第1回(「コロナ禍の2年間で就活はどう変化したか?–22卒、23卒、24卒学生の動向総まとめ」)で取り上げた2022年卒、2023年卒に続き、今回はコロナネイティブと呼ばれる、現在、就活時期に入っている2024年卒の動向を、Google人事部で新卒採用を担当していた草深生馬(くさぶか・いくま/現RECCOO CHRO)が解説します。
コロナ禍のため、先輩からの口コミ情報が入らない2024年卒
新卒採用市場では先輩・後輩間の口コミが大きな影響力を持ちます。口コミには匿名のものよりは、顔が見える口コミの方が信頼され、さらに自分の先輩や後輩、友達など直接繋がりを持つ人の口コミはより信頼性が高くなる、という性質があります。
コロナ以降はオンライン情報が非常にリッチになりました。学生たちによるTwitter、LINEのオープンチャットなどを使ってSNSでの情報発信はさらに盛んになりました。また、企業もより多くの情報をオンラインで発信するようになり、オンライン開催のイベントも大幅に増えています。しかし、情報量が増えれば増えるほど、それらの処理や取捨選択は悩ましいものになるので、口コミ情報は、就活生にとってフィルター的な役割を果たします。知人、友人ともデジタル上の繋がりしか持てない状況下では、口コミの優位性がさらに高くなっているようです。
ところが、入学時からコロナの影響を受けた2024年卒は、授業もオンラインで、大学の先輩との繋がりが持てず、先輩からの就活に関する口コミ情報が入りません。そして大学生活だけではなく、アルバイトやボランティアといった社会活動にも参加できていません。多くのデジタル情報に触れることはできても、それが本質的にどういう意味を含んでいるかを「肌」で知るチャンスがなかったのです。
2024年卒は、一部の学生を除いて、就活に対する動きが鈍い
その結果、二極化が起こりました。まず積極的に活動できている一部の学生たちは、自ら先輩たちを探し出したり、企業に直接連絡をして様々なイベントに参加したり、と必要な情報は自分で取得できています。彼らは、2023年卒と比較しても就活スケジュールにそれほどの違いはありません。
一方、2024年卒のほとんどの学生たちは、一般的な就活サイクル、つまりどの時期にどんな活動をすればいいのかという、基本的な「動き方」自体を認識できていません。
2022年卒、2023年卒は「夏」が主戦場でした。つまり、サマーインターンで企業や学生と直接触れ合える機会を得ることで肌感覚を磨き、自分にどういう仕事が向いているのか、どんな企業が合っているかを理解して行ったわけです。
ところが今年はサマーインターンを始めとして、夏のイベントの受付が始まっても、応募が非常に少ない傾向が続いています。具体的には2022年卒、2023年卒に比較して同時期のアクティブ率が以前の6~7割程度しかありません。断絶の結果なのでしょうが、この動きの鈍さが2024年卒の特徴と言えます。
頭でっかちで、就活ノウハウが先行する傾向も
もう一つ、2024年卒は、保守的で頭でっかちの傾向があります。
情報そのものがたくさんあり、しかも前の世代のように先輩たちから噛み砕いて説明してもらう機会がないので、膨大な情報を頭に詰め込んでしまいます。そのせいか自己分析、情報収集、自己PR文章の作り込みなどに時間をかけて準備し、完璧な状態になってから企業に接するべきだと思い込んでいる節があります。パッとイベントに参加するというような、フットワーク軽く自分の経験を積みにいくことをしないタイプが多いのです。
また、彼らからは「〇〇していると有利ですか?」という質問が多いのも特徴です。例えば、「自己分析しておくと有利ですか?」など。もちろん、やったほうが良いに違いありませんが、自己分析をしていないとどういう困難が待ち受けているのか?という理解や経験を踏まえて質問をしているわけではないように感じます。
他人と会話すると、意外と自分について的確に説明することは難しいと気づき、自己分析の必要性が腹落ちするものですが、やはりそのチャンスが少ないのでしょう。「〇〇はやるべき」、「〇〇すれば受かる」といった、いわゆる就活ノウハウばかりが先行してしまって、自身で気づくべき「就活の軸」については準備不足な印象です。
コロナの影響で、2022年卒、2023年卒さらに2024年卒とどんどん就活のフットワークが重くなっている印象があります。ただ、大きな違いとして2022年卒、2023年卒は「本当は対面のチャンスがあったのに、コロナのせいでダメになった」という思考がある。ところがコロナネイティブの2024年卒は、就活とはこのようなもの、と捉えている分、焦りがないようです。
就活時期の遅い2024年卒を惹きつけるコンテンツは?
企業側は、去年までは学生を集めること自体よりも、接点を持った学生をどう惹きつけておくのかについて注力している企業が多かった様子でしたが、今年はまず、イベントへの応募の少なさに驚いているはずです。
特に2021年は、年明けから9月まで緊急事態宣言が断続的に出ていたので、2023年卒の学生たちは就活に集中するしかなかった状況でした。ところが、2024年卒は就活以外にもアルバイトや遊びに出かけるといった選択肢がある上に、この時期にこんな就活するべき、というスケジュールが頭に入っているわけでもありません。(実際、23卒はゴールデンウィークですら満足に出かけられないため、必然的に就活に時間を費やす学生が多かったようですが、24卒に関しては思い思いの時間を過ごしていたような印象です)。
企業は、そんな彼らを惹きつけるコンテンツ作りから見直すべきです。まず、彼らは長時間拘束するイベントには興味を示しません。授業やバイトなど、就活以外にもやることがあるので、具体的には拘束時間が2時間を超えるようなコンテンツでは参加率が減少する傾向があります。
また、イベントの内容としては、2024年卒も比較的早期に志望業界を絞って就活する傾向があるので、業界研究をテーマにしたコンテンツなどが人気です。さらに、先ほど説明したように事前に準備してから選考に臨むべき、という思考が強いので、企業の魅力を説明するより、「一緒に勉強しましょう、知識を提供します」というレクチャーに近いコンテンツの方が関心を引きやすいでしょう。あるいは「どうすれば受かるのか?」とストレートに思考しているので、選考対策となるノウハウを提供するのもいいかもしれません。
秋冬にかけて2024年卒のボリュームゾーンが動き出す
企業目線で見ると、まずは、今現在アクティブに動いている少数の学生の取合いが始まっています。前述のように、彼らはコロナ下でも先輩や企業との繋がりを作り出し、動き出しが早かった層です。また、この早期層からの発信に影響されて動き出している学生層も一定数いるでしょう。
その後、ゆっくりと秋冬にかけて動きの鈍かったボリュームゾーンが動き出します。もちろん、その中にも優秀な学生たちはいます。例えば本来、上位校の学生は早く動き出すのですが、同期比較をすると、上位校の学生のアクティブ率も2?3割程度少ない傾向ですから、やはり全体的に動きが遅いと捉えるべきです。今年は学生たちと接点を持つタイミングも遅くなるので、企業はそれを踏まえた採用戦略を考えましょう。
最後のポイントですが、これまで以上に学生個々をサポートする「リクルーター」の重要度が増すと思われます。
本来、採用広報として効果的な「知り合いからの口コミ」が機能しないコロナ禍での就活では、企業としてはマス向けの発信を増やして認知を高めるほかありません。例えば、前述の特徴を踏まえて、「業界研究サポートします!」といった認知向上を目的としたコンテンツが増えるでしょう。
すると学生も関心は持ってくれるでしょうが、こういったマス向け発信された情報だけでは「ファン」にはなってくれません。ですからリクルーターのような役割を持つ社員が学生個々人へのカスタマイズされたサポートを通して信頼関係を醸成することが、他社との差別化には不可欠となるのです。
オファーを出した時にYESと言ってもらえるためには、リクルーターなど“人”を活用してハートを掴む戦略が、コロナ禍で人との繋がりが希薄だったコロナネイティブたちには、より効果的と言えるでしょう。
草深 生馬(くさぶか・いくま)
株式会社RECCOO CHRO
1988年長野県生まれ。2011年に国際基督教大学教養学部を卒業し、IBM Japanへ新卒で入社。人事部にて部門担当人事(HRBP)と新卒採用を経験。超巨大企業ならではのシステマチックな制度設計や運用、人財管理、そして新卒採用のいろはを学んだのち、より深く「組織を作る採用」に関わるべく、IBMに比べてまだ小規模だったGoogle Japanへ2014年に転職。採用企画チームへ参画し、国内新卒採用プログラムの責任者、MBA採用プログラムのアジア太平洋地域責任者などを務めるかたわら、Googleの人事制度について社内研究プロジェクトを発起し、クライアントへの人事制度のアドバイザリーやコンサルテーションを実施。
2020年5月より、株式会社RECCOOのCHROに着任。「才能を適所に届ける採用」と「リーダーの育成」を通して日本を強くすることをミッションに掲げる。現在は、スタートアップ企業の組織立ち上げフェーズやや、事業目標の達成を目的とした「採用・組織戦略」について、アドバイザリーやコンサルテーションを提供している。