不安な気持ち
階段にはどこか気持ちを揺さぶる要素がある。
階段を上った先には何があるのか?という小さな未知への不安と期待が入り交じるからなのか、足腰への肉体的負荷を強要するからなのか、詳しいことはわからないが、あのサスペンス映画の巨匠・ヒッチコック監督は、しばしばこれを効果的に演出に使っていた。
そのあたりを、長崎にたくさんあるすごい階段を使って、独自に検証してみたいと思う。
※2006年6月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。
イントロダクション
サスペンスの巨匠、アルフレッド・ヒッチコック監督は、
しばしば緊張感を盛り上げる場面で“階段”を使った。
例えば、「断崖」という映画の中に、こんなシーンがある。
・体の具合が良くない妻のために夫がミルクを運んでくる。
・が、妻は夫に対して
「ひょっとして夫は自分を殺そうとしてるんじゃないか?」
という疑惑を抱いており、
・夫が運んできたミルクに毒が入ってるように見えてしまう。
このシーンを、ヒッチコック監督はどう演出したかというと、
・コップの中に豆電球を仕込み、
・不気味に白く浮き上がるミルクを持った夫が
・階段を上ってくる
というふうに撮った。
つまり、こんな感じだ。
まずは普通に、体調の悪い妻のためにミルクを運ぶ夫の図、である。人相の善し悪しはともかくとして、「早く元気になってほしい」という思いを込めてミルクを運んでいる感じが、まぁまぁ出ていると思う。
ところが同じことを階段を上りながらやってみると…
これが階段の効果だ。
夫は本当に信頼できる人なのかしら?
あのミルクには毒が入ってるんじゃないかしら?
と疑念を抱く妻の心が、よく表現されているように思う。
長崎の気になる階段たちを見に
さて、上の写真はとりあえず、ということで家の前の階段で撮ったものだが、長崎は坂の町だけあって数多くの階段がある。
その中から、“より見るものを不安にさせる階段”を見つけに、出かけたいと思う。
気になる階段ファイル:その1
さて、最初に見る「気になる階段」はこちら。
竹林の横にある階段。
なぜだかわからないが、なんとなく不思議な感じがしないだろうか?
これが前々から気になっていた。
よく見るとエッジ部分がすごい。どうなってるんだろう?
用が無かったので今まで遠くから見るばかりだったが、ここにこれから行ってみたいと思う。
近くに行くまでに一苦労
およそここ通っていいのかな?という感じのところを無理矢理進み、ようやく階段のふもとまで辿り着いた。
登っていくと、なんだか荒みっぷりがすごい。
「不安にさせる」という意味では、いきなり直球が来た感じ。
やがて一番上まで着いた。
しかしそれにしても妙な感じの階段だなぁ、と思いながら
端に立って見下ろしてみると…。
危険な階段
この階段、普通は付いてるであろう手すりの類が、一切付いてなかったのだ。だから遠くから見てもなんだか変な感じがしたのか!
よく見たら、その上は封鎖されていた。
つまりこれは、使用禁止の階段だった。
(どおりで、登り口を見つけるのにも苦労したわけだ。)
ミルクはどう見えるのか?
さて、というわけで
かなり私の気持ちを不安にさせてくれた階段だったが、
例のミルクを運ぶ場面をここでやってみたら、一体どれくらいそれは毒入りっぽく見えるのか?
一体この夫婦はどこに住んでるのだ?
という疑問が沸かなくもない。
あと、夫というより、召使いだ。
ものすごい「かかあ天下」な家にも見える。
しかし、さすがは危険な階段だ。
じっと見てるうちに、だんだん毒入りミルクに見えてくる。
これがヒッチコックがしばし用いた階段効果である。
気になる階段ファイル:その2
次に見るのは、私が車で横を通るたびに、いつも気になっていた階段。
こんなやつだ。
このちょっと遺跡みたいにも見える階段。
これがずっと気になっていたのだが、やっぱり用がなくて今まで実際に行ったことがなかった。今度はこれに行ってみよう。
階段かどうかすら疑わしい
下まで行って見上げたら、こんなだった
階段、というよりは「コンクリートで固められたボコボコ」という感じだが、広い意味でこういうのを階段と呼ぶのだろう。
傾斜はかなり急。
革靴だったこともあり、足元がすべり股間に余計な力が入る。
丸みを帯びた流線型のフォルムは、車などのデザインとしては秀逸だが、階段のフォルムとしては大いに疑問を感じるところである。
ミルクはどう見えるのか?
というわけで私を不安にさせるに充分だったこの階段。
ここでもまた、ミルクの見え方がどのように変化するのか
検証してみよう。
戦後だ。戦後の写真っぽい。
が、ここでもやはり、じっと見てるうちにだんだん毒入りミルクではないか?という不気味さがじわじわとこみ上げてくる。
そう、これが階段効果だ。
階段は急な上に、写真を撮るために何度も行ったり来たりしてたら、すっかりヘトヘトになってしまった。翌日はすごい筋肉痛になった。
気になる階段ファイル:その3 ~地獄の階段~
次に向った気になる階段は、「地獄」の名が付いた階段。調べてみると、「地獄坂」と呼ばれる坂は長崎だけでもあちこちにあることがわかった。遠い存在だと思いきや意外に身近だった地獄。その中から、「相生地獄坂(あいおいじごくざか)」と呼ばれるところに行ってみることにした。
「地獄」と呼ばれるからには、やはり地獄に違いない。
ここを登ってみよう。
これが階段地獄だ
そこには、ご覧の通りの急階段が延々と続いていた。
たしかにきつい階段ではあるが、
長崎ではこれくらいの階段はあちらこちらで見られるため、特別ここだけが地獄という感じはしなかった。
ということはつまり、長崎が全体的に地獄なのか?…という考えも一瞬よぎるが、あまり深く考え込まないことにしよう。
階段を登り切ったところには、しゃれた感じの洋館と、上からの景色を眺めるのにちょうどいいベンチがあった。
ミルクはどう見えるのか?
さてここでも例によって、運ばれるミルクがどう変化するのか検証してみよう。
だんだん自分が何をしてるのか、わからなくなってきた。
なぜ私はこうしてミルクを運んでいるのか?
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気になる階段ファイル:その4 ~最後は天国~
最後は天国である。
地獄を見た次は、天国を見てみたい。
そのあまりの“あんまりっぷり”に、一部の人々から「天国への階段」とか称されている階段である。
「おや? 一見普通の坂に見えるが」
と思われるとかたも多いと思うが、よく見ると…
よく見ると、家と家との隙間に階段があるのだ。
それも果てしなく上に上昇している。
最初これが階段だとわかった時は我が目を疑った。
細い、そして長い。そしてわけわからん。
なぜこうなっていて、一体どこに向って伸びているのか?
さまざまなクエスチョンマークを抱えながら、私はおそるおそる階段を登って行った。
階段の幅が狭いせいからか、見る者に強烈なインパクトを与える天国への階段。おとな一人分、すれ違いできないくらいの幅。それが果てしなく真っ直ぐ上に伸びている。
民家を抜けると、さらにその先は山の頂上へ向って伸びていた。あくまでも真っ直ぐ。幅は若干狭くなって。
気付くと、いつの間にか登山になっていた。
足元が狭くて、客観的に自分の立ち位置を確認できないが、横の景色から推測すると、相当高い位置をかなりの角度で登っていることがわかる。
山って普通、こんな風に直線では登らんだろう。
やがてすごい急角度な段を経た後、ゆるかな傾斜になった。頂上付近に着いたようだ。
頂上には何が…?!
やがて前方に小屋のようなものが見えてきた。
一体何があるのか?
そこにあったのは「立入禁止」という札と金網だった。水道局の施設ということは、どうも貯水施設のようだ。高い位置から落差を利用して水を配っているんではなかろうか。
ミルクはどう見えるのか?
では最後に再び、普通のミルクがどのように変化して見えるのか、確認してみたい。階段が階段だけに、かなりの階段効果が見込めそうだ。