ウクライナ侵攻でSNSにあふれる「フェイクニュース」–騙されないための対策も

CNET Japan

 ロシアによるウクライナ侵攻は、“フェイクニュース”が戦略的に使われる情報戦となっている。同時に、統制されない情報の取得、発信のために、「Facebook」「Twitter」「Instagram」「YouTube」「TikTok」などのSNSが駆使されている。ウクライナ侵攻におけるSNSとフェイクニュースの今について見ていきたい。

情報統制で世論操作するロシア

 ロシアでは言論統制、情報統制が進んでいる。

 プーチン大統領は、ロシア軍に対するフェイクニュースを故意に拡散した場合、最高で150万ルーブル(約140万円)の罰金または最長で禁錮3年を科すとした、通称「フェイクニュース法」に署名。重大な結果を引き起こすフェイクニュースの場合、最長禁錮15年が科されることになる。

 この法律は外国人も対象となるため、ロシアに都合の悪い情報を報じた場合、この法律を口実に罰せられるリスクもあるというわけだ。そこでBBCやCNN、CBC、ブルームバーグなどのメディアは、ロシアでの記者の取材活動を停止させるなど影響を受けている。

 さらにロシアでは、国民が情報に自由にアクセスすることを防ぐため、多くのSNSを制限。同時に、フェイクニュースを発信することで世論を操作しようとしているのだ。

 テレビなどのメディア報道は、プーチン大統領の考えをそのまま発信するプロパガンダ一色のものとなっている。テレビだけを見ているロシア人の中には、ウクライナ侵攻を、テレビの言う通り「ウクライナ防衛戦」であると信じる人も多い。

 また、フェイクニュースが蔓延していることを逆手にとり、都合が悪いことは「フェイクニュース」としてごまかそうとしている。

 たとえばソブスン元ウクライナ教育・科学相がTwitterで「ウクライナ兵士が赤ん坊を救出。この子は幸運だった。他の28人の子供はロシア軍に殺された」というコメントとともに赤ちゃんを助けるウクライナ兵士の写真を投稿。

 ロシアのプーチン大統領は、このような住宅地への砲撃報道に対して、「ウクライナのプロパガンダであり、フェイクニュースだ。ウクライナ軍が住宅地に居座り民間人を盾にしているだけだ」と主張している。

蔓延するフェイクニュース

 このように、現状はフェイクニュースが蔓延し、正しい情報を見極めることが困難な状態となっている。

 「ウクライナの戦争はでっちあげで軍事侵攻など起きていない。民間人の犠牲者は俳優たちが演じているのだ」というフェイクニュースも広がった。そのデマの証拠として拡散された女性と男性が顔に血糊を塗る動画は、2020年のウクライナのテレビドラマで撮影されたものだ。

 軍服の男性と女性が泣きながら別れを惜しむ動画、「ウクライナの恋人たち」をSNSで見かけたことがある人もいるだろう。ウクライナの惨状を伝える感情に訴えたこの動画も、2017年に公開されたドキュメンタリー映像の流用だ。

 米調査会社ミトスラボによると、親ロシア派のプロパガンダを投稿、拡散するTwitterアカウントが去年12月に入ってから急激に増加。11月末までは58個だったが、約1カ月で約12倍の697個になったそうだ。

 フェイクニュースは、当初はロシア語が主流だったが、次第に世界における世論を意識した英語が大半を占めるようになっているという。

災害時に広がりやすいフェイクニュース

 もともとデマやフェイクニュースは、真実よりも拡散されやすいことが分かっている。中でも、人々の情動に訴える心を動かすものは、より一層拡散されやすくなる。

 Gordon Willard Allportの「流言(デマ)の公式」によると、デマの流布量は、「R(デマの流布量)=I(重要性)×A(曖昧さ)」という公式で表される。つまり重要で曖昧であるほどデマが広がりやすくなるということだ。

 大地震やコロナ禍などでも多くのデマが広がった。このような非常時は、命の危険を感じた人々が不安から情報を求め、あやふやな情報にも飛びつき、広めてしまうというわけだ。戦争の今もこの条件に当てはまり、多くのデマが広がっているのだ。

 さらに、ディープフェイク動画などもアプリで簡単に誰でも作れるようになっていることも、フェイクニュースの広がりを後押ししていると考えられるのだ。

世界に声を届け情報を得る手段としてのSNS

 前述のように、FacebookやTwitterなどのSNSは制限され、ネット上の情報統制も進んでいる。

 しかし、ロシアの若者は「Telegram(テレグラム)」を使ってやり取りしたり、国外のサーバーを経由させるVPNアプリを使ってFacebookやTwitterなどのSNSにもアクセス、情報を得ているという。テレグラムとは、メッセージが暗号化され、一定時間で消える機能もあり、秘匿性の高いやり取りに使われるメッセージアプリだ。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は、Twitter、Facebook、Instagramなど多くのSNSを活用してメッセージを発信。メッセージを英語でも発信することで、世界に向けてメッセージを伝えている。Instagramには大統領府内で撮った写真を投稿、自身が逃げずにとどまっていることを示している。

 ウクライナ政府は、侵攻が始まった直後の2月、市民の協力でロシア軍の位置情報を把握するため、テレグラムに「ロシアの戦争を止めろ」という専用窓口を設けている。ウクライナ市民は、SNSを活用してウクライナ軍を支援。ロシア軍の戦車や部隊の位置をウクライナ軍に伝えたり、SNS上で公開することで、ロシア軍に対抗しているという。

 「アラブの春」などの世界の革命で、SNSは活用されてきた。同様にウクライナ侵攻でも、SNSは国民たちが情報を発信したり、やり取りしたり、情報を得るための貴重な場ともなっているのだ。

フェイクニュースに騙されないために

 フェイクニュース対策として、プラットフォーム側も対策を始めている。Twitterは対策として、ユーザーがファクトチェックしてツイートに注釈を付けられるサービス「Birdwatch」をスタート。

 Facebookでは、フェイクニュースが拡散しないよう投稿の監視を強化。ロシアの国営メディアなどの4つのアカウントの投稿に対してファクトチェック、警告をつけている。運営会社のメタはロシア当局からファクトチェックなどの対応中止を命じられたが、拒否。ロシア当局は、規制は検閲にあたり違法だとして、国内におけるFacebookへのアクセス制限措置をとっている。

 広がるフェイクニュースには、自国を有利に導くためのもの、他国を貶めるためのものなどが多く混じっており、見ただけでは本当かどうかわからないものも多い。

 気になる情報がSNSなどで流れてきても、すぐに反応するのではなく、発信者が信頼できるかどうか確認するといいだろう。過去に同じ動画や画像が投稿されていることもあるので、画像検索なども有効だ。本当かどうかはっきりしないものは、シェアなどしないようにしてほしい。

高橋暁子

ITジャーナリスト、成蹊大学客員教授。SNS、10代のネット利用、情報モラルリテラシーが専門。スマホやインターネット関連の事件やトラブル、ICT教育に詳しい。執筆・講演・メディア出演・監修などを手掛ける。教育出版中学国語教科書にコラム 掲載中。元小学校教員。

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