『鼻先にニンジン』で、足は本当に速くなるのか(デジタルリマスター)

デイリーポータルZ

秋だ。夕方の風がいつのまにか熱気を失い、空の高さを実感できる季節になってきた。

暑い時期にはおっくうだったことを、秋ならどんどんやろうという気分になる。運動もそのひとつのアクティビティだろう。
野原を思い切り駆けて体を動かしたい。

ところで私は運動音痴だ。かけっこでは万年ビリだった。障害物競走の平均台で、3レーン中、空いている列でなくわざわざ人が並んでいる列に並んでぼーっと待っていたり、幅跳び記録が1m28cm(高校2年で)だったりした。

もっと速く走りたい。が、もう練習などしている暇はない。日々の生活で精一杯だ。
いきなり速く走れるようになりたい。さあどうすれば。

そうだ、よくマンガで見るような、「馬の鼻先にニンジン」システムを導入すれば、効果が出るのでは、ないだろうか。

2006年9月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。

秋の空の下、ぶらさげて

というわけで、いつもの河原にやってきた。近所にトラックのある運動場がないので、ここでタイム計測だ。

一口に「鼻先に物をぶらさげる」といっても、そのための装置をよく吟味せねばならない。
ちょうど家につっぱり棒が2本あったので、くの字にかませて体に取り付けることにした。

これなら、長さの調節も思いのままだ。頭いい。
背中を通して、鉢巻に固定して完成。
ルネ・マグリット作(嘘です)。

いきなりのシュールレアリスムタッチで申し訳ない。これは「ぶらさげられたアメリカンドッグ」である。

馬ならニンジンぶらさげても奮起できるだろうが、私はだめだ。やはりここは今食べたい好物をぶらさげたい。というわけで、アメリカンドッグである。

正解はこちら。

鼻先、約50cmほどの距離にまずさげてみた。「ここ・そこ・あそこ」でいうなら「そこ」にある対象、である。目の焦点距離も合い、ばっちりドッグを見つめていられる。

さてどんな結果になるだろうか。

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あ、準備運動しないと。
屈伸するとドッグが地面に着きそうで気が気じゃない。
スタート地点には目印のムースポッキーを置いた。運動のあと食べよう。
30mほど先(適当)には、ポカリスエットを。運動のあと飲もう。

あ、そうだその前に。
棒の先に何もない状態でまず走っておかないと、「ぶらさげ効果」がどう出ているかわからないじゃないか。

と、気づいたのは、のちのお話です。
ドッグの実験のあと、素で走ってもみました。

素走りデータ: 8秒2

これ、覚えておいてください。それにしても、のろい。

あーあ。
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とにかく邪魔

軽い運動のあと、スタート位置へ。
撮影同行してくれた友人にストップウォッチを持たせ、ヨーイドン!

無理矢理クラウチングスタート。
走る!揺れる!重心が遠い!

もうね、あれですよ、走れないに決まってんですわ。重心が先っちょにあるんだからさ。

アメリカンドッグ使用時: 8秒9

やはりタイムもぱっとしないわけですよ。

と、くさっていても仕方がありません。

それに、走ってみるまでは、物体との距離が遠いほうが「先へ、先へ」と気持ちが急くので効果があるのでは、と予測していたが、実際走ってみると、ただもうわけわからん。

であるからして、もっと鼻先に近づけてみたら、どうだろう。「ここ・そこ・あそこ」でいうところの、「ここ」である。

寄り目になるくらい近い。

ともすれば顔にすれすれまで迫り来るものを、ブラーンとさせながら、少年野球チームの見守る中、再スタートだ。

うおー、ひゃー!

慣れてきたせいか、あるいは「ぶらさがったものを口にしようと懸命に追いかける」という、もともとの意味・目的を体が把握してきたせいか、好タイムが出たりしたのだった。

アメリカンドッグ近接時: 8秒3

あと少しだ!
しかし、ここで一気にタイムを縮める策はないものだろうか。

大人!アメリカンドッグは卒業

9月も終盤とはいえ、西日もきつく、運動すれば汗もかき喉もかわく。こんなときはやはりあれが飲みたい。
ビールだ。
そう、今飲みたい、今そこにある欲望を満たそうとすれば、一気に好タイムがでるのではないだろうか

ペットボトルのフタにシャワーのように穴をあける。
ビールを移しかえる。

この特製フィーディングボトルを、角度・距離・量など計算しつつ、試行錯誤の末、なんとか棒にくくりつける。
角度によってはフタにあけた穴からシャワーのごとくビールが顔に降り注ぎ、スタート時にはピタッと止む。無駄にうまく仕掛けができてしまったじゃないか。

ではビール計測の様子は次ページで!
ポロリも、いや違った、動画もあるよ。

ニヤリ。
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うぉー!ビール!うぉー!

では、いってみよう!
スタンバイ時には頭を前に傾け気味にし、スタートとともに姿勢をただす。

すると、顔にばしゃばしゃかかる。(これはイメージです)
降り注ぎ中。顔に、足に。

 

顔にかかるのもものともせずに走ったつもりだったが、やはりボトルの重みがネックになったようだ。
ボトルネック。

ビールシステム装着時: 9秒3

これではいかん!

ビールにはこれでしょう

走りはこんな ていたらく でも、とにかくビールを口にすることはできた。

そうなると何かつまみが欲しくなる。やはりここはひとつ、唐揚げを食べたい。

コンビニで買った唐揚げのオヤツ的な味も好きです。
「酔っ払いのお土産」スタイルで結ぶ。
うん、この距離この距離(マウスオーバーでぶらぶらします)。

アメリカンドッグのパターンを2回走ってわかったことは、「顔に当たるくらいの距離にぶらさげるのがいい」ということ。この一生使わないだろう知識をもとに、唐揚げも至近距離にて結ぶ。

さて、ラスト1本やってあがりましょう。

「夕闇迫る放課後のグラウンドを 君が走る」
「僕は遠くで君を いつも見てた」

 

ポカリラインを突っ切ってゴール。歩を緩めながらタイムを聞く。そしたらば!

唐揚げ使用時: 7秒9!

やりました!やりました!体が温まってきたからかコツをつかんだからかどうかわからないが(たぶんほぼそれらのおかげとは思うが)、最後の最後に好タイムが出せた。すばらしい。

ひとついえることは、やはり物体を軽めにしたほうが走りやすく追っかけ感も出せるという、やる前から気づけよということだ。

ゴールで止まったら、唐揚げが思いっきり目に当たった。
そして翌朝、起きられないくらい全身が筋肉痛に。

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