LINEの友だち全削除も–「人間関係リセット症候群」に陥りやすい若者たち

CNET Japan

 「人間関係リセット症候群」をご存知だろうか。皆さんの中にも、「人間関係をリセットして、誰も自分を知らない世界に行きたい」と考えたことがある人はいるだろう。このような心理に陥ったときに、実際にオンライン・オフラインの関係性を絶ってしまう人を指す言葉だ。

 いまの時代にはこのような状態に陥りやすい条件が整っており、若者の中には実際に行動に移してしまう人も少なくない。人間関係リセット症候群の背景と実態、リスクについて解説したい。

突然オン・オフすべての関係を断つ

 「それまで仲良くしていたのに、いきなりLINEから消えていて。自分が何かしたのかと心配になったけれど思い当たらなくて、共通の友人に聞いたら、切られたのは自分だけじゃないことがわかった」と、大学時代の友だちがLINEから消えた経験があるというある女性はいう。「悲しいし寂しいし残念な気持ちになった。元気でいてくれたらいいけど」

 筆者も、過去に何度もアカウントを作り直す知り合いがいた。いきなり消えていたので心配したが、しばらく時間が経つと新しいアカウントで復活しており、しかもそれが一度ではなかった。定期的にそのような行為をする人だったのだ。

 アカウントが新しくなっても気にせず友達申請する人もいる一方で、切れたら切れたままで二度とつながらない人もいた。きっと、人間関係がリセットできるメリットがあるのだろうと感じた。追い詰められていたのかもしれないが、相手を振り回す自分勝手な行為とも感じたものだ。

 人間関係リセット症候群になると、どのような行動に出るのか。SNSのアカウント削除、LINEの友だち削除、スマホの連絡先消去などを経て、音信不通になることが多い。引っ越しや転職をして人間関係を絶つケースもあるが、逆に進学や転職などをきっかけに連絡を断つケースもある。前述のように、関係を断つのは親しい相手も含まれる。切られた側は傷つくし、理由がわからずに悩んでしまう人も多い。

人間関係のストレスから逃れるためのリセットか

 このようなことをする人たちを、「人間関係もゲームと同じようにリセットできると考えているのでは」と非難する人もいる。画面の向こうには生身の人間がいることを正しく捉えられず、削除やブロックすればリセットできると考えている可能性もある。逆に、人間関係にストレスを感じやすい人が、ストレスから逃れるため、自衛のために削除しているという人もいる。

 LINEで行われる「ブロック大会」をご存知だろうか。「LINEが重くなったから友だち整理する」などの名目で、「ブロック大会します。ブロックされたくない人は、この投稿に『いいね』してね」などの投稿をすることだ。

 自分がブロックされる側になりたくない、する側になって人間関係を快適にコントロールしたいという心理で行う行為と考えられる。むしろブロックされたり切られたりすることを恐れる人がブロックしたり切ったりする側になることがあるが、これと似た心理とも考えられる。

人間関係のオンライン化が影響も

 この背景には、人間関係リセットがしやすくなったこともある。そもそも若者の場合、リアル友達でもお互いに電話番号やメールアドレスを知らず、SNSでのみつながっていることが多い。SNSでブロックしたり友だちから削除すれば、人間関係が切りやすい状況なのだ。

 人がスムーズかつ安定的につながれる数は150人が限界(ダンバー数)と言われており、私たちはSNSによってつながりすぎている。このつながりすぎたことへの反動もあるだろう。

 いまは多くの人がSNSで1人1アカウントを所持しており、いつでもどこでも他人の視線にさらされ続けている。「LINEの返事はこないのにTwitter/Instagramに投稿している」「自分には『いいね』しないのにあの人にはしている」「仲間内で自分だけ遊びに誘われていない」などの行為が筒抜けとなり、その結果、ストレスに苛まれることになる。

 コロナ禍でリアルの交流が大幅に減り、人間関係の多くがオンライン化した。リアルな出会いは減り、SNSやマッチングアプリで出会い、交流となった。対面でお喋りすることが減り、SNSでコメントしたり、動画配信で配信者にチャットしたり、オンラインゲームのボイスチャットでのお喋りが、若者の日常におけるコミュニケーションの多くを占めるようになった。

 人間関係のリセット行為が若者に目立つことには、コロナ禍で人間関係のオンライン化が進み、コロナ禍でストレスが高まったことも影響している可能性がある。

 本当に追い詰められている場合は、リセットも悪いことではない。しかし当然、弊害もある。リセットを繰り返すことで信頼できる人間関係を構築できず、孤独に陥り、本音が言える友達がいない状態となってしまうのだ。特に若いうちは、生涯続く人間関係を築く大切な準備期間でもある。安易に切るだけでなく、相手と仲直りしたり、関係を再構築することも選択肢に入れるといいのではないだろうか。

高橋暁子

ITジャーナリスト、成蹊大学客員教授。SNS、10代のネット利用、情報モラルリテラシーが専門。スマホやインターネット関連の事件やトラブル、ICT教育に詳しい。執筆・講演・メディア出演・監修などを手掛ける。教育出版中学国語教科書にコラム 掲載中。元小学校教員。

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