オーストリア国民議会は20日午後7時(日本時間21日午前3時)、ネハンマー政権(保守党「国民党」と「緑の党」の連立)が提出した新型コロナウイルスへのワクチン接種を義務化する法案を賛成多数(賛成137票、反対33票)で可決した。医療関係者や教師など職種別のワクチン接種義務化を施行する国はあるが、18歳以上の全国民を対象とするワクチン接種義務化は欧州では初めて。ドイツなど他国もワクチン接種の義務化を施行する方向で検討しているだけに、オーストリアのワクチン接種義務化の動向に強い関心を寄せている。
オーストリアのシャレンベルク前首相が昨年11月19日、ワクチン接種の義務化を実施すると表明して以来、国内では与・野党間の協議、専門家を含めた議論を重ねてきた。ワクチン接種義務化法案の対象はオーストリアに住む18歳以上の全国民で、例外は妊婦や特別な疾患を有している国民のほか、コロナ感染から回復した国民は6カ月間、ワクチン接種は猶予される。ただし、妊婦の場合、出産後、翌月末からワクチン接種の義務対象に入る。
初期の草案では14歳以上の国民が対象となっていたが、リベラル政党「ネオス」が18歳以上と主張し、最終的に義務化の年齢を引き上げることになった。同法案は連邦議会が承認した後、2月上旬から施行される。
未接種者は保健省からワクチン接種のリクエストを受ける。必須の予防接種には、最初の予防接種、2回目の予防接種(最初の予防接種から14日以上42日以内)、および3回目の予防接種(事前予防接種後120日以上270日以内)が含まれる。未接種者に対しては3カ月(Inpfstichtage)ごとに600ユーロ(約7万8000円)の罰金が科せられる。最高の罰金は年間3600ユーロになる。18歳以上の国民で予防接種を受けていない国民は2月15日、保健当局からワクチン接種の要請を受ける。3月15日以降、ワクチンを受けていない国民は罰金が科せられる。罰則は、地区の行政当局によって発行される。
国民議会に提出されるまでには、様々なハードルがあったが、野党の社会民主党(SPO)と「ネオス」がワクチン接種の義務化法案を支持したことが大きかった。野党では極右政党「自由党」だけがワクチン接種義務化に反対し、毎週、ウィーンなどで数万人を動員した抗議デモ集会を行ってきた。
同党のキックル党首は20日、議会で「恐ろしく、唖然とし、ショックを受けている。ワクチン接種の義務化は国民への暗殺テロだ。国民を奴隷に格下げするものだ。全体主義への道を開くものだ」と批判した。議会の外ではワクチン接種義務化法案に反対する市民がデモを行った。
同法がスムーズに実行されるかは不明だ。国民の健康保険証を管理する連邦・州の社会保険会社(ELGA会社)は、「技術的な問題があって2月1日からの施行は難しい。早くても4月初めからになる。国の予防接種登録簿を介した強制予防接種の技術的実施をカバーするためには時間がかかるからだ」と説明し、政府の「2月からの実施」に疑問を投げかけてきた。また、ワクチン接種義務化に伴う訴訟の増加が予想されることから、裁判所の人材と財源確保の必要性が指摘されている。
ネハンマー首相は、「5度目のロックダウン(都市封鎖)を回避するためにはワクチン接種率を高める以外にない。ワクチン接種は自分の健康のためだけではなく、他者、社会の為に必要だ」と国民に連帯をアピールした。
同国でもオミクロン株の新規感染者が急増、19日には2万7677人を超え、過去最多を更新した。20日時点のオーストリアのワクチン接種率は1回接種率75.5%、2回完了75.1%だ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年1月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。