米国テクノロジー株 「20%下落」の罠

アゴラ 言論プラットフォーム

北米は決算ピークを過ぎようとしていますが、今回の決算シーズンの最大の着目点は「20%下落」をしたテクノロジー株が続出した点でしょう。フェイスブック、ネットフリックス、エアロバイクのペロトン、音楽のスポティファイをはじめ多数の銘柄で決算発表翌日に決まったように20%以上下落したのです。

北米株には値幅制限はありませんので上がるも落ちるも市場次第ですが、なぜか20数%下落という仕打ちが発生しています。過去にもありましたが、今回は特に目立つ気がします。なぜでしょうか?

決算発表だけ見れば増収だけど減益、利益は増えているけれど内容がよくないなど講釈はいろいろつくのですが、最終的には投資家やファンドは次の期を含む先行きの見通しを会社側の発表とは別に分析し、独自の判断を下した結果、それがとても将来性にネガティブということかと思います。この分析がコンピューターの解析を含め、異様に早く出来、それが市場の動静を決めているように感じます。

marvinh/iStock

ではなぜ、ハイテク銘柄に「20%のお仕置き」が多いのでしょうか?

個人的にはハイテク株の運命なのだと思っています。新しいサービスに人は飛びつきます。特に若い世代はそのアンテナ力が高く、ワードオブマウス(口コミ)で瞬く間にそのマーケットに浸透していきます。いわゆるアーリーアダプター(初期採用層)が先駆し、アーリーマジョリティ、レイトマジョリティ、ラガードとなるのはマーケティングをかじっている方の常識です。

ただ、アーリーアダプターは流行に敏感であるゆえに他社が似たようなサービスをするとそちらに浮気しやすく、一つのサービスで長続きしない傾向があります。企業から見ると顧客としては上客にならないタイプです。通常であれば、新製品や新サービスが発表されてからライバルが出現し、ブルーオーシャンからレッドオーシャンになるまでに少なくともレイトマジョリティぐらいまでは拾い上げ、企業の優良顧客となるマジョリティ層として定着する時間的余裕があったのです。

ところが近年はどの企業も新しいトレンドやサービス探しに血眼となっており、誰かがなにか新しいことをすれば数か月後にはほぼ誰かライバルが出現している状態です。このポイントは技術的な独自性ではなく、「サービスの開拓」であるためライバルからすれば「あぁ、そうか、これがあったんだ」ということになるのです。

たとえばフェイスブックは初期に市場を席捲、そのあといくつかのライバルが出現し共存をしながらも年代別で顧客層が変わるという流れを踏みました。これはマジョリティ層がフェイスブックのSNSを支えたからです。その後加わった写真や動画のSNSは人々を虜にしましたが動画はフェイスブック傘下のインスタではなくティクトックが圧倒する勢いです。その点で、同社は典型的なハイテク株の罠にかかっているのです。

私は今年の予想でGAFAの入れ替えが起きると述べました。落ちるのがメタ(フェイスブック)とアマゾン、新規にテスラとエヌビディアとしました。理由はメタ、アマゾンとも斬新さがなく、テスラ、エヌビディアのような追随が難しい技術を持たないからです。メタにはメタバースがあるじゃないか、とおっしゃると思いますが、メタバースは誰もまともに市場で利益を得ていない今の時点で既にレッドオーシャン化しており、かつてない過激なマーケティングになることが確実です。メタが主導権を握る可能性があるとは現時点では言えないのです。

アマゾンも既にビジネスモデルに何も面白みがありません。ただ、図体がでかくなっただけです。私は3年前に日本の出版会社でアマゾンを打倒するといって笑われたとお話ししたと思います。今、日本の書籍をカナダで購入するなら私のところならアマゾンより早く、アマゾンより安く提供できるケースが相当あります。なぜかといえばオンラインショッピングは今では珍しいツールではなく、私どもはアマゾンのような人件費も倉庫代も宣伝広告も経費もかからないからです。私は3年前にウソを言ったわけではなく、そうなることを見据えていただけの話です。

もう一つはこの傾向はアメリカだからこそ起きる点も重要です。つまり国民性であり、スタートアップを応援するという気持ちが強いのです。日本はそこが弱くてアメリカより周回遅れで、アメリカでレイトマジョリティが動き始めた時、ようやく日本でも動くというぐらいの感覚です。

更にもう一点加えるとすればイエレン財務長官の言葉を借りたいと思います。それは「コロナでサービスからモノへ逆シフトした」ことかと思います。この20年、世の中はサービス産業が主体でした。ところがコロナになり、様々な制約が発生、モノ消費に逆シフトし、そこで生産が追い付かなくなったわけです。私もこの意見に同意します。とすればサービスへの過剰な期待は剥離するとも言えます。もちろん、コロナから解放されれば再びサービス主流に戻るはずですが、そうなれば室内自転車もオンライン会議も頭打ちになるとも言えます。

テクノロジー株にはもうしばしの試練があるのかもしれません。それ以上に我々は既に便利すぎる社会にいることを実感しています。そしてアメリカの先進企業はひょっとすると消費者が望まない、あるいは追い付かないレベルまで進化していて消費者に押し付けているようにも感じることも無きにしも非ず、です。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年2月7日の記事より転載させていただきました。