オンライン授業やマスク姿で「空気を読むコミュニケーション」に苦労する高校生

CNET Japan

 「空気を読まないとか、読めないことでいじめにつながることはあると思う」とある高校生は言う。体育祭の前にクラスで盛り上がっているときに、「だるい」と発言した生徒がいたそうだ。複数人が嫌そうな顔をしていて、案の定、後で「空気読まないよね」と話題にされていた。その後、LINEグループでその生徒の悪口が複数投稿されたのを見たという。

 このように、空気を読まないことである生徒が輪に入れなくなり、いじめが始まることもある。ところが、コロナ禍が続く今、空気を読むことが難しくなっているという。どういうことなのだろうか。

オンライン授業で相手の気持ちを汲むのは難しい

 文化庁の「平成28年度 国語に関する世論調査」(2016年3月)によると、「これからの時代に特に必要な言葉の知識や能力」を聞いたところ、「説明したり発表したりする能力」が最多の21%だった。一方、「相手や場面を認識する能力」と回答した割合は19%で、2002年度の7%から大幅に増えていた。これは「空気を読むこと」と言い換えていいだろう。近年、空気を読むことが大切とされてきているのだ。

 「KY」、つまりK=空気、Y=読めないという言葉が流行ったのは、2007年頃のこと。もうこの言い方は死後だが、空気を読むこと自体は当たり前のこととなっている。特に若い子の間では、空気を読むことは死活問題だ。

 夏休み明け、都心の学校の中にはオンライン授業や分散登校となった学校も少なくなかった。先程の高校生の高校も、しばらくオンライン授業となった。その時の体験から生徒は、「オンライン授業は、コミュニケーションが違うと思う」と断言する。

 オンライン授業自体については、「先生側はいつもよりテンションが高くて、違和感があった。がんばって盛り上げようとしている感じ。自分たちがわかってるか、どう感じているのかを必死につかもうとしている感じがした」という。「画面に集中しすぎて疲れたけれど、授業もしっかり受けられたし、家で一人で勉強していた一斉休校の時を思うとずっとよかった」。

 授業の一環で、オンラインでディスカッションをする時間がとられたこともある。回線の調子が悪いと言って顔を映さない生徒もおり、声だけでやり取りするのはかなり難易度が高かったという。体験から、「オンラインだけでは他の人の気持ちを汲むのが難しいし、なかなか盛り上がれない」と感じたそうだ。

 「沈黙が続いてしまうこともあった。普段なら絶対にそんなことないのに。画面や音声が粗いせいもあるのかな。表情とか声とかつかむのが難しすぎて、気を使いすぎて疲れてしまった」。

 自分の意見を言おうと思っていたが、発言のタイミングが難しく、タイミングを待っているうちに発言しそびれてしまったこともあったという。「他の人にかぶると悪いし、今話題がどっちに向かっているのかとか、みんながこっちの意見に興味を持っているのかとかもつかみにくかった」。

 筆者も対面講演とオンライン講演の両方を行うが、対面講演では相手の反応が見えて、聴衆がわかっているのか、どこに食いついているのかなどがわかってとても話しやすい。一方オンラインでは相手の反応が見えないので、画面を前に延々とひとりで話し続けるのは孤独だし、話しづらいものだ。

マスク姿しか知らない友だちと音声コミュニケーションも

 その高校生の学校もオンライン授業は終わり、通常通り登校するようになった。けれど、学校に行ければ解決というものでもなさそうだ。絆が強まったり親しくなるきっかけとなる行事の多くは中止、または縮小となり、中にはオンラインとなったものもあるためだ。

 「そもそも、マスク姿だと表情がわかりづらくて」と、その高校生は雑談の中で言っていた。「元々空気は読める方だったのに、目つきだけだと表情が読みづらくて、相手がどう思ったのかが分かりづらい」そうだ。

 マスクを取った顔を見たことがない人も多く、食事のときなどに横目で見て、「思ったのと違う」と思ったことがあるという。大人でも、コロナ禍の中で知り合った相手の顔をまともに見たことがない人は多いだろう。

 「親しい友達とは休みの日とかもオンラインで話したりする。LINE通話とかしてるけど、大学生の姉はDiscordとか使っている」。最近は音声コミュニケーションや音声メディアが好まれる傾向はあり、事実、2021年初はClubhouseが爆発的に流行したことは記憶に新しい。

 空気を読むことが大切とされる時代に、マスクやオンラインコミュニケーションによって読みづらくなっている。その時重視されるのは、やはり音声コミュニケーションなのだろうか。それとも新しいコミュニケーションが生まれてくるのだろうか。新しい時代のコミュニケーションに注目していきたい。

高橋暁子

ITジャーナリスト、成蹊大学客員教授。SNS、10代のネット利用、情報モラルリテラシーが専門。スマホやインターネット関連の事件やトラブル、ICT教育に詳しい。執筆・講演・メディア出演・監修などを手掛ける。教育出版中学国語教科書にコラム 掲載中。元小学校教員。

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Twitter:@akiakatsuki

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