理化学研究所、名古屋大学、慶應義塾大学、NTTの研究グループは1日、誤り耐性量子コンピュータが駆動する極低温環境で相互作用する複数の論理量子ビットを復号する量子誤り訂正アルゴリズムを開発したと発表した。世界初という。
実用的な規模の量子コンピュータを制御するのに必要な水準の消費電力、実装規模、速度、誤り訂正の性能などを満たしながら、複数の論理量子ビットを復号する量子誤り訂正アルゴリズム。2021年11月に名古屋大学とNTTが発表した手法では、単一の論理量子ビットに対して補助量子ビットの観測と復号を同時に行なう「オンライン復号」が提案された。
今回の発表ではこのオンライン復号に基づき、「格子手術」と呼ばれる計算手法に対応した復号アルゴリズムを提案している。格子手術は、量子誤り訂正符号の1つである「表面符号」によって符号化された複数の論理量子ビットを結合/分離することで論理量子ビット同士の計算を行なう量子計算の手法。
従来発表されてきた復号手法の多くは単一の論理量子ビットのみを対象としており、格子手術を用いた論理量子ビット同士の演算について誤り訂正を行なうことができなかった。本アルゴリズムによって、論理量子ビット間で量子演算を行なっている最中に生じるエラーを高速に訂正できるようになることが期待されている。
また同研究グループでは、「単一磁束量子(SFQ、Single Flux Quantum)回路」と呼ばれる超電導回路を用いた復号器を設計している。SFQ回路は超電導素子を用いてデジタル計算を行なう回路であり、原理的に極低温環境で低消費電力かつ高速な動作が可能なことから、量子計算における信号処理に適するという。
超電導方式の誤り耐性量子コンピュータは、駆動に極低温環境が必要であることが知られている。その一方、復号器には一般的に、消費電力の観点から極低温での動作が難しい古典コンピュータが用いられており、これまで両者を接続するために膨大な配線が必要になることから、量子コンピュータ実現のために解決する必要がある課題の1つ「スケーラビリティ」に制限が生じていた。
複数の論理量子ビットを復号する量子誤り訂正アルゴリズムと、極低温環境で高速に動作する復号器の実現は、量子ビットのエラー耐性とスケーラビリティの両方を改善できることから、研究グループは本研究が誤り耐性量子コンピュータの開発に貢献することを期待するとしている。
コメント