エバーブルーテクノロジーズは6月21〜23日に開催された「ジャパン・ドローン2022」で、スマホアプリを使って誰でも簡単に自動操船できる帆船型の水上ドローン「AST-231」をお披露目し、販売を開始したと発表した。
帆を持つため風力をダイレクトに動力源に航行できるうえ、スマホアプリで目視外の遠方からでも航路の確認や操船が可能。最大航行時間は約10時間を見込む(巡航速度時速4kmの場合、航続距離約40km)。
船体のサイズは全長2.3m、全幅1.25m、全高4.2mで、1〜2人の有人あるいは無人でも航行可能。最大積載重量は120kgだ。価格(税別)は600万円〜。ただし、メンテナンスサポート費などは別途相談となる。
エバーブルーがジャパン・ドローンに出展するのは、2022年で連続3年目だ。出展初年度の2020年には、「Best of Japan Drone Award 2020」ニュービジネス部門で審査員特別賞を受賞し、2021年にはプロトタイプ機と併せて、小型ボートを自動操船化する制御ユニットと、遠隔から自動操船できるスマホアプリも展示していた。2022年はついに、その成果として製品版をリリースした。
エバーブルー代表の野間恒毅氏は、「2021年までは、こういうことができました、という実証報告の展示が多かったが、2022年はついに製品版を発表できた」と話す。すでにダム湖内や橋梁の橋脚周辺の水深を測量したい、物流用途で活用したい、新たな観光資源になりそうだ、これで夜間でも漁場の監視ができるようになる、と多数の引き合いがあるという。
野間氏がジャパン・ドローン2022で紹介した同社の取り組み実績
“枯れた技術”である帆船をアップデートする
エバーブルーテクノロジーズは、2018年12月にMistletoeの出資で設立されたスタートアップだ。当初から「海上の再生可能エネルギー、潮力、波力、風力由来の電力を使用して水素を製造して、エネルギー消費地へ自動運搬する、水素エネルギーサプライチェーンの構築を目指す」と宣言しており、まずはその運搬手段として「帆船型水上ドローン」の開発を手がけている。
帆船は、風力をダイレクトに動力源とするため、化石燃料を使わず二酸化炭素も排出しない、エコなモビリティだ。産業革命以前、17世紀の大航海時代には、風の力で、人や物を世界中に運搬していた。帆船はまさに“枯れた技術”と言える。
これに21世紀の最新技術を組み合わせ、無人化、自動化、省力化して活用することで、未経験者でも帆船を手軽に扱えて、陸上における電力不足の解消や、さまざまな分野での人手不足の解消、動力船のゼロエミッション化に貢献できる、というのがエバーブルーの着眼点である。
とはいえ、いきなり大型の無人船というのは、安全面への配慮や、さまざまな法規制もあるなか、ハードルが高い。そこで同社は「全長3m未満で2馬力の小型船」を主軸に、無人帆船を自動操船する技術の開発に取り組んでいる。
日本では、2019年に「遠隔操縦小型船舶に関する安全ガイドライン」が国交省海事局より発表されているが、同社はこれを参照して規制の対象外であることを国土交通省に確認した上で、逗子海岸や二宮漁港など、さまざまなエリアで実証実験を重ねてきた。
またエバーブルーには、「帆船型水上ドローンを活用した水素エネルギーサプライチェーン『Hydroloop(ハイドロループ)』の実現 」という志に共感してプロジェクトに参画する、副業人材やプロボノメンバーが国内外に複数在籍しているという。このため、シンガポールやホノルルからの遠隔操船の実証実験も行ってきたという側面も持つ。
帆船型水上ドローン、外洋での離島物流に挑む
今回、製品版としてリリースされた帆船型水上ドローンとなるAST-231は、モノハル(単胴船)で、船体の中央にキールという錘(おもり)を備えているため、波に煽られて船体が転覆したとしても、起き上がり小法師のように自然と姿勢が戻る“沈みにくい船”だという。
帆船型水上ドローン「AST-231」
これまでのプロトタイプ機は三胴船だったが、形状を変更した理由を尋ねると、野間氏は「これまでは沿岸部での長距離航続を実証していたため、傾きが少なく安定性の高い三胴船を用いていたが、外洋を航行するニーズが出たので形状を見直した。外洋は波が高く風も強い。小型船は荒れた海ではすぐ倒されてしまうので、長距離を無人で航行するには、起き上がりにくい三胴船よりも、転覆後も容易に回復できる単胴船のほうが適している」と答えた。
2020年に展示されていた三胴船(プロトタイプ)
AST-231の開発にあたりエバーブルーは、オーストラリアのクリス・ミッシェル氏が、高い操船技術を要する1〜2人乗りのディンギー(小型ヨット)を誰でも乗れるようにと考案した「Hansa(ハンザ)」を提供している、ハンザ・セイリング・ジャパンと業務提携した。
Hansaに、エバーブルーが開発した自動操船化ユニット「eb-NAVIGATION2.0」と、遠隔操船用スマホアプリ「eb-CONNECT」を組み合わせて、製品化したのがAST-231である。導入第1弾として、国交省の「令和4年度スマートアイランド推進実証調査業務」に参画し、山形県酒田市飛島で外洋を約40km、無人で航行する離島物流に挑戦するという。
「外洋で長距離を移動するのに、電動船では電池が絶対に切れてしまう。じゃあ内燃機関を使ったエンジンかというと、われわれはゼロエミッションにコミットしているので、やっぱり帆船でやり切りたい。この機体のラダーやセールは電動で、いまはモバイルバッテリーでの給電だが、将来的には太陽光発電装置による電力供給も検討している。ラダーやセールを制御する動力源を海上で確保できれば、無限に航行できる可能性を秘めているのが、帆船型水上ドローンの最大の特徴だ」(野間氏)
自動操船化ユニット「eb-NAVIGATION2.0」も予約開始
AST-231に搭載されている自動操船化ユニットのeb-NAVIGATION2.0は、小型のヨットやボート、既存の船外機を自動操船化する装置で、これまでの帆船型水上ドローンの実証実験で得たノウハウを集結し、製品化したという。
自動操船化ユニット「eb-NAVIGATION2.0」(左)
防水ボックスには、ドローン用フライトコントローラー、RTK GNSS対応のGPS機器が格納され、衝突防止を目的としたAIカメラが前方に搭載されており、推進器、セールウィンチの制御信号を出力する。
また、商用携帯回線(3G、4G、LTE対応)機器も搭載されているので、iPhoneに対応する遠隔操船用オリジナルスマホアプリとなるeb-CONNECTを活用し、遠隔監視および操船もできる。オプションで風速、風向を計測する各種センサーや、水深を計測するソナーも搭載、接続が可能だ。単体での販売は行っておらず、AST-231などのように、エバーブルー製の水上ドローンに組み込んだうえで提供するという。
併せて展示されていた自動帆船化オプションは、船が進む方向を決めるラダー、船外機の制御装置、帆船として稼働するための帆がセットになった構成だ。全長3m未満のミニボートなどにこれらを装備しつつ、自動操船化ユニットのeb-NAVIGATION2.0と遠隔操船アプリ「eb-CONNECT」を統合することで、既存の船のアップデートを図る。
開発中の自動帆船化オプション
注目すべきは、無人化、自動化、遠隔操船を可能にすることで、船の乗り捨てが可能になるという点だ。実は新たな観光資源の1つとして、この自動操船ヨットが検討されているとのこと。また広島県では、少子高齢化で使われなくなったが文化的価値の高い、木造和船の復活を図るプロジェクトも始動したという。
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遠隔操船オリジナルスマホアプリ「eb-CONNECT」使用中の様子
電動のラジコンボートも遠隔、自動操船化
2022年の展示では、帆船のみならず、電動船も注目を浴びていた。AST-231と同様に、自動操船化ユニットのeb-NAVIGATION2.0を搭載して、電動のラジコンボートを “水上ドローン”に変身させた、E-towingコラボモデル「AST-181」だ。
トーイング(けん引)用の大型ラジコンボート「E-towing」を提供するON’S COMPANY と業務提携して機体を開発し、ジャパン・ドローン2022で製品版を初お披露目した。販売価格(税抜)は360万円〜などで別途見積りになるという。
AST-181は、電動水流ジェットを2機備えたパワフルな電動船で、機動力が魅力。最高速度は時速35km、最大牽引力は68kgで、水難救助に適したモデルだという。あらかじめアプリを入れておけば、落水した人が手元のAppleWatch(Siri)に呼びかけるだけで、AST-181が自動で救助に駆けつける。また、要救助者が乗ったSUPボートや小型ゴムボートなどを、AST-181が先導して岸まで伴走することも可能だという。
遠隔、自動操船化したトーイング用大型ラジコンボート「AST-181」