気流が巡るよう設計している」(ソニー 新規ビジネス・技術開発本部事業開発戦略部門ビジネスインキュベーション部嗅覚事業推進室室長の藤田修二氏)と、開発の背景を話す。


ソニーのにおい制御技術の進化と深化

 嗅覚能力測定は、嗅素に浸したニオイ紙に鼻先を近付け、何のにおいかを被験者が特定できるまで、濃度の薄いものから順次濃いものへと試薬を変え、匂いの種類も変えてかぐ動作を繰り返すのが一般的。「現状の測定は非常に手間がかかる検査となっている。試薬のにおいが検査室にこもったり、そのにおいで嗅覚検査に支障をきたすといったことも課題の1つ」とゲストスピーカーとして登壇した、金沢医科大学 耳鼻咽喉科学教授の三輪高喜氏は説明する。


金沢医科大学 耳鼻咽喉科学教授の三輪高喜氏よる、試薬と紙を使った現在の聴覚能力測定の実演

 におい提示装置の開発は、より簡便に嗅覚測定ができる環境を整えることが目的の1つ。医療学術研究の分野では、アルツハイマー病や、レビー小体型認知症、パーキンソン病は、嗅覚障害が前触れ症状になると報告されているとのこと。東海国立大学機構 名古屋大学 大学院医学系研究科神経内科学教授の勝野雅央氏は「嗅覚を正確に測定できれば、認知症をはじめ、脳の病気の早期発見につながる。現在、アルツハイマー病やパーキンソン病は、新しい薬の開発も進んでいる。早期発見ができれば、治療も進むと考えられ、期待している」とした。

 手掛けたのはソニーの「新規ビジネス・技術開発本部」。ソニー 新規ビジネス・技術開発本部副本部長の櫨本修氏は「ソニーは視覚、聴覚を使ったユーザーの感動体験に貢献してきた。五感の1つである嗅覚は、その匂い自体を取り扱うことが難しく、ソニーとして価値提供ができていなかった部分。ソニーがこれまでに培った視覚、聴覚に嗅覚が加わることで新しい価値提供ができると考えている」とコメントした。

 今後は、学術研究分野における嗅覚測定の実施のハードルをさげ、鼻科、神経内科等の研究への貢献を目指していくほか、「クリエイターとユーザーをつなぐ価値提供もしていきたい」(櫨本氏)とし、エンターテインメント分野の活用も視野にいれているとした。


ソニー 新規ビジネス・技術開発本部副本部長の櫨本修氏

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