ハッカ油のパッケージには「食品添加物」の文字がある。メーカーに問い合わせたところ、どうやら本当に食用にしていいようなので、さまざまな飲み物に混ぜて飲んでみた。
結果、「ハッカエンチャントスプレー」という謎のアイテムも生まれた。
清涼スプレーやゴキブリにまで効く虫除け、入浴剤にアロマと、ここ数年で急にSNSのバズ常連になった油だ。
その威力やすさまじく、寝苦しい蒸し暑い夜にハッカ油と水を混ぜたスプレーを身体にひと噴きすると、たちまち極寒地獄となる(体感温度が下がっただけなので、うっかり水分補給を怠ると本物の地獄行きとなる)。
最近このハッカ油について、とあることに気がついた。
食品添加物。ということは、口に入れて飲み込んでも問題がないもののはず。パッケージの側面には、このようにも書いてある。
用途の一番上に書いてあるということは、もしかするとこのハッカ油、メインの用途は食品なのかもしれない。
しかし、一噴きで極寒へ誘ってくれる最強の油だ。人が口に含んで良いものだろうか?
思い切って製造メーカーの健栄製薬株式会社にメールを送ってみた。質問した内容はこれだ。
①食品添加物と記載があるが、一度に摂取できる上限はあるか。また、多量摂取した場合に起こりうる健康被害はあるか。
②お年寄りやお子様、妊娠中の方でもハッカ油を食用にしてよいか。
さすがは大手メーカー(パッケージもかっこいい)、健栄製薬。数日で返信がきた。
内容はこうだ。
(①、②の質問について)
「香りづけ」で用いる範囲としまして、当社としましては特に摂取量の上限や年齢制限は設けておりません。また、毒性につきましては、内服による副作用報告は今のところございませんが、原液が気道に侵入することで刺激が起きる可能性がございます。また製品記載事項をよくご覧の上、少量からお試しください。
※回答はあくまで使用の一例です。
※この回答の掲載についても許可をいただいております。
※あくまで健栄製薬株式会社様の回答です。お子様やお年寄りの接種を推奨していないメーカーもあるようなので、不安がある場合は製造メーカー宛に直接お問合せください。
つまり、記載事項をよく読んだ上、常識の範囲内の量であれば食用にすることができる。 そうと聞いてはいてもたってもいられない。
なぜなら筆者は、ちょっと程度のおかしいミントフレーバー愛好者なのだから。
ハッカ油を飲んでみる
チョコミントが好きだと言うと「歯磨き粉の味じゃん」と言われるが、筆者からしたら歯磨き粉だってミント味でおいしいのだ。
筆者は仕事中、いつも緑茶とペパーミントを混ぜたアイスティーを飲んでいるが、清涼感に慣れてしまってまるで何も感じない。ただのすっきりしたお茶である。
ハッカ油の力を借りればいつでもあの強烈な清涼感が手に入ることだろうが、実際口にしておいしいものだろうか。ためしに水に混ぜて飲んでみよう。
混ぜている間にしれっと豆知識を挟んで申し訳ない。こんな微量でどのくらいスースーするか分からないが、とりあえず飲んでみる。
ミントキャンディを舐めた後の、胃から喉にかけてスッとする感じが残る。つまりミント好きにとってはおいしい水となった。
これはいい、ふだんから飲料水として常飲したい。
パッケージには1つまようじ(筆者が使ったのは竹串)くらいの量から試すと書いてあったが、筆者としてはまだ清涼感が足りない。5つまようじくらいいっちゃってもいい。
「生のミント飾っちゃってるじゃん」と思われるかもしれないが、飲み物に葉っぱを飾るのは元バーテンダーの習性なので見逃してほしい。ビーバーがダムを作るのと一緒だ。
ミント風味の、甘くない清涼飲料水という感じの味。緑茶を水出しにしたらより飲みやすくなるだろう。
あの強烈な清涼感とうらはらに、量さえ抑えればちゃんとおいしく飲むことができる。材料としての可能性を感じるので、他の飲み物でも試してみることにする。
ハッカオレンジジュース、ハッカベルジャンホワイト
まずはこれだ。
オランジーナというジュースを飲んだことはあるだろうか。
今は「オランジーナ エアリー」という銘柄以外終売してしまったようだが、筆者はオランジーナにミントのような清涼感を感じる(おそらくオレンジピールエキスの効果であろう)。
つまり、ハッカとオレンジは相性がいいはずなのだ。
オレンジジュースが強いため、味はほとんど変わらない。ただ後味の清涼感がエンチャントされただけである。
濃縮果汁を炭酸水で割るか、ジュースに使えるソーダマシンで炭酸を添加したらよりおいしいのではないかと思ったが…次の材料で、どうやらそれはできないらしいと察した。
ビールを使ったカクテルの中には、ミントリキュールを入れたミントビアがあるし、先日和ハッカを使ったスタウト(黒ビールの一種)を飲んだらおいしかった。ミントとビールの組み合わせはいけるはず。
使用するのはヤッホーブルーイングの「水曜日のネコ」だ。オレンジピール、コリアンダーシードの香りと、優しい口当たりが特徴の、ベルジャンホワイト。
無泡。静寂。どうしたことだろう。
小麦を使ったビールはタンパク質を多く含んでおり、泡をコーティングするため、キメの細かい豊かな泡が立つはずなのだ。
ハッカ油のどの成分が泡を消し去ってしまったのか、もし分かる方がいたら教えてほしい。
先ほどのオレンジジュースと同じように、ハッカの香りとオレンジピールは相性がいい。問題はコリアンダーシードだ。
ハッカとコリアンダーシード、清涼感と清涼感がぶつかり合って、高級な石けんのような香りがする。泡は完全に滅んだらしい。
ビールとハッカ油の相性を試すなら、ハイネケンやバドワイザーなど、軽めのタイプの方がいいのかもしれない。
オレンジ系は比較的相性がいいことがわかったが、このあたりで「確実においしい」組み合わせを抑えておきたい。ミントといえば、そう、チョコである。
ハッカココア、ハッカブーストチョコミントアイス
毎年冬になると、カルディがスティックタイプの「チョコミントココア」なるものを発売してくれるのだが、この味はほぼそれだ。
今まで各メーカーから出るチョコミントドリンクを飲んでは、清涼感が弱すぎると落ち込んでいたのだが、それはもう過去の話。粉ココアとハッカ油さえあれば、いつでも自分で最強のチョコミントドリンクが作れるようになった。
ココアがおいしいなら、チョコレートアイスもおいしいはず…?と考え、それではつまらないと思い直し、これを買ってきた。
チョコミントアイスにさらにハッカを重ねるという横暴も、我が家でなら治外法権である。
チョコミントと名乗りながらぜんぜんスースーしないチョコミントアイスたち。こんど筆者に買われたが最後、スーパーダブルミントアルティメットチョコアイスに改造されるぞ。
さて、今までは飲み物にハッカ油を混ぜていたが、アイスは半固形である。そのまま油を垂らすだけでは偏りが出てしまうため、秘密兵器を用意した。
料理に香料を吹きかけて食べる、挑戦的なフレンチに着想を得て作った。アイスの温度だとさすがにアルコールが揮発し切らないだろうが、食べていて気になるほどビシャビシャにもならないだろう。
これでアイスの表面に、満遍なく少量のハッカ油がかかったはず。気になる味はどうだ。
アイスの甘味、チョコクランチのほのかな塩味のあとに、やりすぎなほどの清涼感が残る。最強のチョコミント、お前を長いこと待っていた。
ハッカエンチャントが成功して嬉しいので、次で最後にしようと思う。
※真似される際は本当に自己責任でお願いします。
ミントの酒といえばこれ
筆者はいま、ミントの葉なしモヒートを作ろうとしている。
それでも、モヒートの醍醐味は「ストローでミントを潰しながら飲む体験」と思うので、一手間加えてみようと思う。
ここにホワイトラムと先ほどの氷、炭酸水を加えたら完成。
いいぞ。ここまでシンプルなモヒートは見たことがない。
ミントを潰すほどに清涼感が増すように、混ぜて氷を溶かすほどハッカ油を感じられるようになる。
案の定炭酸は消え去ったが、クラッシュアイスを使ったカクテルは得てして微炭酸になるものだ。
これだけ大々的にハッカ油を使っても雑味が出ないのは、健栄製薬の技術がすばらしいということであろう。
ハッカ油と虫
少し前にTwitterで話題になっていたツイートに、「ハッカ油はゴキブリを忌避できるが、シバンムシが寄ってくる」というものがあった。
一言言わせていただきたい。「死番虫(英名:death-watch beetle)」なんて凶悪な名前がついた虫と、関わらずに生きていけると思う方が間違いなのだ。
筆者宅では、瓶に入れて密閉していたはずの唐辛子パウダーでシバンムシが帝国を築き上げていたことがあり、そんな生き物に勝てるはずがないと全てを諦めている。
そんなわけだから、堂々と明るい気持ちでハッカ油を使おう。
ゴキブリと蚊が忌避できる良い香りの食品添加物なんて、そうそうこの世にはないのだから。
※当記事のハッカ油の使い方を真似される際は自己責任の上、不安がある場合は必ずメーカー問い合わせの上使用してください。