中国にとって台湾はなぜそれほど重要なのか?半導体や精密製造産業は二の次

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ペロシ氏が一泊二日の台湾訪問を終え、とりあえず次の目的地の韓国に到着、その後、東京で岸田首相他と会談を予定しています。中国はペロシ氏の訪台に対して断固とした態度を示すのでは、という緊張も走りました。中国共産党中央委員会の機関紙、環球時報はペロシ氏搭乗の航空機を打ち落とせという過激論調も見られましたが、中国政府も中国軍も直接手出しをしなかったことで「人民は失望している」にトーンダウンさせました。

ペロシ氏と蔡英文中華民國第15任總統 同總統ツイッターより

一方、中国長老が集まり、人事問題などを毎年話し合う北戴河会議が行われている最中の出来事に習近平氏への圧力は相当あるものと察します。一部で予想されていたようにペロシ氏の訪台期間中ではなく、去った後の締め付けが厳しくなるとされていましたが、事実、台湾の島を中国海軍らが取り囲み、至近距離で軍事演習という名の威嚇をし、中台貿易の一部を制限しています。台湾としてはアメリカからきてくれた客であり自分から呼んだわけではない点に於いて中国は怒りの矛先をどこに向けるのか、焦点ボケのような気もします。

もしも中国が留飲を下げることができるとすれば秋のアメリカ中間選挙において下院が民主党から共和党に主導権が移り、ペロシ氏が下院議長を降りる時ということになるでしょう。とすれば中国によるアメリカ中間選挙への関与が今後、着目されるかもしれません。トランプ氏が大統領に選出された際にロシアの関与が取りざたされたように今回、何らかの形で民主党をぼこぼこに打ちのめす施策をするかもしれません。

中国にとってアメリカのNo3が堂々と台湾に来たということは今後、アメリカの政治家や高官、更には他の西側諸国の重要人物らが台湾に入る前提を作ることになり、その事実を作ったことに彼らは怒っているわけです。ただ、非道な方法を取れば国際世論から厳しい反発が来ることも目に見えています。秋の共産党大会を控え、特に習近平氏にとって自身の3期目を決める極めて重大なタイミングに於いて安っぽい粛清は出来ないということであります。

では、このまま無罪放免になるのか、といえばそうとも思えません。中国はしつこい性格です。この恨みは必ず果たす時が来るわけでそれがいつなのか、という話だと予想しています。少なくとも共産党大会が終わるまでは派手な行動は控えるかもしれません。ただ、それが終わった後、特に予想どおり、アメリカの中間選挙に於いて上院下院とも共和党が主導権を握ることになればバイデン政権はねじれどころではない完全なるレームダックになり、機能不全に陥る可能性があります。

上下院議会を共和党が支配したとしても外交については比較的大統領の権限は高いとされますが、関連法案が通らなければアメリカという国家のパワーではなく、単なるアメリカ大統領の威厳のみになり、中国のやんちゃに対しての抑止力は大幅に下がるでしょう。そのタイミングを待つのではないかと思います。

プーチン大統領はウクライナ侵攻において辛抱強くタイミングを見計らっており、欧州のトップが入れ替わり、強い指導者無き欧州連合となるのを待ち続けていた節があります。中国もしたたかですから当然そのような計算はしていることでしょう。

ところでお題目にある中国にとって台湾はなぜ、それほど重要なのでしょうか? 実質的には太平洋に出られるルートの確保、これが第一義だと考えています。台湾経済は二の次でしょう。もちろん半導体や精密製造産業など台湾が築いたビジネスに対する魅力もあるはずです。しかし、香港支配の際に香港経済の魅力を一気につまらないものにしたことを考え合わせると習近平氏はやっぱり経済には興味がなく、イデオロギー第一主義なのだとみています。

もう一点は同じ中国人のブラッド同士が敵対する関係にさせないということかと思います。以前も申し上げましたが、「中国の最大のリスクは中国人民にあり」であってその人民は中国の内情を極めてよく知っているからこそできる反政府へのボイスなのです。89年の天安門事件などはその典型であります。よって、大戦後に起きた共産党と国民党の争いで破れた国民党が作り上げた社会が台湾だとすればなお更、中国は自国に取り込まねばならないという焦りがあるとも言えます。

では台湾は一枚岩かといえばそこまで単純でもなさそうです。世論調査では独立派が5割弱となっており、現状維持が25%程度、中台統一派は1割強程度です。特に中台統一派は90年代から確実に減ってきており、台湾しか知らない世代が中国の支配下に置かれることを恐れるという香港の民主化運動と全く似たような形です。しかし、5割もいる独立派の真意は「そうであればいい」という希望的観測が相当含まれているはずです。

独立を目指すには相当のハードルがあり、中国のいじめはそう簡単にはかわせないとみているわけです。それならば台湾から北米や東南アジア諸国に移民できる人はそうした方が有利だということになります。言い換えると、犠牲を払ってまで独立を目指すより一人ひとり自分でできるオプションを考え行動する、ということです。自分の身は自分で守る、です。よって思った以上に台湾をあげてのボイスが盛り上がるという事態にならないのだとみています。

台湾人も日本人と似たところがあり、「おらが(=私の家の意)」の世界と小さなコミュニティを好む特性があります。よって世論は分裂し、真の意味での統一的スタンスが取りにくいとも言えます。

ペロシ旋風は何かを残したのか、彼女の政治生命の最期の華のつもりだったのか、今しばらくその動向と成果を見続ける必要がありそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年8月4日の記事より転載させていただきました。