ギッタンギッタンに再開発されてる渋谷の土木を専門家と一緒に見て歩く
専門家と街を歩くシリーズ、今回は都市景観を専門とする八馬さんと渋谷を歩く。再開発で工事されつづけている渋谷には土木的な見どころがたくさんある。
土木を見る専門家
八馬智さんは千葉工業大学創造工学部デザイン科学科の先生であり、都市の景観のスペシャリストであり、『日常の絶景』『ヨーロッパのドボクを見に行こう』などの著書がある。ものすごくざっくり言うと「この橋はかっこいいですね」と言ってくれる人である。
八馬さん自身は渋谷をめったに訪れないらしく、フレッシュな視点で見てくれるようだ。
といっても、そもそも土木を鑑賞したことがない。街にはどのような土木がありどのようにかっこいいのか。八馬さんと渋谷を歩いた。
林:たとえば目の前にあるこれは土木ですか?
八馬:土木と言っていいと思います。建築的な構造物ではあるんだけども、上のデッキを支えている橋脚ですね。でもこれはすごく強引ですね、仮設のものですかね。
土木と建築なにがちがう?
大北:基本的な質問なんですけど、建築と土木の違いってなんですか。
八馬:人の活動する空間を作るのが建築で、土木は人の活動を支えるもの。建築物が建っている地盤を作るとか、道路だとか、通信系とか下水とかインフラ設備を作るのが土木。
林:じゃあこの橋脚は…。
八馬:歩道を作ってるから土木と言っていいと思います。
大北:なるほど、人の活動のためのなにか。
林:建築のまわりに土木がある?
八馬:そういうイメージでいいと思います。レイヤーとしては建築の下にある。
林:これ自体はあんまりよくできてないようにも見えるんですけど。
八馬:駅前の広場って、すごく制約があるんですよね。バスターミナルがあって、タクシープールがあって、一般車両が通る道があって、となると、橋脚を入れられる場所というのが限定されて、無理をした構造になりやすいんですよね(※)。距離を飛ばすためには桁の部分を分厚いものにしなければいけない。そうしないと荷重に耐えられないから。
(※3本で支えるべき区間を2本で支えたり)
八馬:もしかしたらこれは仮設かもしれないですね。奥にある黒い歩道橋が完成形だとすると、そこに接してますよね。なのでこれは仮の構造物なんじゃないかなという気がしてきました。
林:あの途中で切れてる橋はジャッキー(・チェン)だったら飛ぶような感じの。
八馬:あそこは繋がりますね。ジャッキーだったら飛びますね。
広場にあるもの全部仮
八馬:たぶん、交通広場の機能を止めちゃいけないから、部分的に作って、移設して、と繰り返しやるんだと思うんです。だからガードレールも移動できるものだし仮設感がありますよね。
林:工事の人はすべての車を止めて一気に作りたいだろうけど、それもできないから少しずつやるしかない。
八馬:全部仮なんですよね。ということを考えるとこの通路も仮な気がしてきました。
246の交差点を見る
八馬:ここらへん土木っぽい風景ですね。あー。この橋脚すごい。おもしろいです。
林:え、そうですか?
仮の柱がすぐそこにある
八馬:何がすごいかというと、あそこに仮の橋脚がセットしてあって、手前のここに橋脚を作ろうとしているんです。こっちが本チャンの橋脚なんですよ。
大北:へえ~、丸い柱のところが。
八馬:たぶんここはロータリーのせいで柱が建てられなかったんだけど、仮支柱を設置して、上を作って、ようやくこの場所が整備できるようになったんじゃないですか。
林:とすると、あっちに見えるのも仮ですね。
八馬:ですね。この辺はおもしろい。やばい。急に興奮してきた。
大北:急に興奮(笑)。
柱ってどうやって入れるの?
林:仮の柱で支えてて、ここにあとから柱をどうやっていれるんですか?
八馬:いろいろやり方は考えられますが、輪切りにしたやつを入れてあとから溶接するのかもしれないですね。
林:ちょっと浮いた状態にはならないんですか?
八馬:ならないです。剛結(ごうけつ)といって、固いもの同士を繋げて最後はボルトで締める。
大北:こういうのって基本的にはボルトで止まっているんですか?
八馬:本来は溶接でやりたいかもしれない。だけど急いでつくるにはボルトのほうが早い可能性がある。そこら辺のバランスで決めるんだと思います。
大北:なるほど、この現場めっちゃ時間なさそうですしね…
渋谷の交通の立体交差ポイント
八馬:これでも凄まじい眺めですね。上に首都高が通っていて、歩道橋が2階にあって…。
林:下が車道っていう。
八馬:この地下にもなにかあるっぽいっですね。いやー、すごいな。ダイナミックだな。
林:あの辺全然橋脚がなくて不安ですね。
八馬:いいところを見ますね。ちょっと不安ですね。
林:これから柱を建てるんですかね。
八馬:今もっていれば、大丈夫といえば大丈夫。
林:向こうにでかい柱があるから。
八馬:そこからカンチレバー※的に出してる。いずれにしてもけっこう無理してますね。
※トの字みたいに柱に一端を固定して支える形
歩道橋はなぜゆれる?
大北:前にここにあった歩道橋がすごく揺れていて、今ましになったとはいえ揺れてますね。
八馬:(橋脚間の間隔が)長く飛んでいて端っこが短いとかアンバランスの時は振動が起きやすいんですね。
林:揺れるというのはあまりいいことじゃなかったんですね。
八馬:疲労の原因になってくるし。だけど橋はどうしたって揺れますよ。程度の話です。
林:地面の鉄板は落ちないんですかね。
八馬:たぶん鉄骨を井桁(井の字の形)に組んであって、その上に載せてるのかと。安全には十分気を遣っているはずなので。
林:地下道を作るのかな。渋谷から。
八馬:とっかえひっかえ工事をやるってことだと思います。まだまだここらへんも変わるということですよね。
林:こっち側の開発がこれから、始まったばっかりだから。
八馬:これも今作ってる最中ですよね。そうか、渋谷はこんな更新し続ける街なんだ。
歩道橋の上から手の届く高速道路を見る
林:高速道路に手が届くぐらいのところにあるのおかしいですよね。
八馬:これすごいですよね。このコンクリートの橋自体かっこいいと思うんですよ。だいぶ歩道橋部分のスパン飛ばしているし。(※橋脚を入れてない)
大北:あー、だからその分すごく厚みがあるんですね。
八馬:近くで見ると、3mぐらい。
林:アーチになっているのは?
八馬:これはアーチっぽく見えるけどアーチ橋じゃなくてラーメン橋ですね。橋脚と桁がガッチリ付いてるのをラーメン構造っていうんですけど。あそこの真ん中が薄くなって、剛結部ががっちりしてますよね。
大北:ラーメン構造じゃない橋というのは柱(橋脚)の上に板(桁)を載せてるだけなんですか。
八馬:そうです。固めてない。橋って動くんですよ。地震でちょっと揺れたり。がっちり固めちゃうとどっか弱いところで壊れるので、固定せずに力を逃す場所を作ってあげる場合が多い。だから載っけているだけの橋がけっこうあります。積層ゴムで揺れを吸収するという場合もあるし。
林:これはガッツリ付けてる?
八馬:たぶんそうしないと真ん中が飛ばせなかったんでしょうね。交差点のこの距離を飛ばすにはラーメン構造でいたほうがいい。
林:間隔を長くするにはラーメン構造がいいんですかね。
八馬:いろんなパラメーターがあるので一概には言えないんですけど、その傾向はありますね。この橋、左右のやじろべえみたいな橋が2つ真ん中で繋いであるんですね。T型ラーメンが2つ繋がってる。
大北:延びたり縮んだりする隙間が真ん中にあるということですか?
八馬:そういうことですね。変形はあそこで吸収しているんだと思います。
林:設計者が構造を選ぶときは、条件によって何パターンかあるんですか?
八馬:選択肢はすごくたくさんあります。でも条件によって早めに淘汰されていくので。
林:条件によって決まってくるんだ。
八馬:最終的に選択肢はまだあるというときは設計者の意図で決めていく。もちろんコストが一番大事ですけどね。
そっけないが全部おしゃれしてある
林:あそこ字が書いてありますね。
八馬:19年6月11日、塗装の履歴を示してますね。
林:よく見るとここ洒落てますね。レンガの模様になってて。
八馬:ペイントしてありますね。
大北:え、これペイントですか。こっちもなにか貼ってるわけではない?
八馬:表面処理ですね。ちょっとお洒落してやろうぐらいの気持ち。
大北:へえ~。何もなかったらこっちの壁みたいな感じですか?
八馬:これも塗装してるんですよ。通常コンクリートの場合は通常は塗装しないことが多いんですけど、ここは排ガスがあったりとか、きれいに表面を保ちたいというのがあるのかもしれないですね。それで塗装して汚れが付きづらいようにしてある。
林:塗装はお洒落というよりも汚れがつかないようにか。
八馬:排ガスがすごいんでしょうね。
林:あそこにサビサビの橋がありますよ。
八馬:ほんとだ。
林:渋谷としては見てほしくないところでしょうね。
八馬:渋谷わけがわからなすぎる…。
大北:あっちこっちで工事を繰り返して、する方も見る方も大変ですね…。
大北:入れるようにドアが。
八馬:あれは確実にマンホールですね。これは本ちゃん用の橋脚ですね。
林:あの扉、ぜひお店とかになってほしいね。
大北:すごい。店になったら絶対行きたい。
八馬:これ一瞬すごいヒビ割れって思ったんですけど、表面の塗装が割れてるだけでしょうね。コンクリートってヒビ割れはしたくないんですよ。できるだけ。ヒビ割れしちゃうとそこから水が入ってきて鉄筋を腐食させたり悪さをするので。
林:あの長いかなり強引な金具。あれは?
八馬:あそこに装置を付けたいからですね。コンクリートに打ち付けるわけにはいかないから外側から挟んで締めてるんですね。なんて強引な。
林:デイリーの工作とでこういう無理な工作をやりますね。
大北:ガムテープでやるようなやつ…!!
いきなり錆びてる
八馬:さっきのサビサビのやつは仮の支柱ですね。
林:仮なのにこんなにさびちゃうんだ。
八馬:もしかすると始めからさびさせているのかもしれないです。耐候性鋼材っていうんですけど、それ以上錆びさせないためにわざとあえてはじめから錆びさせてるものがありますね。
林:新築のビルの建築現場で、鉄骨が最初から錆びていたのを見たんですが、のもそれですかね。
八馬:それかもしれないです。
林:ネジに白い線が書いてあるのは、回したやつがいないかわかるように?
八馬:現場の人に聞かないとわからないけど、きっちりしめたらここまでみたいな印なんでしょうね。振動とかで緩むことがあるんですよ。ボルトがゆるんだものを目視確認できるようにしているんじゃないですか。
林:すごい!組織図。こういう現場の。
八馬:すごい。
林:会長がいて。
大北:安全衛生管理者。書記もある。
林:一番下まで行って隣の紙につながってる。
八馬:伝わりにくいですよね。
林:掲示する義務があるんでしょうね。
大北:こんなにまじまじと見られるとは思ってなかったでしょうね…
八馬:これもすごいな。仮なのか本ちゃんなのか全くわからないですね。表面にメモが残ってましたよ。1200下げ。仕上がり。何のメモなんだろう。
林:仮じゃなくてできあがりですかね。
八馬:どうなんでしょうね。微妙な見た目ですよね。いつになったら工事が終わるんだろうか。
林:そして出来上がりがどういう状態かが。
八馬:まったくわからないですね。
大北:不条理小説みたいな状況ですね、渋谷。
八馬:この歩道橋はすごくきれいですね。
林:これは完成形ですね。
八馬:ですね。あとから信号機が追加できるようにリブが出てますね。縦にフィンみたいなのが出てるじゃないですか。すごいすごい。
大北:国立競技場とか曲面になってるものは新しいデザインなような気もするんですけど、そんな傾向はあるんですか?
八馬:人の動きを考えると曲げてあげた方が人は通りやすいんですよね。技術的なものとコスト的なものの兼ね合いでやってると思うんですけど、うまく作れたんでしょうね。
大北:普通はそこまで予算がないからカクカクになると。
八馬:土木の人は人に対してあまり優しくないから……いや、それは言い過ぎか。
大北:人じゃなかったら何に優しいんですか?
八馬:力学に基づく構造です。自然の方に優しいです。
大北:自然といっても木とか緑とかではなさそうですね。
八馬:例えば地震に強いとか、スパンを飛ばす方法を考える場合も重力に対して素直ですよね。そういう自然の、物理的な摂理に素直に従うというのが土木のエンジニアリング。だけど建築は人のための空間を作るということなので、そこらへんがうまく融合しているのがこういう橋だと思います。「建築的な考え方がうまく導入されている」という言い方ができるかも。
林:ここでいつも思っていたんですけど、高速道路の外側がアルミみたいにキラキラしてます。夜きれいなんですけど、なんでこんな光る素材にしたのかな。
八馬:確かに珍しいですよね。キラキラが重要なのかな、渋谷は。
今、渋谷がすごく仮っぽい
林:あと電線みたいなところ。キャンプの飾りみたいな。これは? 「上空施設物に注意」って書いてるのと関係ありますかね。
八馬:そうですね。ひっかけないようにという注意喚起のための旗ですよね。
林:寒冷前線みたい。
八馬:そういう意味ではこれも仮なんですよね。信号機も仮っぽいし。
林:仮っぽいですね。ほったて感はありますもんね。
大北:でもこの土台はめちゃめちゃしっかりしてますね。
八馬:ほんとですね。あれおかしいな。あんなにしっかりした土台って、橋脚が乗っかるぐらいですもんね。なんだろう。あるいは…。いやちょっとわからないな。渋谷のこんなに仮な世界だったとは知らなかったです。全体的に仮ですよね。
林:開発自体は2027年で完成らしいので。あと5年。
八馬:そのときにまた見に来ようか。完成しても未完成っぽさが残る感じがしますね。
林:これで終わり?みたいな。
八馬:こんなややこしい状態で放置するの?みたいな。
大北:楽しみになってきた…!!
八馬:これが有名なヒカリエですね。
林:この通路も散々動いたんですけど、これでFIXみたいで。
八馬:計画が右往左往した?
林:来るたびに通路の位置が変わってたんですよ。
八馬:この歩道橋すごいな。
林:すごいですか。
八馬:これはたぶんこれ(天井にある梁)が主構造ですね! 主構造が上にあって、上から吊り下げてるんだと思います。これは相当気合が入ってますね。ほんとに面白い構造。たぶんもう一回外に行けばわかるんですけど、ここの下の道路のクリアランス(すきま)が取れなかったんだと思うんです。通常だったら橋の下に梁(はり)が来るんですけど、高さを稼げなかった。
林:観光バスとか通れるように?
八馬:そういうことだと思います。
林:人が歩く面はぶら下がってるんだ。そういうのって設計する人が計画図を出した時に話題になったりするんですか?
八馬:これ話題になっていた気がしますね。渋谷に来ないから自分には関係ないと思っちゃったんでしょうね。
林:その手があったかって。
八馬:そう来たかって。今、これ取材を受けてる身でありながら僕が楽しんじゃってる格好になってますけど、
八馬:やっぱりそうですね。
林:下に何もない。
八馬:下のほうがすごい薄いですよね。上のでっかい梁で支えてる。
大北:あれってなんですか?
八馬:アンカーボルトの頭なんですけど、そこの柱の中にコンクリートが仕込まれてるわけですけど、そこにガツンと繋ぎ留めてるか、あるいは少し動きは許容していて、例えば地震があった時にずれて橋が落ちないようにする落橋防止装置かもしれない。
林:グラグラグラって来たときに落ちてしまう。
大北:ということはラーメン構造ではない。
八馬:そうですね。だいぶパネルで隠されちゃっているのでわかりづらいですけどラーメン構造ではないですね。これもなかなかトリッキーなものですね。
八馬:銀座線の橋脚、めっちゃかっこいいですね。
林:かっこいいですよね。
八馬:これかっこいいな。型枠ってご存知ですか? コンクリートを打つときの板なんですけど、小幅板という小さい幅のやつをすごく丁寧に繋いで丸みを出していますね。これはほんとに上手な施工をしている。
林:ウイスキーの樽みたいな感じ?
八馬:そうです。板を繋いで。
林:この型枠は何回も使えるものなんですか?
八馬: 1回で終わりです。木だから。
林:橋脚を入口にしてるんですよね。橋脚がすごく気に入ってるっぽい。ある日突然これができて「橋桁にそのまま『銀座線』って書いた!」と思ってびっくりした。
大北:ほんとだ。橋脚が看板になってるとも言える。
八馬:かっこいいですね~。
八馬:コンクリートを積極的に見せることってなかなかやらないですよね。
林:足元の照明がコンクリをそのまま照らしてますよ。
八馬:すごい気合が入ってますね。
林:これ(橋脚)を見ろと。
八馬:これを見ろと言ってますよね。型枠の跡が転写されてるんですよ。
林:木目だ。
大北:板にしてはなめらかじゃないですか。
八馬:しかも幅がそっちは狭いけどこっちが太いみたいな、ちゃんと曲面が作れるようになってますね。造船みたいな技術ですね。
八馬:型枠の中にコンクリートを打って、固まったら脱型(だっけい)と言って型を取る。すると型枠の模様が転写されるわけですよ。
林:見せるために作った。型がすごい大変ですね。
八馬:型枠大工さんっているんですけど、大工さんが丁寧な仕事をされた。それをやってくれという設計者、建築家の強い意思が入っているんだと思います。
林:そこまでして作ったなら、そのまま使おうと。
八馬:このコンクリートは隠すものじゃないから、という強い意思が見えますね。
林:趣味が出ていますね。
八馬:これは素晴らしいですね。
大北:なるほど、コンクリートなんだけど木の見た目をしてるんですね
八馬:だからコンクリートの表面って実態がないと言えば実態がないんです。転写されるものだから。この場合は、木を頼りにしたということですよね。
林:渋谷駅という文字も最低限という感じですよね。
八馬:余計なことするんじゃないって、東京メトロさんと協議をした結果こういうふうになったんでしょうね。話しながらなんとなく思い出してきたんだけど、建築家が内藤廣さんかもしれない。
(銀座線渋谷駅新駅舎の設計はメトロ開発が担当し、内藤廣建築設計事務所と東急設計コンサルタントが設計に協力)
林:有名な方が。
大北:すごいと思ったら実際有名なところが作ってるんだ…
後編につづきます
次回また渋谷の土木を見て歩きます