独トリーア教区の性犯罪中間報告:伝統が聖職者の性犯罪の温床に

アゴラ 言論プラットフォーム

独ローマ・カトリック教会トリーア教区の聖職者による性的暴力に対処するための独立委員会(UAK)は先月25日、最初の中間報告を発表した。それによると、聖職者の性犯罪の犠牲者は513人で、名前または匿名で特定できたという。聖職者の未成年者への性的虐待件数は1946年から2021年の間に発生した。

独カトリック教会トリーア教区最高指導者アッカーマン司教(2022年8月25日、バチカンニュースから)

独立委員会は「トリーア教区で、性的虐待の容疑者または有罪判決を受けた加害者(聖職者)は195人だった」と発表した。同時に、「容疑者または有罪判決を受けた聖職者が教区の内外に移送され、新しい場所で若者や子供に対する虐待行為が新たに行われていた」と指摘し、教会指導部の対応を批判した。トリーア教区の最高指導者ステファン・アッカーマン司教の指導の下、数年前まで性的犯罪で有罪判決を受けた数人の聖職者が病院での司牧ケアの聖職に従事していたというのだ。

同委員会は、「トリーア教区のベルンハルトシュタイン元司教(1904~93)は1967年から1980年までの任期中に聖職者による子供への性的虐待について知りながらも、加害者を隠蔽した」と、名指しで非難した。

同委員会は教区指導者に対しいくつかの勧告を提示している。第1に、性犯罪の犠牲となった人々へのファイルへのアクセスの許可を大幅に改善し、より透明で簡潔な手続きが不可欠であること、第2に、教区は犠牲者に対し、それぞれの虐待を追求するために開始された教会内部の手続きの進捗状況について、定期的に通知しなければならない」という。

トリーア教区のアッカーマン司教は、最初の声明で中間報告書に感謝し、「委員会と連絡を取り、被害状況を既に伝えた犠牲者の場合、教会側の今後の対応に不可欠な土台となると信じている。委員会の勧告と助言を喜んで受け入れる」と語った。

委員会が求めた犠牲者に関するファイルへのアクセスの問題に関して、アッカーマン司教は、「教区の諮問スタッフと被害者の人々のための諮問委員会との間で具体的にどのように実施されるかについて今後話し合う」と述べている。

中間報告で重要な点は、聖職者の性的犯罪に対して、「当時の教区当局が、性的虐待の事例を内部で規制し、州の法執行機関がアクセスできないように、一般の人々から隠していた」と記録していることだ。

実例を1つ挙げる。トリーア教区ポール・クリッシャー神父は1959年に性犯罪で起訴されたためにパラグアイに逃亡し、そこでエンカルナシオン教区でキャリアを積み、1976年には副総長を務めた。クリッシャー神父が性的虐待の刑事訴訟を逃れてパラグアイに逃亡したことは、教会内で知られていた。報告書は、「教区が故意に検察庁をだました」と記述している。「クリッシャー神父はドイツで7人の学生を虐待した」と強調し、「同神父がパラグアイで性的虐待をやめた可能性は低い」と指摘している。

トリーア教区の中間報告の内容は決して新しいものではない。ドイツ教会でも過去、そして現在も聖職者による未成年者への性的虐待が行われてきたという事実を追認するだけだ。例えば、ドイツ教会ではケルン大司教区で昨年3月18日、同大司教区内で発生した聖職者による未成年者への性的虐待事件の調査報告書が発表された。また、ミュンヘン・フライジング大司教区ではトリーア教区以上の件数と内容が既に報告されている。名誉教皇ベネディクト16世も同大司教区の責任者時代、同区内で発生した少なくとも4件の性的犯罪を隠ぺいしてきた疑いがもたれている。

独ローマ・カトリック教会司教会議(DBK)が6月27日、ボンで公表した2021年の教会統計によると、35万9338人の信者が昨年、教会から脱会した。22万1390人だった2020年に比べ、教会脱会者が約62.3%と大幅に急増したことが明らかになった。この傾向は今後も続くものと予想されている(「独カトリック教会、脱会者が急増」2022年6月29日参考)。

当方はこのコラム欄で、「教会の性犯罪は個々の聖職者が犯す犯罪だが、教会上層部がその事実を隠ぺいし、結果的にその犯罪を広げてきた。聖職者の性犯罪は教会組織の問題と言わざるを得ない。『告白の守秘義務』、そして『聖職者の独身制』といった教義、伝統が聖職者の性犯罪の温床となっている」と書いた。トリーア教区の今回の中間報告書は残念ながらそのことを裏付けた。

ローマ・カトリック教会のミサが行われているドイツ・ケルン大聖堂 Horst Gerlach/iStock(編集部)


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年9月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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